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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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第三百七十話 その刃の向く先


 一閃。

 暮羽さんの刀が、正面の蔦をまとめて斬り裂いた。

 

 ——速い!!

 

 暮羽さんの姿が消える。

 

 いや、違う。

 目で追えないほど、速く……!

 

「……くっ!!」

 

 ミラが後方へ飛ぶ。

 

 ザシュッ!!

 

「……ッ!!」

 

 暮羽さんの刃が、ミラの左肩を斬り裂いた。

 赤い着物が裂け、その下から血が滲んだ。

 

「……おのれ!!」

 

 ミラが着地すると同時に、蔦を伸ばした。

 

 蔦が暮羽さんの足首へ絡みつく。

 

 だが——。

 

 ブチィッ!!

 

 暮羽さんは、そのまま踏み込んだ。

 

 蔦が千切れる。

 

「……何じゃと!?」

 

 ミラの表情が変わった。

 

 暮羽さんが刀を振り上げる。

 

 蔦が幾重にも重なり、ミラの前に壁を作った。

 

「はあああっ!!」

 

 ズバァァンッ!!


 暮羽さんの霊刀が、蔦の壁を斬り裂いた。

 

 その勢いのまま、暮羽さんが踏み込む。

 

「……っ!!」

 

 ミラが刀を避けようと後退した。


 キラッ!


 蔦の屋根にできたわずかな隙間から、

 青白い光をまとった宝石が落ちた。


「……っ!」


 咄嗟に避けようとして、ミラの体勢がわずかに崩れる。


「今よ!!」

 

 桃華さんの叫びと同時に、

 桃色の霊力が僕たちへ向かって飛んできた。

 

「……っ!!」

 

 指先の痺れが消える。

 胸を締めつけていた苦しさが、薄れていく。

 

「柊!!」

 

『うん!!』

 

 ——一瞬だけ。

 

 この一瞬に、全部をかける!!

 

 颯が地面を蹴った。

 

 さっきまで動かなかった身体が、思いどおりに動いている。

 

「……くっ!!」

 

 ミラがこちらを向いた。

 

 足元から蔦が伸びる。


「遅ぇ!!」

 

 颯が横へ跳んだ。

 

 蔦をかわし、そのままミラの懐へ飛び込む。

 

 ——右拳。

 

 霊力を集める。

 

 今までよりも、ずっと強く。

 だけど、力任せじゃない。

 

 颯の動きに、合わせる。

 

「……お主ら!!」

 

 ミラが腕を上げた。

 防ごうとしている。

 

 だけど、もう遅い。

 

「柊!!」

 

『うん!!』

 

 右拳に乗せた青白い霊力が、旋回する。

 

 そこへ、

 颯の風が重なった。

 

 ——これで!!

 

「旋霊拳——!!」

 

 颯が拳を振り抜いた。


「疾風!!」


 拳が、ミラの腹部を捉えた。

 

 瞬間。

 

 ドゴォォォォン!!

 

 霊力と風が、一気に弾けた。

 

「……がっ……!!」

 

 衝撃が、背後へ突き抜ける。

 

 周囲の蔦が、一斉に揺れた。

 

「……ッ、ぐ……!!」

 

 ミラの身体が後方へ吹き飛ぶ。

 

 ドガァァァン!!

 

 地面へ叩きつけられた。

 

 砂埃が舞う。

 

「……はぁ……はぁ……!」

 

 颯が拳を下ろした。

 

 ——当たった。

 今度こそ。

 

「……やった……?」

 

 桃華さんの声が聞こえた。

 

 砂埃の向こうで、ミラが片腕を地面についた。

 

「……おのれ……」

 

 よろよろと、身体を起こす。


「まだ、立つのかよ……っ」

 

 ミラの足元に伸びていた数本の蔦が、力なく垂れ下がる。

 

 ——さっきまでのような勢いはない。

 

「……この、わしを……」

 

 ミラが、僕たちを睨んだ。

 

 その時。

 

 ドクン!!

 

「……え?」

 

 背後から、異様な霊力が膨れ上がった。

 振り返る。

 

「……はぁ……はぁ……!!」

 

 暮羽さんが、刀を握り締めていた。

 赤い霊力が身体から溢れている。

 

「……暮羽さん……?」

 

 返事がない。


「うっ!!」

 

 暮羽さんの肩が、大きく跳ねた。

 

「……っ、ぐ……!!」

 

 刀を持つ腕が、震え始める。

 

「暮羽!!」

 

 桃華さんが駆け寄ろうとした。


 暮羽さんの腕が、わずかに下がりかけた。


「……っ!」

 

 ぴたりと、止まった。

 

「違う……!」

 

 暮羽さんの震える指が、柄を強く握り締める。

 

「来るな……!!」

 

 暮羽さんが叫んだ。

 

「……私に……近づくな……!!」

 

 ——どうしたんだ……!?

 

 暮羽さんの瞳が、僕たちを捉える。

 

 赤い霊力が、さらに膨れ上がった。

 

「……なるほどのう」

 

 ミラは、足元の蔦へ手を伸ばした。

 蔦がミラの身体に絡みつく。


「そういうことか。

 あの男……侮れんな」


 蔦が、ミラの身体を空高く持ち上げた。


「待て!!」

 

 颯が叫んだ。


「お主らの相手は、もうわしではないようじゃ」


 ドームの天井で、蔦が動く。

 まるで入り口が開くように、小さな穴が空いた。

 

「せいぜい楽しむがよい」


「逃げんな!!」


 だが、届かない。


 ミラの姿が、蔦の向こうへ消える。


「柊!追うか!?」

 

 その時。

 

「……ぐああああっ!!」

 

 暮羽さんの悲鳴が響いた。

 

 ブワァッ!!

 

 赤い霊力が、周囲へ噴き出す。


「今度は何だよ!?」

 

『颯!暮羽さんが……!』

 

 霊刀が、ゆっくりと持ち上がる。

 

 その切っ先が向けられたのは——。

 僕たちだった。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:11月4日21時

三百七十一話 タイトル未定

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