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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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380/393

第三百五十七話 君は、どうしたい?

昨日は投稿時のトラブルにより、予定していた更新ができませんでした。


本日から、改めて更新いたします。

引き続きよろしくお願いいたします!


 ***

 

 Side:柊


 拳が、巨大な蔦の鞭を穿った。


 バキ……バキバキバキッ!!


 蔦の鞭が砕けていく。


「……ほう?」


 ミラが、初めて眉をひそめた。


 うまくいった。

 颯のおかげだ。


 ——『怖ぇって思うのは、別に悪くねぇ!』


 ——『失敗したって、俺がいる!!』


 いつも、颯の言葉は僕を安心させてくれる。


 言葉だけじゃない。


 君が隣にいてくれることが、こんなにも心強い。


「柊!」


 それに、君は変わった。


 幼い頃から、颯はいつも僕の前にいて、

 僕の手を引いて先へ連れて行ってくれた。


 だけど今は。


 ——『お前が好きに決めりゃいいんだよ!』


 僕と同じ場所で、

 僕の言葉に耳を傾けようとしてくれる。


 僕の選択を、待ってくれている。


 シュルルッ!!

 

「……チッ!」

 

 颯が迫る蔦を風で弾く。

 

 それでも僕の意識は、違うところにあった。


「おい柊!」


 ……じゃあ、僕は?


 颯の言葉に耳を傾けられてる?

 

 また、勝手に決めつけてない?


 颯は、どうしたいって思ってる?


 ——『早く出せよ』


 ……それって、本当に?


「柊!!」


『……あっ』


「ぼーっとすんな!まだ一発当てただけだ!」


『う、うん!』


 ——集中しろ。


 さっきのは、まぐれだったかもしれない。

 

 颯が前へ出てくれている分、

 頭を動かして霊力を練るのが僕の役目だ。


「はぁ……はぁ……」


『……颯!』


 息が上がっている。


 時間がない。


 消耗する霊力量も考えてやらないと。


 せめて解毒できればいいのに……!


 シュルルルッ!!

 

「……っ!」

 

 身体が横へ跳んだ。

 

 さっきまで僕たちが立っていた場所を、蔦が突き抜ける。


「ふん」

 

 ミラが右手を持ち上げた。

 

 シュルシュルシュルッ!!

 

 地面から三本の蔦が伸びる。

 

「柊!」

 

『わかった!』


 右腕に霊力を流す。

 迫ってきた一本目を、腕で弾いた。

 

 ガキィンッ!!

 

「……っ!」

 

 残りの二本が足元へ伸びた。

 

「旋霊風——払!」

 

 ビュオッ!!

 

 蔦が横へ流れる。

 

 その隙間を抜け、颯が踏み込んだ。

 

「……ほう」

 

 ミラの表情が変わった。

 

 カツンッ!!

 

 ハイヒールが地面を蹴る。

 

 ——来る!

 

『颯!左から!』

 

「わかってる!」

 

 ミラの脚が跳ね上がった。

 

 ヒュッ!!

 

「……っ!」

 

 颯が上体を反らす。

 

 目の前を細い踵が通り過ぎた。

 

「いくぞ!」

 

『うん!』

 

 右拳に霊力を集める。

 

 ——大丈夫。

 ちゃんと、調整できてる。

 

「おらぁっ!!」

 

 ドゴッ!!

 

「……っ!」

 

 僕たちの拳が、ミラの脇腹を捉えた。

 

 ミラの身体が横へ流れる。

 

 カツン、カツンッ!!

 

 ヒールを滑らせ、数歩後退した。

 

「……おのれ」

 

 ミラが脇腹へ手を当てた。

 

 当たった……!

 さっきまで、あんなに速く感じていたのに。

 

「やっぱできんじゃねぇか!」

 

『……うん!』

 

 力任せじゃなくて。

 ちゃんと、考えて——。

 

「……わしを殴ったな」

 

 ミラの瞳が、僕たちを捉えた。

 

「調子に乗るなよ」

 

 シュル……。

 

 砕け散った蔦が、地面の上で動き始める。

 

「多少、霊力の扱いが変わっただけじゃろう」

 

 ミラが指先を持ち上げた。

 

 シュルルルルッ!!

 

 周囲の蔦が、一斉に蠢く。

 

「それで、わしに勝てると思うたか?」

 

 ブワッ!!

 

 頭上の薔薇が揺れた。

 

「……!?」


 香りが……急に濃く……!?

 

 ドクン!!

 

「……あ……!」

 

 胸の奥が締めつけられる。

 

 指先が痺れて動かない。

 

『颯!!』

 

「……っ、くそ……!」

 

 颯が右手を持ち上げる。

 

 だけど。

 

 ブル……。

 

 腕が震えていた。

 

「……はぁ……はぁ……!」

 

 息が、苦しい。

 さっきよりも、ずっと。


 霊力はまだある。

 それでも、毒が身体の自由を奪う。

 

「……畜生……!」

 

 颯が歯を食いしばった。

 

「先ほどより、動きが鈍いのう」

 

 カツン。

 

 ミラが、一歩踏み出す。


「さて、どこまで持つか」

 

「……っ!」

 

 颯が構えた。

 

 シュルッ!!

 

 右から蔦が迫る。

 

 ガキィンッ!!

 

 右腕で蔦を弾いた。

 

 だけど——。

 

 シュルッ!!

 

 二本目が迫る。

 

「柊!左!」

 

『……っ、うん!』

 

 左腕へ霊力を移す。


 しかし。


『颯!』


 颯の動きが、間に合わない。

 

「……っ!!」

 

 ガッ!!

 

 蔦が左腕へ絡みついた。

 

「くそっ!柊!」


『うん!』

 

 颯が巻き起こした風に、霊力を乗せた。


「旋霊風——爆(ばく)!!」

 

 バァンッ!!

 

 圧縮された風が、一気に弾けた。

 

 腕を締めつけていた蔦が、粉々に砕け散る。


「……よし!」

 

 ——できた。

 

 だけど。

 

「……っ、はぁ……!」

 

 颯が、肩で息をした。

 

 身体が、ふらつく。

 

 ——おかしい。

 

 霊力は、まだある。

 技だって、ちゃんと出せた。

 

 なのに——。

 

 シュルルルッ!!

 

「……っ!?」

 

 足元から、新たな蔦が伸びた。


 颯が避けようとする。

 だけど、足が動かない。

 

『颯!?』

 

 僕が叫んだ時には、もう遅かった。

 

 ドゴォッ!!

 

「ぐあっ!!」

 

 蔦が、僕たちの身体を横殴りにした。

 

 ドサッ!!

 

 地面に叩きつけられる。

 

 痛い。

 一瞬、僕の意識まで揺れた。

 

「……っ、はぁ……!」

 

 颯が地面に手をついて立ち上がろうとする。

 

 ガクッ!!

 

「……っ!?」

 

 膝が折れた。

 

『颯!』

 

「……っ、大丈夫だ……!」

 

 大丈夫じゃない。

 僕にはわかる。

 

 颯が、どれだけ無理をしているのか。

 

 颯が前に出てくれたからって、身体の状態が変わるわけじゃない。

 僕たちは、同じ身体を使っているんだから。

 

「……しぶといのう」

 

 ミラが首を傾げた。

 

 シュルシュル……。

 

 僕たちの周囲で、蔦が持ち上がる。

 

 ……まずい。

 このままじゃ。

 

「柊……!」

 

『……うん!』


 意識を集中させる。

 

 もう一度。

 ——あと一回だけでも!

 

 颯が顔を上げる。

 

「……っ、旋霊——」

 

 シュルルルッ!!

 

 蔦が迫った。

 

「……くそっ!!」

 

 颯が右拳を突き出した。


 その瞬間。

 

 ドクン!!

 

「……あ……っ!」

 

 颯の身体が、大きく揺れた。

 

 ——え?

 

 胸が、締めつけられる。

 指先の感覚が、薄れていく。

 

 僕は、霊力を集めている。

 

 だけど、颯の意識が朦朧としている。

 

 ——風が、起きない。

 

「……ぐっ……っ!」


 颯が胸を押さえた。

 

 身体が、地面に崩れ落ちる。

 

「……終わりじゃな」

 

 ミラが指を曲げる。

 

 シュルルルルッ!!

 

 無数の蔦が、僕たちへ向かってくる。

 

 避けなきゃ。

 

 颯!!

 

「……っ!!」

 

 身体が動かない。

 

 ——間に合わない。


 その時。


 シュピィンッ!!

 

「……え?」

 

 鋭い音が響いた。


「……何じゃ?」


 ミラが顔を上げた。

 

 目の前の蔦が、ぴたりと動きを止める。

 

 シュピピピンッ!!

 

 立て続けに、斬撃の音が響く。

 

 ピシッ……!

 

 ドームを覆う蔦に、切れ目が浮かび上がった。

 

 次の瞬間。

 

 ドサァッ!!

 

 切り取られた蔦が、薔薇の花ごと内側へ崩れ落ちた。

 

「……あっ!」

 

 ドームの壁に、人が通れるほどの四角い穴が開いていた。

 

 その向こうから、冷たい風が吹き込んでくる。

 

 ——斬られた……?

 

「……誰じゃ?」

 

 ミラが、穴の向こうを睨みつけた。

 

 僕たちも、そちらへ視線を向ける。

 

 一つの人影が立っていた。

 

 その手には、霊力を帯びた刀が握られている。

 

『……あ!』

 

 見覚えのある霊刀。

 

 まさか——。

 

「……まったく」

 

 聞き覚えのある声がした。

 

「完全に読み違いじゃないの」

 

 人影の隣から、桃色の髪が見えた。



読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:10月25日12時

第三百五十八話 タイトル未定

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