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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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第三百六十六話 一番近くに


 大蛇が、戒へ鎌首を向けた。

 

 次の瞬間。

 

 ドォンッ!!

 

「ぐっ……!!」

 

 弾を込める間もなく、戒の身体が後方へ吹き飛んだ。


「戒!!」


「お前ノ相手は俺がスル」


 白寧が俺へ向かってくる。


 どうする?


 俺は、小瓶を握り締めた。


 ——使えば、回復できるのかもしれない。


 敵の薬を信じるのか?


 違う。その前に——。


 桃華には暮羽がついている。

 ——今なら。


「黒狼!来い!」


 小瓶をズボンのポケットへ押し込む。


「ヴォン!!」


 黒狼が漆黒の光となって、再び俺の中へ吸い込まれた。


 白寧の拳が迫る。


 ガキィンッ!!


 白寧の拳を腕で受け止めた。


 ——俺が信じるのは、こいつだ。


「……くっ……」


 俺の霊力は残り少ない。

 それでも、外に霊害を出している今の白寧なら、

 やれなくないはずだ。


 いや。やるしかない。


『ガルルル……!!』


 俺の中で、黒狼が唸った。


 白寧の蹴りが迫る。

 

「っ!」

 

 横へ飛んでかわした。

 

 ガンッ!!

 

 床が大きく凹む。

 

「また、逃げるダケカ」


「……はぁ……っ」


 胸が痛む。

 呼吸をするたびに、骨が軋むみたいだった。


「……逃げねぇよ」


 立ち上がる。

 俺は拳を構えた。


 ここで退くなんて、あり得ない。


 俺は口角を吊り上げた。

 

「お前の方こそ、逃げるなら今のうちだ」

 

 ——何故だろう。

 こんな状況なのに、笑えてしまう。

 

 ——『なんか面白そうじゃん⭐︎』

 

 ……きっと、あいつの悪い癖が移ったんだ。


「笑わせル」


 白寧が先に動いた。


「くっ!」


 右拳が迫る。


 俺は身体を捻り、その拳をかわした。


 ——次、左から来る!


 上体を沈め、白寧の脇へ回り込んだ。


「黒狼牙——!」


 拳に霊力を乗せようとした。


 その時。


「さっきより、遅イ」


 ドゴッ!!


「ぐあっ!!」


 白寧の肘が、俺の脇腹を打った。

 

 身体が折れる。

 

 さらに、白寧の膝が迫った。

 

「……くっ!」

 

 両腕で受け止める。

 

 バキィッ!!

 

 足が床を滑った。


 見えるのに。

 身体が、追いつかない……!

 

「どうしタ?」

 

 白寧が笑った。

 

「さっきまでの威勢ハ?」

 

「……黙れ!」

 

 床を蹴る。


 ——どうする?

 正面からでは甲羅に阻まれる。

 

 なら、攻撃の直後を狙う!

 

 俺はわざと踏み込んだ。

 白寧の右拳が迫る。

 

 ——今だ!

 

 かわして、横から顔を狙った。

 

 ガキィンッ!!

 

「……っ!?」

 

 赤黒い甲羅が、拳を阻んでいた。

 

「オマエの戦い方ハ、もう知ってル」

 

 甲羅の脇から、白寧が飛び出した。


 ドゴォッ!!

 

「……かっ……!!」

 

 腹部に拳がめり込んだ。


 視界が白む。

 

 ——ダメだ。倒れるな……!

 

 歯を食いしばり、白寧の腕を掴んだ。

 

「……ッ!?」

 

「まだだ……!」

 

 霊力を、右拳へ集める。


 諦めない。

 一発だけでもいい!

 

「はぁぁっ!!」

 

 拳を突き出した。

 

 ドガッ!!

 

 白寧の頬を掠める。

 

「……チッ」

 

 白寧が顔を背けた。

 

 ——浅い。

 

 もう一度踏み込もうとした、その時。

 

「……あ」

 

 視界が揺れた。

 膝が、床につく。


 その先に、空の弁当箱が転がっていた。

 ——伊吹。

 

「限界ダナ」

 

 白寧が俺を見下ろした。


 ——立ち上がれ。

 

「……っ、クソ……!」

 

 考えろ。

 どうすればいい?


 もう二度と負けたくない。


 俺が弱いせいで、

 また誰かを守れないなんて、ごめんだ。

 

「オラァッ!!」


 麗子の声。

 その向こうでは、倒れた戒へ大蛇が再び襲いかかっていた。

 

 誰も、こちらへ来られない。


『ガルルルル……!!』


「……違う」


 いるじゃないか。

 俺の、一番近くに。

 

「諦メロ」

 

 白寧の影が、俺を覆った。

 

 赤い霊力が、その拳へ集まっていく。


「……っ!」


 足が震える。

 霊力も上手く練れない。


 柊と颯なら。


 ——『颯!頼む!』


 意識を切り替えて、霊力を内側から練る。


 だが、俺たちは違う。

 人間と獣だ。


 戻れなくなるかもしれない。


 ——『恐怖は捨てろ⭐︎』


 ドクン!


 こういう時、

 お前の言葉は、いつも俺を奮い立たせてくれる。


「……黒狼」

 

『ヴ……』

 

 それでも。

 

「お前となら、やれる気がする」

 

 胸に手を当てた。


 もし、戻れなくなっても。

 俺はひとりじゃない。


「俺の身体、任せてもいいか?」


『ヴォン!!』


 白寧が、拳を振り下ろした。


 ——カチッ。


 俺の意識が、切り替わった。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:11月1日12時

第三百六十七話 タイトル未定

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