第三百六十九話 あなたを守れるなら
***
第二研究所。裏口。
Side:柊
「白瀬柊!白瀬颯!!」
桃華さんが叫んだ。
同時に桃色の光が僕へ向かって飛ぶ。
「……あ……!」
——桃色の霊力。
呼吸が、一気に楽になる。
指先に感覚が戻ってきた。
それでも、身体の重さは消えない。
「っしゃ!!」
颯が立ち上がった。
「……研究所の中で、しくじりおったな」
ミラが目を細めた。
動きを止めていた蔦が、動き出す。
——動きが見える。
右、左。
蔦の間を縫って、ミラへ走った。
「旋霊拳——」
右拳に、力を込める。
「速い……!?」
至近距離で、ミラが目を見開いた。
——いける。
「祓撃!!」
バァァァンッ!!
ミラの左頬に、拳をねじ込んだ。
「……ッッ!!」
ミラの身体が宙を舞う。
「……おのれ……!」
ミラが空中で体勢を戻す。
そう簡単にはいかないか……!
『颯!次来る!!』
「わかってる!!」
颯が拳を構えた。
ミラが掌を突き出す。
蔦の壁に咲いていた薔薇の花弁が一斉に飛んだ。
鋭い牙となり、僕たちへ向かってくる。
『多い!』
避けられない!
颯が腕を顔の前で交差させようとした、
その時——。
僕たちの横を、影が通り過ぎた。
キンッ!キィンッ!!
暮羽さんだった。
霊刀が薔薇の花弁を弾く。
「行け!!」
暮羽さんが叫んだ。
「……サンキュ!!」
地面を蹴る。
「小癪な」
ミラもこちらへ駆け出していた。
——蹴りが来る!
「柊!!」
『うん!!』
右足に霊力を集めた。
しかし——
地面から、蔦が生えた。
「うおっ!!」
颯が身体を横へ反らした、次の瞬間。
「視野が狭い」
視界の左端に、ミラの足が見えた。
「っ!!」
ガキッ!!
咄嗟に腕で防いだ。
……ミシ。
霊力の膜が軋む。
「はっ」
ミラが笑った。
『颯!』
ミラが素早く身体を捻る。
バキィッ!!
今度は右側から、
ミラの蹴りが横腹へ入った。
「……ぐっ……!」
身体が横へ流される。
また蔦が向かってくる。
息を吐く間がない……!
ズバッ!ズバッ!!
暮羽さんが僕たちの前へ滑り込み、
ミラの蔦を切り刻んだ。
「体勢を立て直せ!!」
「……っ、おう!!」
足を踏ん張り、
ミラの方へと身体を向けた。
ブワァッ!!
「……あ……!?」
——また、あの香り。
「息を止めなさい!!」
桃華さんの声が聞こえた。
すぐさま口を閉じたが——
「……クソ……ッ!!」
視界が歪む。
間に合わなかった。
また、毒が身体を巡る。
「わしの花園からは逃げられぬ」
「……はぁ……はぁ……」
暮羽さんの呼吸も乱れている。
桃華さんに回復してもらうか!?
でも、解毒したところで繰り返しだ。
この花園を何とかしないと……!
「……白瀬兄弟!!」
暮羽さんが、震える足で刀を構えた。
「私が隙を作る!!」
「隙……ねぇ?」
ミラの背後で、蔦が揺らめく。
「桃華様の霊力も残り少ないのです!
もう何度も解毒はできない!!」
『そんな……!』
「桃華様!!
二人がミラへ踏み込む直前に、解毒をお願いします!」
「わかったわ!」
「次の一撃で決めろ!!」
暮羽さんが地面を蹴った。
——チャンスは、一度きり。
「行くぞ!!」
暮羽さんは霊刀を構え、ミラの懐へ飛び込んだ。
刀がミラの首元へ迫る。
ミラは身体を捻り、刃をかわした。
「お前程度では、遅い」
地面から蔦が伸びる。
「……っ!」
暮羽さんが刀を振り下ろした。
ガキィンッ!!
「……っ!?」
霊刀が、蔦に弾かれた。
その直後。
ドゴッ!!
ミラの蹴りが、暮羽さんの脇腹へめり込んだ。
「暮羽!!」
颯が叫ぶ。
暮羽さんが後方へ飛ばされる。
それでも——倒れない。
ザザッ!!
地面を滑りながら、霊刀を構え直す。
「……はぁ……はぁ……!」
——まずい。
暮羽さんも、毒を受けている。
そのうえ、さっきから僕たちを守るために霊力を使い続けている。
「どうした?隙を作るのではなかったか?」
ミラが嘲笑った。
「……黙れ」
暮羽さんが、もう一度踏み込んだ。
キィンッ!!
霊刀が、ミラの足元から伸びた蔦を弾く。
続けて、右から斬り込む。
「何度やっても、同じこと」
蔦が伸び、暮羽さんの手首へ絡みついた。
「……っ!!」
ギチィッ!!
刀を握る腕が引き上げられる。
『颯!助けないと!!』
「わかってる!!」
颯が駆け出そうとした。
「待ちなさい!!」
——桃華さん。
颯の足が止まる。
「暮羽は隙を作ると言った!」
「でもよ!!」
「あなたたちがやることは何!?」
「……ミラ……!!」
暮羽さんがミラを睨みつける。
「ふん。威勢だけはよいのう」
ミラが手を持ち上げた。
暮羽さんの背後から、新たな蔦が迫る。
「……っ!」
暮羽さんが身体を捻る。
その瞬間、蔦がわずかに緩んだ。
暮羽さんは空いた手で蔦を掴み、拘束された手首を引き抜いた。
そのまま後方へ飛ぶ。
着地した瞬間、
「……くっ……!」
暮羽さんが片膝をついた。
——限界だ。
これ以上、戦える状態じゃない。
『桃華さん!!』
僕は叫んだ。
『暮羽さんを回復して——!』
「駄目よ!!」
桃華さんが、僕たちを見た。
「桃色は、あなたたちの解毒に使う!!」
『そんな……!』
このままじゃ暮羽さんが……!
桃華さんが頭上へ手をかざした。
その手の先で、青白い霊力が揺れる。
「二層持ちって、前に言ったでしょ?」
桃華さんが、一歩前へ出た。
今度は桃華さんが、暮羽さんを守ろうとしているんだ。
「星の雨」
キラッ!!
頭上から、無数の光が落ちた。
「ふん」
地面から無数の蔦が伸びる。
一瞬で、ミラの頭上に蔦の屋根が出来上がった。
ガガガガガガッ!!
青白い光をまとった宝石が、蔦の屋根に弾かれる。
——硬い。
さっきまでの蔦とは、明らかに違う。
「そう何度も同じ技が通じると思うなよ」
「……桃華様」
暮羽さんが、ゆっくりと顔を上げた。
「……ありがとうございます」
「暮羽……?」
桃華さんが眉をひそめた。
暮羽さんの手から、何かが落ちた。
パリンッ!!
ガラスが、地面で砕け散った。
『今、暮羽さん……何をした……!?』
「わかんねぇ!!」
次の瞬間。
ドクン!!
「……っ、あ……!!」
暮羽さんが胸を押さえた。
——何だ……!?
暮羽さんの身体から、霊力が膨れ上がっていく。
ブワァァァッ!!
赤い霊力——!?
「赤!?あれって常夜の薬だろ!?」
『……何で……!?』
「お主」
ミラの笑みが消えた。
「なぜ、その薬をもっておる?」
「暮羽!あなたまさか——!!」
暮羽さんは答えなかった。
「……はぁ……はぁ……」
刀を握る手が震えている。
それでも、ゆっくりと立ち上がった。
「……もう一度だ」
暮羽さんが、霊刀を構えた。
「白瀬兄弟!!」
「……っ!」
「私が道を開く!!」
——霊力が。
さっきとは、まるで違う。
禍々しい。
だけど……。
『颯』
「……ああ」
やるしかない。
「盗み出したのか。ふざけた真似をするわい」
ミラが指を持ち上げた。
シュルルルルッ!!
無数の蔦が、暮羽さんへ迫る。
「その程度の力で、わしに——」
ザンッ!!
「……なっ!?」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:11月3日21時
第三百七十話 その刃の向く先




