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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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第三百五十六話 失敗したって、俺がいる


 ***

 

 Side:颯


「……っ、はぁ……はぁ……!」


 身体の主導権は、俺に移っていた。


 シュルルルッ!!


「うおっ!?」


 身体を捻り、迫ってきた蔦をかわした。


 重い。

 身体が、思うように動かねぇ。


「……チッ」

 

 さっきまで柊が受けていた痛みも、そのまま残ってやがる。

 

『颯!大丈夫!?』


「問題ねぇ!」


 足元に風を巻き起こす。


 ビュオッ!!


 蔦を吹き飛ばし、ミラから距離を取った。


「柊!お前は霊力の方に集中しろ!」


 俺が前に出ていれば、できるはずだ。


「身体は俺に任せていい!!」


『……わかった!』


 ——頼むぞ。

 お前なら、使いこなせる。


 篝の話を聞いた後だから、不安になんのもわかる。


 また暴走したら、どうする?


 俺だって、

 そんなこと、考えねぇわけじゃねぇ。

 

 だけど、今は信じる。


 お前の力は傷つけるためにあるんじゃない。


 誰かを守るためにあるんだって。


「……ふぅ」


 息を吸った。


 胸が痛ぇ。

 視界の端がぼやける。


 カツン。


 ミラが、ゆっくりと一歩踏み出した。


「意識を代えたか」


「だからなんだよ」


「霊に身体の主導権を握らせるとは、馬鹿げた話じゃな」


 ミラが嘲笑う。


「霊など、力を得るための道具でしかないのに」


「……は?」


 俺が眉をひそめた、その時。


 シュルシュルシュルッ!!


「うおっ!?」


 左右から蔦が迫った。


 左の蔦を避ける。


「柊!!」


『……っ、うん!』


 右手に霊力が灯った。


 少し強いか?

 

 いや——。

 

「旋霊拳」


 右手を振り抜く。


「祓撃!!」


 バキッ!!


 右から迫ってきた蔦を砕いた。


「今の、悪くねぇ!」


『違う!強すぎる!』


 納得してねぇってか。


 俺が姿勢を戻そうとした瞬間、


「……っ!?」


 身体がふらついた。


「はぁ……!」


 毒で霊力を削られてる上に、身体が言うことを聞かねぇ……!


 シュルッ!!


「っと!」


 風を巻き起こし、横から伸びた蔦を弾く。


 その直後。


 ドゴッ!!


「ぐあっ!!」


 脇腹に衝撃が走った。


 ミラの蹴りだ。


 ——速ぇ!!


 地面を滑りながら、どうにか踏みとどまる。


「意識を変えて、何か意味があったのか?」


 ミラが首を傾げた。


「退屈じゃな」


「……っ、うるせぇ!」


 右手を突き出す。


 ビュオッ!!


 風がミラへ向かって走った。


 しかし。


 カツン。


 ミラが軽く身体を傾けただけで、風は空を切った。


「こそばゆいな」


 シュルルッ!!


「……っ!」


 足元から蔦が伸びる。


 飛び退こうとした瞬間、膝ががくりと折れた。


「……くそっ!」


『颯!!霊力乗せる!』


「頼む!」


 左手を地面に叩きつける。


「旋霊風(せんれいふう)——払(はらい)!」


 ゴオッ!!


 風圧で蔦を押し返そうとした。


「弱いな」


 シュルシュルシュル!


 ——霊力が、足りねぇ!


 蔦が俺の足へ絡みつこうとしていた。


「柊!!」


『ごめん!!』


 硬化された霊力が足を覆った。


 ガキィンッ!!


 伸びた蔦が弾かれる。


 俺は後方へ飛んで、距離を取った。


「……はぁ……はぁ……!」


 なんとか防いだ。


 けど——。


 まずいな。


 このままじゃ、柊が霊力を使いこなせるようになる前に、俺が潰される。


『……颯』


「あ?」


『僕……失敗するのが怖い』


「……っ」


 強すぎたら、想定外に被害を出しちまうかもしんねぇ。

 だけど、弱すぎたらこちらがやられちまう。


 だから、ちゃんと考えて使わなきゃいけねぇ。


「怖ぇって思うのは、別に悪くねぇ!」


 そりゃ怖くて当然だろ。

 それだけのモン使うんだから。


「怖ぇって思いながらやるから、気ぃつけられんだろ!?」


 シュルッ!!


 迫る蔦を、風で切り裂く。


「……っ、はぁ……!」


 視界が揺れた。


 くそっ。


 あんまり時間がねぇ。


「柊!!」


 内側の柊へ向かって叫んだ。


「失敗したって、俺がいる!!」


 ——お前と俺なら、さ。


「やらずにやられる方が、嫌だろ!!」


『颯……』


「落ち着いて考えろ!

 力が強くなったって、基礎は変わってねぇはずだ!」


 俺たちは、これまで何度も訓練を重ねた。


 いろんなやつらと戦ってきた。


 だからこそ、

 今は感覚でやっちまってるとこも多いのかもしれねぇ。


「光流とか奏とか、狛さんに教わったこと、

 もっかい思い出すんだよ!」


『……基礎を、思い出す……』


「何度も、俺と一緒にやってきただろ!?」


 初めから、上手くいくことなんか少ねぇ。


 それでも、

 どうせできねぇなんて決めつけたこともねぇだろ。


『……うん!』


 柊の声が、胸の奥に響いた。


『もう一回、やってみる!』


「おう!!」


 シュルッ!!


 ミラの背後から伸びた蔦が、俺の右側へ回り込んできた。


「……っ!」


 避けるか?


 いや、弾く!


「柊——!」


『……』


 集中しているのがわかった。


 じわっ……。


 右腕に霊力が滲む。


 ……お?


 さっきより少ねぇ。

 だけど、足りなくもねぇ。

 

 シュルッ!!


 柊の霊力で硬化した腕が、右から迫る蔦を弾いた。


 ガキィンッ!!


「……よし!」


『……颯!』


「その調子だ!!」


 シュル……シュルシュル……。


「何を喜んでおるのやら」


 ミラの蔦が絡まり合い、

 一本の巨大な鞭を形成していく。


 その鞭の先端に、無数の棘が生えた。


「柊!やるぞ!」


 拳を構える。


『颯!』


「風だろ!?」


 任せろ。


「旋霊拳——」


 グワッ!!

 

 蔦の鞭が迫る。

 

 右拳に、柊の霊力と俺の風が重なった。


 ——そうだ。それでいい。

 

「疾風!!」

 

 拳を振り抜く。


 バァァァンッ!!


 青い光と風が、混じり合って爆ぜた。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:10月23日21時

第三百五十七話 タイトル未定

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