第三百六十話 力だけじゃない
頭上から、白寧の踵が迫った。
「っ!」
咄嗟に腕を交差させる。
バキッ!!
「……ぐっ!」
重い。
だが——。
ドゴッ!!
腕を押し上げ、白寧の身体を弾き返した。
「……チッ」
白寧が空中で身体を捻り、着地した。
右拳が迫る。
身体を反らして避けた。
続く左の蹴りを、腕で弾く。
——やっぱり。
攻撃の威力が、変わった。
戦い始めより、明らかに弱い。
——何故だ?
白寧の背中から、赤黒い虎が姿を現した。
『……あ……あぁ……!』
「……っ!?」
虎は俺には目もくれず、麗子へ飛びかかっていく。
「ちょっとォ!何体いんのよォ!?」
麗子……っ!
いや、今は目の前の白寧だ。
麗子はそう簡単にやられない。
「はぁっ!!」
今度は俺が踏み込んだ。
ドゴッ!!
拳が白寧の脇腹を捉える。
白寧の身体が、横へ流れた。
今なら……!
「——いける!!」
『アオーン!!』
黒狼が、胸の奥で唸った。
「黒狼牙——」
右拳に、黒狼の牙を宿す。
霊力が高速で渦を巻いた。
「穿廻!!」
白寧の胸元へ、拳を突き出した。
その瞬間。
ブワッ!!
「!?」
白寧の背後から、巨大な影がせり出した。
その影が、俺と白寧の間に割り込む。
ガキィィィンッ!!
「なっ……!?」
硬い。
拳に痛みが走る。
俺は目を細めた。
「甲羅……!?」
表面に浮かんだ幾何学的な模様。
その一つが気味の悪い顔のように見えた。
その脇へ、赤黒い大蛇が戻ってきた。
——さっき、麗子が殴った奴……!?
大蛇が、赤黒い甲羅へ巻きつく。
蛇と、虎。
それに、この甲羅……!?
「三体いたのか!?」
後方へ跳ぶ。
「この姿って——」
俺が目を見開いた、その時。
シュルッ!!
「っ!しまった!」
左足首に、大蛇が巻き付く。
俺は床に倒れ込んだ。
ズズズ……!
身体が引かれる。
右拳に霊力を集めた。
「クソッ!!」
ドゴッ!!
大蛇の胴体を殴りつけた。
『……あ……あぁ……』
呻き声が響く。
大蛇の締め付けが緩んだ瞬間、
足を引き抜き、立ち上がった。
だが。
「……っ!?」
白寧が、もう目の前にいた。
バキッ!!
拳が腹部に突き刺さる。
身体が後方へ滑った。
痛い。
それでも、はっきりとわかった。
白寧自身の威力は落ちている。
さっきよりも……!
「くっ……!」
両足で踏ん張り、顔を上げた。
さっきまで俺の足に巻きついていた大蛇。
その胴体が、甲羅の陰から伸びている。
「な……!?」
甲羅の中から、丸い頭部が顔を出した。
——亀だ。
亀と蛇で、一体なのか。
「……玄武?」
白寧の口元が、わずかに歪んだ。
「聖獣ダ」
「見た目だけだろ……!」
大蛇が迫る。
「……っ!」
横に飛んで避ける。
着地と同時に床を蹴り、白寧へ向かった。
しかし——
甲羅が、白寧の前へ回り込んでいる。
「くっ!!」
あれを叩いても意味がない!!
拳を引っ込めた。
その時。
ドゴォッ!!
「ぐあっ!!」
白寧に、横から頬を殴られた。
視界が揺れる。
いつの間に、
甲羅の裏から動いたんだ……!
歯を食いしばる。
倒れてたまるか……!!
足に力を込める。
崩れたバランスを戻そうとしたが、
バキッ!!
白寧の蹴りが、俺の脇腹を捉えた。
「……かっ……!」
肺の空気が抜ける。
畜生。
白寧の力は落ちているのに、
玄武が邪魔で攻撃が届かない。
本体だけを相手にするのとは、勝手が違う。
どうすれば……!
「終わりだナ」
白寧が拳を構えた。
その時。
ドガァンッ!!
背後から、大きな音が響いた。
「オラァァ!!」
麗子の声。
……そうだ。
あっちも戦ってる。
今、麗子が動けているのは、
桃華の力があったからだ。
俺は、一人じゃない。
白寧の拳を、しゃがんで避けた。
低い姿勢で懐へ潜り込む。
——甲羅が出るより、早く打つ!!
「黒狼牙!!」
ガキィィィン!!
また、甲羅!
だが、予想通りだ。
次は横から来る。
ヒュッ!!
甲羅の脇から、白寧の拳が飛び出した。
——そこだ。
上体を捻ってかわす。
目の前に、白寧の顔があった。
「……ナニ……」
——捉えた。
「はあ!!」
バキィッ!!
拳が、白寧の顔面を捉えた。
「……っ……!」
白寧の身体が宙を舞う。
そうだ。
力で勝っていたとしても、それだけじゃ勝てない。
あの甲羅を突破する方法も、
白寧の威力が落ちた理由も。
必ず、見つけられる。
——『凡才⭐︎』
あいつなら、きっと考える。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:10月27日21時
第三百六十一話 タイトル未定




