第三百五十話 戦うって、決めた
「狛さん、伊吹さん。
あそこに、ミラがいるかもしれないんです」
僕の言葉に、狛さんは頷いた。
「ああ。わかっている」
「危険ですよ」
「柊くん!」
伊吹さんが前へ出た。
「危険なの、君だってそうだよ。
それにさ」
伊吹さんが両手で僕の手を取った。
「そりゃ紫苑くんには敵わないけどさ〜。
ボクたちだって鍛えてきたんだから!」
「……あ」
「あのね」
伊吹さんの声色が変わった。
「狠ちゃん。すごく落ち込んでるの」
「……っ」
——狠くん。
「人の役に立てると思ってやったことが、人を傷つけるために使われた。しかも狛くんや紫苑くんまで傷ついたって、自分を責めてる」
全てが狠くんのせいじゃない。
それでも、自分を責めてしまう気持ちは想像できる。
「まだ十五歳の子の気持ちを、自分たちの都合で利用した。
久世家も常夜も、ボクは許せない」
伊吹さんが僕の目を見た。
「だからボクは戦うって、決めた」
——覚悟した瞳だった。
「ま、前から常夜のことはどうにかしなきゃって思ってたしね!
あの研究所、霊力の薬を作ってるところかもしれないんでしょ?」
伊吹さんの目線が研究所へ移った。
「あそこにも利用されてる霊や人がいるのかもって思ったらさ」
ザァ……。
風が僕たちの間を吹き抜けた。
「暮羽さんのことはもちろんだけど。
あそこに囚われた霊や人たちのことも助けたい」
伊吹さんの手が僕から離れる。
「麗子ちゃん。
自分も常夜にいたのかもしれないって、前に言っていたよね?」
「……ええ。はっきり覚えてるわけじゃないけどね」
——“No.8”。
常夜の連中はいつも、麗子さんのことをそうやって呼んでいた。
赤い霊力の薬を作り出すために、利用されていたのかもしれない。
僕は研究所へ目をやった。
麗子さんのように、あそこに囚われている霊がいて、
その力が、誰かを傷つける力に使われているとしたら。
やっぱり、許せない。
「柊、颯」
狛さんが僕たちを呼んだ。
「はい」
『うっす』
「お前たちは本当に強くなった。
だけど、俺と伊吹の方が祓い師としての経験はずっと上だ」
「うん!」
伊吹さんが笑顔を見せる。
「俺たちに任せてほしい」
「まさか、ボクたちのこと弱いだなんて思ってないよね〜?」
「いえ……!そんなことは……!」
「安心して!!」
伊吹さんがくるりと背を向ける。
パンパンに膨らんだリュックが見えた。
「お弁当十人前持ってきたから!!」
『どんだけ食うつもりだよ』
「パンとお菓子もいっぱい入ってるよ!」
「……怪物ね」
「……はは」
思わず苦笑いしてしまった。
桃華さんが狛さんを指差す。
「正面から東雲狛と春日伊吹が行くなら、桃華は二人と行くわ。
白瀬柊たちは時間差で裏から入ってちょうだい」
「……」
本当に、先輩たちに任せていいのか?
『……柊?』
「……いや」
——『ボクは戦うって、決めた』
あの目を、信じる。
「了解です」
「きまりだな」
「建物が大きいので、手分けする必要がありそうですね」
奏さんが研究所を見上げた。
「光流くんが来るまで、私は麗子さんと動こうと思います」
「ええ。お願いよ」
「暮羽を見つけるのはもちろんだけど、
他にも囚われた霊や人がいるなら助けましょう」
桃華さんが研究所へと足を進める。
一瞬、振り返って僕たちを見た。
「行くわよ」
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※次回更新:10月18日12時
第三百五十一話 何と共霊している?




