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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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第三百五十三話 全部、ちょうだい


 ***


 Side:柊


「……こっちだね」


 狛さんたちを見送り、僕たちは研究所の裏口へ向かっていた。


 左手には研究所の外壁。

 右手には、敷地を囲む金網。


 伸び放題になった雑草を踏みつけながら進んだ。


「人の気配がないわねェ」


 麗子さんが辺りを見渡した。


「でも、霊力を感じます」


 奏さんが建物を見上げる。


「……うん」


 この建物の中から、いくつもの異なる霊力を感じる。

 強いものも、弱いものも。


 一体、中に何があるのだろうか。


 僕たちは壁沿いに進み、建物の裏まで来た。


 角を曲がると——。


『あれじゃね?』


 灰色の鉄扉が見えた。


 扉の横には、カードキーの読み取り機。

 その上に、小さな監視カメラ。


「……裏口だ」


「どうします?鍵がかかってると思いますけど」


「監視カメラも動いてるわよねェ」


 カメラのレンズの脇で、赤いランプが点灯していた。


「とりあえず、この辺りで……」


 カメラの死角になりそうな、壁際へ移動した。


「少し待とう」


 奏さんが腕時計へ視線を落とす。


「そうですね。

 狛さんたち、ついさっき侵入したばかりですから」


『時間差でっつってたよな?』


「うん」

 

 今すぐ入ってしまったら、正面から注意を引いてくれている意味がなくなる。


『つか奏。三味線は?』


 そう言えば、

 今日は奏さん、三味線ケースをかけてない。


「今、改良中なんです」


「……改良?」


 僕は奏さんを見た。


「はい。なので、代わりのものを持ってきています」


『へぇ、何持ってきたんだよ?』


「後で見せますよ」


『出し惜しみすんなよ〜。気になるだろ!』


 麗子さんが研究所を見上げた。


「狛たち、大丈夫かしらねェ」


「……多分」


 “心配じゃない”と言ったら、嘘になる。


 もし、本当にミラがいたら。


 狛さんも伊吹さんも強い。

 桃華さんだっている。


 だけど、ミラは——。


『おい柊』


「……ん?」


『信じようぜ』


 ——颯。


「……そうだね」


 僕たちは、先輩たちが戦うと決めたことを信じた。


 だから、今は自分たちの役割を果たさなきゃ。


 狛さんたちが敵を足止めしてくれている間に、暮羽さんを探す。


 暮羽さんの他にも、あそこに囚われている人や霊がいるなら救いたい。


 僕は祈るように両手の指を組んだ。


 ——その時。


 ドンッ!!


 衝撃音が耳をつんざいた。


「今の……!?」


「戦闘が始まったのかもしれません……!」


 奏さんが扉に目を向けた。


「行きましょう!」


「うん!」


 僕は扉へ駆け寄った。


 ピキ……!


「え?」

 

 地面に細い亀裂が走った。


 次の瞬間。


 バキバキバキッ!!


「……え!?」


 緑色の蔦が、一斉に地面を突き破った。


「……あっ!」


 ——足元を絡め取られる!


『柊!霊力固めろ!!』


「……っ!」


 咄嗟に、身体の表面に霊力を集中させた。


 硬く……!


 バキッ!!


 僕の足元を締め付けようとした蔦が弾かれた。


 間に合った。

 棘も刺さっていない。


 だけど——。


「きゃあ!」


「奏さん!?」


 奏さんの方を向く。


「しまった……!」


 奏さんの足首に、蔦が巻きついていた。

 

「……っ、ああ!!」


 無数の棘が突き出す。


 棘が、皮膚に食い込んでいる……!


「奏!!」


 麗子さんが奏さんに向かって駆け出した。


 しかし——


 シュルシュルシュルッ!!


 上空から、蔦が伸びた。


「!?」


 麗子さんの腕に蔦が絡みつく。


「……ふんっ!」


 麗子さんが霊力を硬化させるより先に、


 プツッ。


「くっ!」


 棘が、麗子さんの腕に食い込んでいた。


「……あ……何よ……これェ……!!」


 麗子さんの声が震える。


「……はぁ……はぁ……」


 奏さんも苦しそうに息を吐いている。


「これって……!!」


 蔦と棘。

 この霊力。


 僕たちは知ってる。


『毒だ!!』


 僕はゆっくりと顔を上げた。


 麗子さんへ蔦が伸びてきた先。


 研究所の屋上に人影が見えた。


「……白瀬柊」


 ドクン!


 僕を、見ている。


 瞬間、屋上から影が消えた。


「どうじゃ?わしの毒は」


「!?」


 振り返る。


 金網の前に立つ、花魁姿の女。

 金の簪が夕陽を反射した。


「お主には弾かれてしまったようじゃな」


 ——ミラ。


「まあ、それくらいでやられるようでは面白くないからのう」


 ミラは歪んだ笑みを浮かべた。

 その背後で、無数の蔦が揺らめく。


「……あっ……」


 奏さんの膝が折れかける。

 

 ミラは奏さんと、腕を押さえる麗子さんへ視線を向けた。


「そこの二人は時間の問題じゃな」


 まずい。

 桃華さんは、建物の中にいる。


 ここには、毒を解ける人がいない。


『どうすんだよ……!』


「……っ柊くん!」


 奏さんが声を絞り出して叫んだ。


「この毒は……霊力にしか作用しません……!

 私は……霊力が尽きても、消えません……!」


「奏さん……!」


「でも……麗子さんは……消えてしまいます……っ!」


 奏さんが震える手をポケットに入れた。

 

「私が……桃華さんを呼んできます……!」


 取り出したのは、小刀だった。


 ズバッ!


 小刀に霊力を流し、奏さんは足元に絡みつく蔦を切り裂いた。


「……備えておいて……はぁ……よかったです……」


 ミラが首を傾げる。


「そんな身体ではロクに動けんじゃろう?」


「……それはどうかしらァ?」


 麗子さんは腕を振り上げると——


 ブチィッ!!


 ミラの蔦を引き千切った。


「アタシを、舐めてもらっちゃ困るわねェ……!」


 麗子さんのこめかみに青筋が浮かぶ。


「奏!!」


「……っ、はい!」


「霊力、全部アタシにちょうだい!

 毒で削られる前に!!」


「なるほど……!わかりました!!」


『おい!んなことしたら、奏が戦えなくなるだろ!』


 颯が叫ぶ。

 だけど奏さんは躊躇わずに両手を伸ばした。


「麗子さん!頼みます!!」


 ブワァァァ!!


 奏さんの指先から麗子さんへ、一直線に霊力が注がれていく。


 ——こんな量を、一度に!?


 ぽたっ……。


 奏さんの鼻から血が落ちた。

 

 奏さんの身体から霊力の気配が消え、

 代わりに麗子さんの霊力が一気に膨れ上がる。


 麗子さんが拳を振り上げた。


「行くわよォ……!」


 ドォォォン!!


 裏口の鉄扉を拳で叩き割った。


「アタシが必ず、桃華を呼んでくるわ」


 ガシッ!


 麗子さんが奏さんを片手で抱え上げた。


「奏も連れていくわ!

 だからアンタたちは、その女をお願い!」


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:10月20日21時

第三百五十四話 まだ、届かない

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