第三百五十二話 もう、戻ってこない
「紫苑?」
そうか。
こいつ、紫苑に恨みがあるのか。
守護霊を、奪われたから。
でも。
——『あの虎にお願いされちゃった⭐︎』
——『“白寧を死なすな“って⭐︎だから助けてあげたー』
「あの日、紫苑はお前のことを助けたんだぞ……!」
「助けタ?」
白寧が首を傾げた。
「俺の白虎ヲ消しておいテ?」
「ああ!お前の白虎の言葉を聞いてな!」
「でも、白虎は消えタ。
……もう、戻ってコナイ」
その声が、
やけに弱々しくホールへ響いた。
「友達、だったんだよね……」
伊吹が俯く。
カツン。
「それはあなたが道を間違えたせいでしょう?」
「……桃華ちゃん」
「白虎だって、自分が消えてもあなたが救われるなら本望だったはずよ」
「俺は、救われてなんかイナイ」
「久世紫苑が助けなかったら、どうなってたのかしらね」
「そうだよ……!
常夜が助けてくれたとは思えない……!」
伊吹の言うとおりだ。
きっと、
あの時、紫苑がいなかったら助からなかった。
こいつも、俺も。
「それに、あなたまだ未成年なんじゃないの?」
「そうだ!お前だって、まだやり直せるだろ!?
どうしてまた常夜にいるんだ!」
伊吹だって、響だって。
それぞれの過去と向き合い、今は前へ進もうとしている。
「……許せナイから」
白寧の赤い霊力が揺らめく。
「白虎がイナイなら、俺は死んだ方がマシダッタ……!」
「……チッ」
桃華が舌打ちした。
「命を粗末にする人間は嫌いよ」
「お前ニ……何がワカル……!」
「わからないわ。
桃華は、あなたと白虎がどんな関係だったのか知らないもの」
「桃華ちゃん……!
白寧は、それだけ白虎が大事だったんだよ!」
「白虎が大切なら、白虎が守ってくれたあなたの命も大事にしなさいよ」
「……そんなこと、わかってル」
白寧が歯を食いしばった。
「もういい?
話が済んだなら、暮羽の居場所を教えてちょうだい」
桃華が足踏みする。
ヒールが床を打つ音が響いた。
「わかっていてモ……許せナイ……!」
「話にならないわね」
白寧が拳を構えた。
「お前たちモ、俺と同じ思いをすればイイ……!」
「黒狼!」
「アオーン!!」
黒狼が漆黒の光に変わり、
俺の胸元へ一直線に吸い込まれていく。
「失う痛みヲ、思い知レ……!」
ドクン!!
鼓動が二つ、脈動した。
白寧が床を蹴る。
「狛くん!」
ドォンッ!!
——速い!
白寧の拳を、ギリギリ腕で受け止めた。
見えたわけじゃない。
反射的に腕を出しただけだ。
「……くっ……」
重い。
以前戦った時よりも、ずっと。
足元が滑る。
こいつ、
一体何の力を手に入れたんだ……!?
「食霊法!!」
伊吹の声と同時に、身体の奥から霊力が湧き上がった。
ブワァッ!!
俺はその力を拳に込め、白寧を押し返した。
「……ふん」
白寧は後方へ跳び、着地した。
「伊吹!助かった!」
「サポートする!思いっきりやって!」
伊吹は後方へ下がり、二個目の弁当を取り出した。
「あと九個あるから!!」
「……もう、一個食べたのか?」
伊吹がご飯を頬張る。
「うん!もぐもぐ……ごくん!」
ブワッ!
伊吹の身体から、霊力が溢れ出した。
「狛くん、もいっちょいくよ!」
「ああ!」
伊吹が俺へ掌をかざす。
ブワァァァア!!
身体の奥から霊力が湧き上がる。
——これなら、いける。
黒狼との共霊が、さらに強化されている。
「まだまだいけるよ〜!」
「……邪魔ダナ」
白寧の目線が伊吹へ移った。
瞬間、白寧の姿が消える。
「わ!」
——まずい!
咄嗟に伊吹の前へ飛び出した。
さっきは見えなかった拳が、今度は見えた。
「……!」
ドゴォッ!!
白寧の拳が俺のみぞおちを抉った。
「……かっ、は……」
身体が、追いつかなかった。
「何やってるのよ」
ポワッ。
今度は桃色の霊力に包まれる。
霊力が戻る。
痛みが——和らいでいく。
「しっかりなさい。
痛みは緩和できても怪我は治せないわよ」
桃華の手元に、桃色の光が揺らめいていた。
「……ああ。ありがとう」
次は、いける気がする。
「邪魔ガ、多スギル」
白寧が桃華を睨みつけた。
「あなただけなら、勝ち目はないんじゃない?」
俺たちは三人……いや、黒狼を入れて四人。
白寧は強い。
だが、勝算はある。
「……少なくとも、ミラはまだ姿を見せないわね」
桃華が呟いた、その時——。
ドォォォン!!
建物の外から、何かがぶつかり合う音が聞こえた。
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※次回更新:10月19日21時
第三百五十三話 全部、ちょうだい




