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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
始まりの心音

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第二話 ここにいるのに、触れられない【後編】


 放課後。


 昇降口に生徒たちの笑い声が響く。

 僕たちだけが、静かだった。

 

「帰ろう、颯」

 

「……んー」

 

 気の抜けた返事。

 颯はE組に行った後から、どこか遠くにいるみたいだった。

 

 昇降口で靴を履き替えていると、


「白瀬くん、さようなら」


 斎賀さいが先生に、声をかけられた。


「帰り、気をつけてね。

 

 ――今日は特に、風が強いから」


「はい。さようなら」


 僕は軽く会釈した。

 

 重い足取りで校門を抜ける。

 胸の奥が、ざわついた。


 その時――


 ギィィ…ッ!

 

 僕の視界に滑り込んできた、あの赤色。

 

「あ!」

 

 思わず声を上げ、僕はそのまま駆け出した。

 

「おい!何だよ急に!」

 

「あの赤い車だよ……!」


 赤い車が、細い路地に滑り込む。

 街灯の下で、ぴたりと止まった。


「おい、柊!運転席ぶっ叩くぞ!」

 

「待って……その前にナンバー……」


 ブレザーのポケットからスマホを取り出して構える。


「よ、読めない……!?影みたいなのが……!?」

 

 ナンバープレートの数字が黒いモヤに包まれて揺れていた。

 

「おい!てめぇ!」


 颯が運転席の方へ一歩踏み出したその瞬間――


 バン!!


 運転席が勢いよく開いた。


 その中から、真っ黒な影が伸びてくる。

 ぐにゃりと歪んだ人の顔が、影にいくつも張り付いていた。


「うおっ!?きもっ!!」


 颯は反射的に空中を蹴り、後方に飛んで避けた。

 影は人の手の形となって、逃げる颯を追いかける。


「……っぶねぇな!何だ今の!?」


「わ、分からない。でも、人じゃないのは確か……!」


 バン!

 バン!!


 次の瞬間、車のドアが全て同時に開いた。

 助手席からも後部座席からも、黒い影が雪崩のように溢れ出す。


「颯、危ない!!」


 捕まる……!

 

「うおっ!?……あれ?おい!柊!

 こいつら、俺に触れねーみてぇだぞ!?」


 影は颯の身体をすり抜けていく。


「でもよ!俺も触れねぇわ!」


 颯の拳も、すり抜けて空を叩いた。

 

 影の動きが止まる。

 

 ――次の瞬間。

 

「……ひっ!!」


 陰が、僕の方へ向いた。


「おい!避けろ!!」


 避けられるわけがない。

 

 僕は影に足元を掴まれ、凄まじい力で車へと引きずられた。

 

「うわあああああ!」

 

「何してんだ、バカ!」


 颯が僕に手を伸ばす。


 僕も手を伸ばした。

 

 届く……!

 

 ――掴めない。


「クソ!」


「颯!逃げろーー!!」


 叫びと共に、僕は影の塊の中へ引きずり込まれた。

 

 ――真っ暗な闇。

 光も、音もない。

 

 重たい石で、胸を押し潰されているかのような圧迫感。


『お前だけ助かるな……』


『もっと生きたかったのに……』


『痛い……痛いよ……』


 無数の声が、頭の中に響いてくる。

 同時に頭の中に映像が流れてきた。


 クラクション。

 迫るヘッドライト。

 砕けたガラス。


 ――嫌というほど、覚えがあった。


「……ううっ……」


 息が苦しい。このまま飲まれる。

 

 僕も死ぬんだ。


 仕方ない。

 僕は生きていても、誰かを傷つける。


 死を覚悟した。その時。


「……兄貴ぃ!!!」


 颯の叫びが耳に届いた。

 

「は、やて…?」


 僕が死んだら、颯はどうなる?

 

 僕しか知らない、僕にしか見えない。

 

 ――僕が守らなくて、誰が颯を守るんだ。

 

 僕は、君を守れるようになるって、決めたんだった。


「颯ーーーっ!!」


 叫んだ瞬間、白銀の閃光が視界を裂いた。

 その光が、一直線に僕の胸に突き刺さる。

 

 身体が熱い。

 血液が燃えるように全身を巡る。

 

 心臓が――二つ、脈動した。


 その鼓動は、確かに“僕のもの”だけではなかった。


※次回更新:1月5日7時

第三話 守るって、決めてた【前編】

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