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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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第三百六十四話 触れるな


『……あ……あぁ……』


 桃華の目の前で、赤黒い虎が動きを止めた。

 白寧の身体から伸びていた霊力が、激しく揺らいでいる。


「冷や冷やさせるんじゃないわよ」


 バチバチバチィッ!!


 いくつもの宝石が虎を穿った。


 虎が霧散して消えると同時に——。


 ドサッ!


 白寧が、後方の床へ打ち付けられた。


「……はぁ……はぁ……」


 呼吸を整える。


 白寧は、もう動かない。

 ただ、倒れた身体の下で、右腕がコートの内側にあった。


 ——やった。


「東雲狛!」


 桃華が俺を呼んだ。


「あなた、随分と危険な賭けをするじゃない」


「……お前なら、やってくれると信じていたから」


「ふん」


 桃華が腕を組む。


「桃華じゃなかったら危なかったわよ」


「そうだな。すまない」


 確かに危険な賭けだった。

 

 あの一撃で白寧を倒せなければ、

 桃華は虎に襲われていたかもしれない。


「”全回復した”だなんて、はったりまでかまして」


「……はは」


「狛!」


 麗子が駆け寄ってきた。


「よくやったわァ!!」


 麗子が笑う。


 ——玄武も消えている。


「ありがとう、麗子」


 終わったんだ。

 俺たちで、白寧を倒した。


「……奏は?」


「地下へ向かったわ。伊吹も無事だといいけれど」


 桃華が床に空いた穴へ視線を落とした。


「桃華は裏口へ行くけど、あなたたちはどうする?」


「……そうだな」


 柊たちへ加担するか、

 奏を追って地下へ向かうか。


 それとも——。


 俺は吹き抜けを見上げた。


「暮羽も、探さないといけない」


 建物は四階まである。

 上に何があるのかも、まだわからない。


 ——ガキィンッ……!


 建物の外から、何かがぶつかり合う音が聞こえた。


 迷っている時間はない。


「俺は桃華と裏口へ向かう!麗子は地下へ向かって——」


 俺が言い終わるより先に。


 ブワァッ!!


「!?」


 床に倒れ込んだ白寧から、

 赤黒い霊力が噴き上がった。


『……ああぁ……』


 霊力が揺らめき、再び虎の形を成す。


「何故……!?」


 まだ力が残っていたのか!?

 いや、そんなはずは——。


 グワッ!!


 虎が俺たちの方へ飛びかかってきた。


「しつこいわねェ!!」


 バキィッ!!


 麗子が両腕で虎を止めた。


 その瞬間。

 虎の脇を、影が滑るように通り過ぎた。


「残念だったナ」


「は……!?」


 俺の目の前で、白寧が身体を捻った。


 ドゴッ!!


「ぐっ!!」


 白寧の右足が俺の顔面を捉えた。


 衝撃で身体が横へ飛ばされる。


 バァンッ!!


 壁に叩きつけられた。


 ——重い。

 そんな力、もう残っていなかったはずなのに。


 訳がわからない。


 コツ……コツ……。


 白寧が俺へ歩み寄ってくる。


「まさか、こんな所デ使うことになるとはナ……」


「……お前、一体何をした……!?」


 白寧は、俺を見下ろしながら笑った。


「——回復ダ」


「回復……!?」


 白寧の右手がコートの内側へ動く。

 

 取り出されたのは、透明な空き瓶だった。

 だが、その口元にわずかな霊力の気配が残っている。


 まさか。


「”あの方”が、

 燦宮桃華の霊力サンプルから作り出しタ……回復薬」


 パリンッ!!


 白寧が小瓶を握り潰した。

 

 破片がパラパラと床へ落ちる。


「……下衆」


 桃華の呟きが聞こえた。


「もう、お前たちの特権じゃナイ」


 白寧の右手からは赤い血が滴っていた。


 こいつの言ってることが本当なら、

 また、初めから戦うのか。


 俺たちはもう、相当削られている。

 しかも、手の内まで知られてしまった。


 ……勝てるのか?


「……っ」


 それなら、せめて。


「桃華!裏口へ走れ!!」


 桃華だけは、柊たちの元へ行かせないと。


「黒狼!」


 俺は共霊を解いた。


「アオーン!!」

 

 黒狼が俺の身体から飛び出した。

 

「桃華を守れ!!」

 

 黒狼が床を蹴り、桃華へ駆け出す。


「……バカな男ダ」


 ブワッ!!


 白寧の背中から赤黒い大蛇が飛び出した。


 大蛇が一直線に桃華へ向かう。


 俺は立ち上がろうとした。


 しかし。


 ドガッ!!

 

 白寧の足が、俺の胸を踏みつけた。


「……うっ……ああ……!」


 ミシ……ミシ……!


 骨が軋む音がした。


 痛い。

 息ができない……!


「桃華ァ!!」


 麗子の叫びが聞こえた。


 黒狼……!

 頼む。どうか間に合ってくれ!


 ——ゾクッ。


「!?」


 この霊力は——!


 ズバァッ!!


 赤黒い霊力が、宙に飛び散った。


「……ナニ?」


 白寧の視線が動く。

 俺も、どうにか顔を向けた。


 黒い長髪。真っ直ぐな背筋。

 青白い光をまとった霊刀。


「グルルル……」


 威嚇する黒狼の前に立つ、ひとりの女。


「暮羽……!?」


 桃華が名前を呼んだ。


「桃華様に触れるな」


 暮羽の低い声が落ちた。

 

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:10月31日12時

第三百六十五話 タイトル未定

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