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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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第三百七十二話 生かさず、消さず


 ***


 Side:奏


 ——暗い。

 

 足元が真っ黒で、段差が見えない。


 ポゥッ。


 掌に霊力を灯した。

 青白い光が、じんわりと周囲を照らす。


「……行きましょう」


「うん」


 伊吹さんが頷く。


『……苦しい……』


 ——やっぱり、聞こえる。


『……助けて……』


 階段を降りるにつれて、声が大きくなっていく。


 助けを、求めてる。


「……伊吹さんにも、聞こえますか?」

 

「……うん。今は、はっきり聞こえる」


 階段を降りきると、廊下らしき場所に出た。


 照明はない。

 掌に灯した光だけが頼りだ。

 

 ただ——強い霊力を感じる。

 

 それなのに、どこか不自然だった。

 いくつもの霊力が、入り混じっている。


 ゆっくりと右側を向いた。


「……牢屋?」


 鉄格子の扉。

 手を伸ばして触れると、冷えた鉄の感覚が指先に伝った。


『……あ……』


 鉄格子の向こうに、何かがいる。

 

 反射的に、伸ばした手を引っ込めた。


 霊だ。


 それも、一体や二体じゃない。


 いくつもの牢の中に、霊たちが囚われていた。


「伊吹さん、あれ……!」


 どの霊も、ひどく衰弱している。


 その身体には、太い鎖が巻きつけられていた。


 さらに、

 鎖とは別に、半透明の管のようなものが繋がっている。


「……うん」


 伊吹さんも、牢の中を見つめていた。


 その時。


『……う……っ』


 目の前の霊が、小さく呻いた。


 身体に繋がれた管が、青白く光る。


「……え?」


 目を凝らすと、

 霊の身体から、淡い光が管の中へ流れ込んでいた。


 少しずつ。


 少しずつ。


 その光は、管を通って天井へと吸い上げられていく。


「……吸い取られてる……?」


「……そうみたいだね」


 伊吹さんが眉尻を下げた。


『……あ……あぁ……』


 目の前の霊が、苦しげに声を漏らした。


 身体の輪郭が、ゆっくりと薄くなっていく。


「……っ!?」


 ——消えちゃう!


「伊吹さん!この霊、消えちゃいます!」


「えっ!?」


 伊吹さんが、慌てて鉄格子に駆け寄った。


「大丈夫!?」


 返事はない。


 霊の身体は、今にも消えてしまいそうなほど透けていた。


「……どうしよう……!」


 伊吹さんが私の顔を見た。


 その瞬間。


 カチッ。


 管の光が、ふっと消えた。

 

「……止まった?」


 ——壊れたの?


 しばらくすると、霊の身体がほんの少しだけ濃くなった。


「……良かった……」


 私は胸を撫で下ろした。


 けれど。


 ブン……。


 管が、再び青白く光った。


『……う……っ!』


 霊が、苦しげに身をよじる。

 その身体から、再び光が奪われていく。

 

 ——また、奪うの……!?


「……消えないように、止めてるんだ」


 伊吹さんが低い声で呟いた。


 ——回復するのを待って、また奪う。

 そんなの、まるで。


「拷問じゃないですか……!」


 もう一度、牢の中へ目を向ける。


 右からも。

 左からも。


 苦しげな声が聞こえる。


 私は、奥歯を噛み締めた。


「……伊吹さん。

 私たちの霊力を付与しましょう」


 そうすれば、

 あの霊たちが鎖を壊すことができるかもしれない。


「でも、奏ちゃん」


 伊吹さんが、牢の奥を指差した。


「あの鎖、見て」


「……え?」


 目を凝らす。


 霊たちの身体に巻きつけられた鎖。

 その表面に、細かな紋様が刻まれている。


 どこかで見たことがあるような紋様。


 ——そうだ。


 前に、柊くんのお腹にあった封印。

 あれも、霧島家の術だった。

 

「……霧島家の封印……?」

 

「わからないけど……。

 もしかしたら……あの術で、霊たちの霊力操作を封印してるのかも」

 

「だから、抵抗できないってことですか?」


「その可能性はあるよね。

 あの麗子ちゃんですら……簡単に逃げ出せなかったんだから」


 目の前で、また一体の霊が苦しげに呻く。


『……たす……けて……』


「……!」


 みんな鎖に繋がれ、誰一人として動けない。

 それだけでもひどいのに、霊力を奪われ続けている。


 私は、鉄格子を握り締めた。


「……必ず、助けます」


 ——こんなところに、置いていけない。

 

「……壊しましょう」


 錠前がついた扉の取っ手を掴み、力いっぱい引いた。


 ガチャガチャッ!!


「……っ!」


 びくともしない。


 こんなに近くにいるのに。

 手が、届かない。


「奏ちゃん!代わって!」


 伊吹さんが、鉄格子に手をかけた。


「……ふんっ!」


 力いっぱい引っ張る。


 ガシャンッ!!


 扉が大きく揺れた。


 けれど、開かない。


「仕方ない」


 伊吹さんが、リュックから弁当箱を取り出した。


「霊力を増やして、一気に扉を壊そう」


「……待ってください!」


 私は、伊吹さんを止めた。


 ここで無理に霊力をぶつけたら、霊たちまで巻き込んでしまうかもしれない。


「……中にいる霊たちが……」


「……そうだよね」


 伊吹さんは、錠前へ視線を向けた。

 

「じゃあ、あそこだけ狙う」


 弁当箱を開け、急いでご飯を口に運ぶ。


「本当に、錠前だけを狙えますか?」

 

「うん。絶対に外さない」


 伊吹さんが顔を上げた。


「ボクならできる」


 まるで、自分に言い聞かせるような口調だった。


 ——『僕、天才だから⭐︎』


 ……あの人も、こんなふうに言い切っていた。


「行くよ!」


 伊吹さんが錠前へ掌を向けた、その時。


 ヒュッ!


「——伊吹さん!!」


 伊吹さんが、咄嗟に身体を引く。


 ガキィンッ!!


 鋭い刃が伊吹さんの目の前を掠め、鉄格子に弾かれた。


「……っ!?」


 ——ダガーナイフ!?

 

 赤い霊力を纏った刃。


 鎖のついた短剣が、床へ落ちた。


 ジャラ……。


 鎖が、暗闇の奥へと伸びていた。


 ——知っている霊力に似ている。


 でも、どこか違う。


 私は、鎖の先を見つめた。


「……誰ですか!?」


 返事の代わりに、鎖が勢いよく引かれた。


 短剣が暗闇へと戻っていく。


 そして。


「……やっと俺の出番ってわけか」


 闇の向こうから、声がした。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:11月6日21時

第三百七十三話 タイトル未定

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