第三百五十四話 まだ、届かない
「誰が行ってよいと言った?」
シュルシュルシュルッ!!
地面から無数の蔦が伸びた。
「No.8。お前も再び地下牢に入れてやろう」
蔦が麗子さんの背中へ迫る。
——させない!
地面を蹴った。
ザザッ!
麗子さんと蔦の間へ滑り込む。
右足に霊力を集中させた。
「——旋霊脚」
左脚を軸に、身体を捻る。
「天廻!!」
右足を横薙ぎに振り抜いた。
回転する霊力が、蔦へ叩き込まれる。
バキィッ!!
「……あ……!」
蔦が、粉々に砕け散った。
僕は、弾こうと思っただけなのに。
「何?」
ミラが片眉を上げた。
「柊……あんた……!」
麗子さんが、一瞬僕を見る。
「えっと……」
『柊!』
いや。今はそれより——。
「麗子さん!行ってください!!
僕たちがミラを止めます!!」
「……うっ……はぁ……」
麗子さんの片腕に抱えられた奏さんが、苦しそうに息を吐いていた。
「……わかったわ。
だけど絶対に無茶するんじゃないわよォ!」
「はい!」
麗子さんは奏さんを抱え直すと、壊れた鉄扉へ駆け込んだ。
「わしの毒を受けてもなお走れるか」
麗子さんの足取りが、一瞬ふらついた。
それでも、奏さんを抱えた腕は緩まなかった。
「さすがNo.8。余計に逃せぬわ」
ミラの蔦が再び地面を這う。
壊れた鉄扉へ向かって、勢いよく伸びていく。
『柊!霊力乗せてくれ!!』
「うん!」
言わなくても、何をしたいかわかった。
『旋霊嵐』
足元から風が湧く。
そこへ僕が霊力を乗せる。
右手を、目の前の蔦に向けた。
「轟!!」
ゴオォォォッ!!
青白い突風が巻き起こる。
突風が蔦を引き裂き、雑草を吹き飛ばす。
「……っ!?」
その先にいたミラにも、突風が襲いかかった。
ミラが風圧に押され、数歩後退した。
「くっ……!」
ミラの姿が消えた。
ガシャァンッ!!
金網が大きく歪み、支柱が音を立てて倒れた。
『おい柊!やりすぎだ!!
もうそこにあの女いねぇよ!』
「……あ!」
僕は右手を引っ込めた。
どうしよう。
力加減がわからない……!
気をつけようって思ってるのに。
震える右手を左手で押さえた。
その時。
「——お主」
上空から声が落ちた。
顔を上げる。
「随分とやるようになったのう」
ミラは再び研究所の屋上にいた。
いつの間に移動してたんだ……!
「……そう言えば、
あやつも“見くびるな”と言っておったな」
「え?」
「久しぶりに、本気で遊べそうじゃ」
ミラの赤い唇が、ゆっくりと吊り上がった。
「——花園」
ブワァッ!!
「蔦が……!?」
地面から這い出した無数の蔦が、空へ向かって伸びていく。
やがて、僕たちの頭上を覆うように絡み合った。
『んだコレ!?』
夕陽が遮られる。
まるで、蔦のドームに閉じ込められたみたいだ。
ブワァッ!
絡み合った蔦一面に、真紅の薔薇が咲いた。
「美しいじゃろ?」
「……何、この匂い……?」
香水みたいな、きつい香りが充満している。
僕が息を吸い込んだ瞬間。
ドクン!!
「……あ……」
指先が、痺れた。
「こっちの方が効きが早いのじゃ」
しまった。
この香りが……!
「お主の力は予想外じゃったが」
ミラは楽しそうに笑った。
「わしには到底敵わん」
「……はぁ……はぁ……」
胸を押さえる。
息が苦しい。
以前、篝くんの屋敷で毒を受けた時、
僕はまともに動くこともできなかった。
——怖い。
『クソ!』
「その状態でどこまでやれるかのう?」
スタッ。
ミラが僕の前へ降りた。
「ここからが本番じゃろ?」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:10月21日21時
第三百五十五話 代われ




