第三百五十一話 何と共霊している?
***
Side:狛
「行くぞ」
「また後でね〜!」
「気をつけて下さい!」
柊の声に、振り返らず片手を上げて返した。
「……」
柊は、強くなった。
紫苑をあそこまで追い詰められるくらいに。
きっと、俺よりも上に行ったんだろう。
それでも、
俺と柊の関係が変わるわけじゃない。
「……狛くん?」
「いや」
伊吹だって、そう思っているはずだ。
だから——
俺たちが前に出たいと思った。
「早くしなさい」
「ああ」
鎖を潜り、桃華の後を追って正門へと進んだ。
建物の入り口で桃華が立ち止まる。
「見なさい」
桃華は腕を組むと、ドアの横へ目をやった。
カードキーの読み取り機。
その上には、小さな監視カメラ。
赤いランプが不気味に光っていた。
「……動いてるな」
その時——。
バキン!
青い光が瞬くと同時に、防犯カメラが砕ける。
パラパラと落ちる破片に混ざって、宝石が一つ瞬いたのが見えた。
「今さら、遅いでしょうけど」
——桃華だった。
伊吹が正面玄関のドアを引いた。
ガチャガチャ。
「閉まってるね〜」
「そりゃそうでしょう」
「壊す?」
「……下がってろ」
「おっけ〜!」
霊力を右腕に集め、旋回させる。
鍵の周囲だけを狙って、拳を叩き込んだ。
バキッ!!
ドアが内側へ歪んだ。
「……野蛮な方法ね」
桃華は目を細めていた。
「仕方ないだろ」
壊れた扉を押し開ける。
中から、冷えた空気が流れてきた。
「……行こう」
足を踏み入れる。
正面玄関を抜けると、二階まで吹き抜けになった広いホールが広がっていた。
白い壁と灰色の床。
ガラス張りの手すり。
思っていたより綺麗だ。
正面には受付らしいカウンター。
その奥に、幅の広い階段が見えた。
二階には、ホールを囲むように回廊が伸びている。
「……誰もいないね?」
「ああ」
だけど、埃が少ない。
人が出入りしている証拠だ。
「これ」
桃華が壁の案内板を指差した。
【一階】
【受付/搬入区画】
【二階】
【資材保管室】
【三階】
【研究・実験区画】
【四階】
【管理区画】
【地下区画】
【——】
「消されてる……?」
地下だけ、文字が黒く塗り潰されている。
「怪しいわね」
「見るまでもなくな」
その時。
——ブン……。
微かに音が聞こえた。
「……何?」
伊吹が辺りを見渡す。
……機械音?
どこからか、
一定の間隔で響いてくる。
ブン……。
ブン……。
「地下か?」
「……かもしれないわね」
足元へ意識を向ける。
床下から嫌な霊力を感じた。
冷たい。
そして——重い。
「……いるね」
伊吹が俺を見た。
「ああ。しかも多い」
一体や二体じゃない。
もっと多い。
「下だけじゃないわよ」
桃華が吹き抜けを見上げた。
俺もつられて顔を上げる。
「……」
誰もいない。
なのに、
見られているような感覚が消えない。
「狛くん」
伊吹の声が低くなった。
次の瞬間——
ヒュッ!
二階から、黒い影が落ちてきた。
「……っ!」
咄嗟に後方へ飛んで避ける。
「桃華ちゃん、危ない!」
伊吹が咄嗟に桃華を庇った。
「ピィー!!」
指笛を鳴らし、黒狼を呼ぶ。
ドンッ!!
黒い影がホールの中央へ着地した。
衝撃で床に亀裂が走る。
影が、ゆっくりと立ち上がった。
「……東雲狛」
「……っ!」
立ち襟の黒いコート。
後頭部で半分だけ結んだ白髪。
吹き出す赤色の霊力。
忘れるはずがない。
「——白寧」
捕まっているはずの男が、
そこに立っていた。
「どうして……!?
捕まったんじゃないの!?」
伊吹が桃華を庇ったまま叫んだ。
「……俺は、捕マッタ」
一歩。また一歩。
白寧が俺との距離を詰める。
「お前タチのせいでナ……」
「アオーン!!」
駆けつけた黒狼が、
俺を庇うように前に立った。
「お前……」
確かに白寧。
片言の話し方もあの日のまま。
だけど、中にいるのは白虎じゃない。
それもそうだ。
あの日、白寧の白虎は紫苑が奪ったのだから。
中にいるのは——?
「……霊害か?」
「そんなはずない」
桃華が伊吹の腕を振り払った。
「常夜の強制システムで霊害をねじ込まれたなら、自我を保てないはずよ」
「……よく知っているナ」
意識も、記憶も残っている。
こいつは白寧のままだ。
じゃあ、
こいつは何と共霊している?
白寧が俺を見た。
「……久世紫苑はどこダ?」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:10月18日15時
第三百五十二話 もう、戻ってこない




