第三百五十五話 代われ
ミラが、ゆっくりと歩み寄ってくる。
カツン……。
カツン……。
ハイヒールの音が響いた。
「……っ……」
視界が霞む。
『柊!落ち着け!』
颯が叫んだ。
『すぐに霊力が削られるわけじゃねぇ!
お前の霊力、バケモン級なんだから!』
「……うん」
それもわかる。
だけど、思うように身体を動かせない。
力だってコントロールできてないのに。
それが余計に僕を焦らせていた。
「苦しいじゃろう?」
ミラが笑った、次の瞬間。
シュルッ!!
ミラの足元から蔦が伸びた。
『右だ!!』
咄嗟に身体を捻ってかわす。
「……っ!」
しかし。
カツン!
「あ……!」
すぐ目の前に、ミラがいた。
鮮やかな花柄が舞う。
ドゴッ!!
細い脚が、僕の脇腹を蹴り抜いた。
「う……!」
視界が白む。
身体が宙へ浮いた。
落下する僕の下へ、ミラが踏み込む。
再び、脚が振り上げられた。
『柊!霊力固めろ!』
——だめだ。
霊力が、思うように集まらない。
バキッ!!
ハイヒールの踵がみぞおちを突き上げた。
「……かはっ……!」
ドサッ!!
身体が地面を転がる。
痛い。
攻撃は、蔦だけじゃないのか。
『柊!!』
「……だい、じょうぶ……!」
震える手を地面につく。
顔を上げると、ミラがこちらを見下ろしていた。
深いスリットから覗く脚が、動いた。
「……っ!」
咄嗟に立ち上がって後方へ飛ぶ。
「ほう?」
ミラが右手を伸ばした。
「逃げるのは早いのじゃな」
「……はぁ……はぁ……」
シュルシュルッ!!
蔦が迫る。
「……っ!」
『柊!!』
——集中しろ。
霊力を硬化させ、腕で防いだ。
バキッ!!
蔦が弾かれる。
だけど——。
ヒュッ!!
ミラの脚が、真横から迫った。
「甘いのう」
咄嗟に腕を交差させる。
ドゴォッ!!
「……ぐっ!!」
腕に衝撃が走った。
ピキッ……。
腕を覆う霊力が、軋む。
——重い……!
細い脚から放たれたとは思えない威力。
ミラが片眉を上げた。
「よう防いだな」
『柊!!押し返せ!!』
「……っ、うん!!」
右足へ霊力を集中させる。
「——旋霊脚」
右足を振り上げようとした、その瞬間。
シュルッ!!
「……あっ!?」
蔦が足首に絡みついた。
ギチィッ!!
「残念じゃったな」
棘が、靴越しに足首へ迫る。
——まずい!
足首を覆うように、霊力を集中させた。
バキッ!!
蔦が弾ける。
だけど、その一瞬。
ミラは、もう目の前にいた。
「遅い」
赤い花柄が視界いっぱいに広がる。
ヒュッ!!
鋭い蹴りが、僕の顎先を掠めた。
「……っ!!」
避けたはずなのに、身体がよろめく。
カツン。
ミラのヒールが地面を打った。
「力だけは大したものじゃ」
蔦が、彼女の背後でゆっくりと揺れる。
「じゃが、見えてなければ意味がない」
「……くっ……」
視界が揺れる。
頭の中がはっきりしない。
『柊!』
「颯……はぁ……はぁ」
呼吸が乱れる。
「……っ、どうしよう」
『お前の力なら、防げるはずだろ!
あいつの動きに飲まれんな!』
「でも!」
『ちゃんと強ぇんだから、自信持て!』
——自信?
僕の力に?
拳を握りしめる。
確かに力は強くなったんだろう。
……それでも。
「まだ上手く使いこなせないんだ……!」
自信なんて、すぐに持てない。
『じゃあ代われ!俺が前に出る!』
「颯だってできないだろ!?」
『そういう話じゃねぇんだよ!』
「どういう話だよ……っ!?」
代わる?どうする?
「何をごちゃごちゃ話しているのじゃ」
ヒュッ!
僕に向かって、蔦が伸びた。
『早く!』
「……っ!わかった!」
——カチッ。
世界が、入れ替わった。
「……はぁ……はぁ……」
僕の意思とは関係なく、身体が呼吸を繰り返す。
「っ、俺が前にいる間によく考えろ!」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:10月22日21時
第三百五十六話 タイトル未定




