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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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381/393

第三百五十八話 一人じゃないから


 ***


 少し、時を遡る。

 

 Side:狛

 

 ドォォォン!!

 

 建物の外から、轟音が響いた。

 

「……何だ?」

 

 壁が、小さく揺れた。

 

 柊たちか?

 

 ここに白寧がいるということは、

 まさか——。

 

「狛くん!!」

 

「……っ!」


 伊吹の声で、我に返った。

 

 ドゴォッ!!

 

 白寧の拳が、俺の右腕に叩き込まれた。

 

「……ぐっ!」

 

 重い。

 だが、耐えられる。

 

「……何?」

 

 白寧が眉をひそめた。

 

 俺の身体には、伊吹から供給された霊力が流れている。

 

 そして——。

 

 ドクン!!

 

 胸の奥で、黒狼が唸った。

 

 この力なら、いける。

 

「伊吹!」

 

「うん!!」

 

 ブワァァァッ!!

 

 背後から、新たな霊力が流れ込んだ。

 

「まだまだいけるよ〜!」

 

「……ああ!」

 

 白寧の拳を、左腕で押し返す。

 そのまま踏み込んだ。

 

「はぁっ!!」

 

 ドゴッ!!

 

 右拳が、白寧の腹部を捉えた。

 

「……っ!!」

 

 白寧の身体が浮く。

 

 ザザッ!!

 

 後方へ滑りながら、白寧が着地した。

 

「……お前」


 金色ではない。

 白虎と共霊していた時とは違う瞳。


 その奥には、あの頃よりもずっと禍々しい霊力が宿っていた。


 ——強くなっている。

 

「やっぱり、強いナ」


「……お前もな」


 だが、俺も第三研究所の時とは違う。


 あの時、お前に肩を抉られなければ、

 紫苑は二度目の禁式を使わずに済んだ。


 そうすれば、昨夜だって——。


 拳を構え直した。


「俺はお前には負けない」

 

 もう二度と、お前にやられない。


「自信満々ダナ」

 

「ああ。今、俺は一人じゃないからな」


 伊吹もいる。

 桃華もいる。


『アオーン!』


 俺の中で、黒狼が吠えた。

 

 ——俺たちは、四人だ。

 

「……ふん」

 

 白寧が鼻を鳴らした。

 

「仲間が多けレバ、強いとデモ思っているノカ?」

 

「少なくとも、一人で戦うよりはな」

 

「……くだらナイ」

 

 白寧が踏み込んだ。


 速い。

 だが——見える。

 

 右拳。

 

 次は——。

 左の蹴り!

 

 ヒュッ!!

 

 上体を反らしてかわす。

 

 そのまま、懐へ潜り込んだ。

 

 拳を纏う霊力が旋回する。

 黒狼が、俺の拳に喰らいつく。

 

「——黒狼牙!」

 

 ドォンッ!!

 

「……ぐっ!!」

 

 白寧の身体が吹き飛んだ。

 

 ガシャァン!!

 

 背後の棚が砕け散る。

 

「……っ、はぁ……!」

 

 息を吐いた。

 

 押せている。

 伊吹の霊力供給のおかげで、いつも以上の力を出せる。

 

 だが。

 

「……まだダ」

 

 白寧が立ち上がった。

 口元の血を、手の甲で拭う。

 

「この程度で、俺を倒せると思うナ……!」

 

 赤い霊力が、白寧の身体を包んだ。

 

 ドクン!!

 

「……っ!」

 

 空気が変わる。

 

 白寧が、床を蹴った。

 

 バキィッ!!

 

 咄嗟に腕を交差させる。

 

「……ぐっ!!」

 

 防御した腕が軋んだ。

 

 そのまま、二発目。

 

 ドゴッ!!

 

「……っ!」

 

 腹部へ衝撃が走る。

 

 足元が滑った。

 

 まずい。

 このまま押し切られる——。

 

「東雲狛!!」

 

 桃華の声が響いた。

 

 キラッ!!

 

 視界の端で、小さな光が煌めいた。

 

 ——宝石?

 

 白寧の背後へ、いくつもの宝石が飛んでいく。

 

「……何ダ?」

 

 白寧が振り返った。

 

「前だけ見てるからよ」

 

 桃華が、コンパクトを掲げていた。

 その中から、さらに宝石が浮かび上がる。

 

「星の雨(プリュイ・デトワール)」

 

 無数の宝石が、白寧へ降り注いだ。

 

「……っ!?」

 

 バチバチバチィッ!!

 

 宝石が、白寧の身体を包む赤い霊力に衝突する。

 

「……ぐっ!!」

 

 白寧が腕で顔を覆った。

 

 霊力の光が、弾け飛ぶ。


「桃華をただの回復役だと思わないでちょうだい」

 

「狛くん!今だよ!!」

 

「……ああ!!」

 

 踏み込んだ。

 

 白寧がこちらを向く。

 

 俺の拳に、黒狼の牙が宿る。

 霊力を高速で回転させる。


「黒狼牙——」


 あの時と、同じ技。

 だが、今は違う。

 

「穿廻!!」

 

 ドォォォンッ!!

 

「……がっ!!」

 

 拳が、白寧の胸元を捉えた。

 白寧の身体が床へ叩きつけられる。


 バキバキッ!!

 

 床に、亀裂が走った。

 

「……っ、はぁ……!」

 

 拳を引く。

 

 白寧は、しばらく動かなかった。

 

「……やった!?」


 背後から伊吹の声がした。


「いや……」

 

 まだだ。

 白寧から、霊力が消えていない。

 

 ——その時。


 ブワァッ!!

 

「……っ!?」


 白寧の身体から、赤黒い霊力が吹き出した。


 肩から、背中から。

 次々と溢れ出してくる。

 

「……何だ?」

 

 その霊力は、白寧の身体から離れないまま、背後で大きく膨れ上がった。


『……あ……あぁ……』

 

「……っ!?」

 

 声……?

 

 低く、掠れた呻き声が聞こえた。

 

 白寧のものじゃない。

 赤黒い霊力の中から聞こえてくる。

 

 やがて、輪郭が形を成していく。

 

 四本の脚。

 長い尾。

 そして、鋭い牙。

 

「……っ!」

 

 虎……!?

 

 違う。

 あの白虎じゃない。

 

 全身が赤黒く、輪郭が絶えず揺らいでいる。


 虎の下半身は、白寧の背中から伸びる赤黒い霊力と繋がっていた。

 

 まるで、白寧の身体から虎が生えているようだった。

 

 俺は、拳を握り直した。

 

「お前、それは……!」


「俺ノ中にいる奴ダ」


「中にいる……!?」

 

 白寧が、ゆっくりと立ち上がった。

 背後の赤黒い虎が、大きく口を開く。

 

「……邪魔者」

 

 白寧が、伊吹へ視線を向けた。

 

「まずは、一人目」

 

「……っ、伊吹!!」


 ——狙いは伊吹か!

 

 俺が前へ出ようとした、その瞬間。

 

「っ!?」

 

 虎が、俺に飛びかかってきた。

 

 ——速い!!

 

 咄嗟に左腕で受け止める。


 ガキィンッ!

 

「ぐっ……!!」

 

 牙が、腕を覆う霊力に食い込んだ。

 

 重い。

 まるで、本物の虎に噛みつかれているようだった。

 

「……何なんだ、一体……!」

 

 白寧が、床を蹴った。

 

「……っ!」

 

 まずい!


 バキッ!!


 右膝を突き上げ、虎の腹へ叩き込んだ。


 虎の頭が、左腕から離れる。

 

 だが——。


 ズズズズッ!!

 

「……!?」


 白寧の背中から、新たな霊力が溢れ出した。


『……あ……ああぁ……』

 

「……っ!?」

 

 また、呻き声……!?

 さっきとは、別の声だ。

 

 ——まだ、いるのか!?


 赤黒い霊力が、虎とは別の形を成していく。


 長く、うねる胴体。

 鎌首をもたげた、その先には——。

 

「……蛇!?」


 シュッ!!


 巨大な赤黒い蛇が、俺の左腕に巻きついた。

 

「……っ、くそ!!」


 振りほどこうとする。だが、離れない。


 ——虎だけじゃないのか!?


 白寧の身体から、虎と蛇が伸びている。


 この禍々しい霊力。


 まさか、こいつらは——。

 

「霊害……!?」

 

「狛くん!!」

 

 白寧は、もう伊吹の目の前にいた。


「伊吹!避けろ!!」


「うわぁっ!!」


 伊吹が咄嗟に横へ飛ぶ。


 しかし、白寧は追わなかった。


 拳を振り下ろした先は、伊吹が立っていた場所。


 ドゴォォォンッ!!


 床一面に、亀裂が走った。

 

 ピシッ……!

 ガラガラガラッ!!


 弁当箱が舞う。

 

「うわあああっ!!」

 

 床が崩れ落ちる。

 

「春日伊吹!!」


 桃華が叫んだ。


「くっ!!」


 拘束された腕へ、霊力を集中させた。


 ドクン!!


 黒狼が吠える。

 

「……はぁっ!!」


 バチィッ!!


 巻きついていた蛇が離れる。


 振り返る。


 もう、間に合わない……!

 

「伊吹ーー!!」

 

 ドォォン!!

 

 地下から、衝撃音が響いた。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:10月25日15時

第三百五十九話 間に合った

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