第三百五十九話 間に合った
「伊吹!」
穴の縁へ駆け寄る。
埃が立ち込めている。
下が、見えない。
「伊吹!!返事をしろ!!」
……。
返事がない。
「……くそっ……!」
飛び降りるか?
だが、白寧を——。
「東雲狛!!」
桃華が叫んだ。
「後ろ!!」
振り返る。
虎の瞳と、目が合った。
——今度は虎か!?
巨大な前脚が、横から迫った。
ドゴッ!!
「ぐあっ!!」
横腹に、強烈な衝撃が走った。
身体が吹き飛ぶ。
床を転がった。
「……っ、はぁ……!」
立ち上がろうとする。
「……一人じゃない、だったナ?」
白寧が、ゆっくりと歩み寄ってくる。
その背後に赤黒い虎が揺らめいていた。
「……っ!」
「なら、お前も一人にしてやル」
白寧が拳を構えた。
「俺と同じようにナ」
「……中の奴はカウントされないんだな」
俺は立ち上がった。
「こいつらハ、白虎とは違ウ」
……やはり、一体ではないのか。
だとしたら。
こいつも、篝と同じ——!?
その時——。
キラッ!!
「彗星」
白寧の頭上から青白い光が落ちた。
「……っ!」
白寧が後方へ跳ぶ。
ドガンッ!!
降ってきた光が床にめり込む。
——宝石。
桃華が俺の前へ出た。
「伊吹のことは後よ。今はあいつを止めなさい!」
「……ああ!」
桃華の言うとおりだ。
伊吹を助けたい。
だが、ここで白寧を自由にしてしまったら。
「……邪魔者、二人目」
白寧が、桃華を睨んだ。
「……桃華!」
ブワァッ!!
虎が桃華へ襲いかかる。
桃華がコンパクトを開いた。
キラリと、無数の宝石が浮き上がる。
その一つひとつが、青白い霊力を纏った。
「喰らいなさい」
バチ!バチバチィッ!!
放たれた宝石が、赤黒い虎へ次々と衝突した。
虎の形をしていた霊力が、
白寧の身体へ吸い込まれるように戻っていく。
「ふん」
桃華が鼻を鳴らした。
しかし——。
ヒュッ!
奥から、大蛇が飛び出した。
まずい!
「桃華!!」
鋭い牙が、桃華へ迫る。
桃華が、残った宝石を構えた。
——間に合わない!
桃華が目を瞑った、その瞬間。
ドンッ!!
床が、大きく震えた。
「オラァ!!」
バキィッ!!
大蛇の頭部が、横から突き出された太い腕に弾かれた。
目の前に立つ、巨大な人影が動く。
金髪のポニーテール。
ピンクのタンクトップ。
「麗子!?」
「……はぁ……はぁ……」
麗子は肩で呼吸していた。
その右腕に、奏が抱えられている。
麗子が振り返る。
「桃華……解毒してちょうだい……!」
「毒!?」
桃華が眉を寄せた。
「毒って、まさか——」
「麗子!危ない!!」
ドガァンッ!!
大蛇の頭が、麗子の顔面へ突っ込んだ。
「うぐっ!!」
麗子の巨体が滑る。
衝撃で奏が麗子の腕から離れた。
ドサッ!!
「麗子!奏!!」
桃華が叫んだ。
「次から次へと……邪魔だナ」
大蛇が麗子を追う。
させない!
俺は床を蹴った。
大蛇を狙って、足を振り抜く。
シュッ!!
俺の目の前に、白寧が滑り込んできた。
「お前の相手ハ、俺ダ」
ドガンッ!!
白寧の蹴りが、俺の脚を弾いた。
「……クソッ!」
後方へ飛んで距離を取る。
……ん?今の蹴り……。
さっきよりわずかに軽かった。
白寧は、変わらず俺を睨みつけている。
麗子は!?
ガキィンッ!!
大蛇の追撃は、麗子の腕に止められていた。
「……間に合ったわァ」
麗子の身体が、桃色の霊力に包まれていた。
その霊力は、桃華の手元から一直線に注がれている。
さっきまで荒かった麗子の呼吸が、落ち着いていた。
——桃華が、解毒したのか……!
カツン。
「桃華を誰だと思ってるの?
燦宮桃華・アメリ・ド・ルモワーニュよ」
「さすがねェ」
バキィンッ!!
麗子が大蛇の頭部を押し返す。
桃華が、麗子へ伸ばしていた霊力を収め、
倒れた奏へ駆け寄った。
「桃華!悪いけど奏もお願い!!」
「ええ!でもあんた、その化物とやれるの!?」
「二体いるんだからどっちかとやるしかないでしょォ!?」
俺は白寧と向き合った。
「奏を回復させたら、裏口に行ってちょうだい!!」
大蛇の頭部が、再び動く。
「柊と颯が、ミラと戦ってるのよォ!!」
——ミラ!?
やはり、柊たちの方に現れていたのか……!
だが、考える暇はなかった。
白寧が、俺の目の前で跳び上がった。
「ごちゃごちゃとうるさいナ」
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※次回更新:10月26日21時
第三百六十話 力だけじゃない




