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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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第三百四十九話 正直、怖い


 ***


 Side:柊

 

 午後五時四十五分。

 籠屋市南区。

 

 住宅街を抜けると、低い工場や倉庫が増えていった。


「……あそこのようですね」


 奏さんが指差したのは、四階建ての白い建物だった。


 薄汚れた外壁。

 窓は妙に少ない。


 正門には色褪せた看板が残っていたけれど、

 会社名らしき文字はほとんど消えていた。


 敷地を囲う金網の向こうには、伸びた雑草が見える。


「ここ……?」


 僕は建物を見上げた。


 一見すると、ただの操業を止めた研究施設だ。


 だけど、淀んだ霊力が充満している。


「光流くんは?」


 奏さんが僕の方を向いた。


「まだ終わらないんですか?」


「あ……さっきDM来てて、もうすぐ終わるって言ってたけど……」


 ポケットからスマホを取り出して確認した。


 17:44【Hikaru Asakura】

 【ごめん!この後公園に移動して最終確認するらしい!】


 【一時間くらいで終わると思うけど!終わったらすぐ向かうから、位置情報だけお願い!】


「これ……」


 スマホの画面をみんなに見せる。


「光流はこういうの抜けられないわよねェ」


「待ってられないわよ」


 桃華さんが目を細めた。


「東雲狛と春日伊吹は?」


「十八時にって伝えてあるので、もうすぐだと思いますが……」


 僕はスマホをポケットに戻した。


「どうしますか?」


「先に作戦を考えましょ。

 入り口は正面と……裏にもありそうね」


『鍵がかかってるだろ』


「壊せばいいだけよ」


「強引に入ればすぐに気づかれますよね?」


 僕の問いに、桃華さんは鼻を鳴らした。


「どうせ桃華たちが来ることは読まれてるわ」


「それもそうよねェ」


 奏さんが右の掌を広げ、左手で二本指を立てた。


「響からの情報では、常夜の幹部は全部で七人。

 戒と白寧は捕まり、暮羽さんと響は抜けた」


『残りは三人しかいねぇよな?』


「灰堂と喝采、それからミラ」


 奏さんが指を折る。


「ですが、灰堂と喝采はこれまでの戦いで敗れています。

 響が言うには、常夜のトップは敗北を許さない人だと。

 二人は実験体に回されている可能性が高いとのことでした」


 実験体って……。


 僕は眉を寄せた。


「あの、強制共霊システムに……?」


「ええ。かけられていてもおかしくありません」


「でもあのシステムは自我が保てないんでしょォ?

 そんな危険なやつが、大事な研究所を管理できるとは思わないわァ」


『じゃあ、あのミラって女がいるんじゃねぇの?』


「響が言うには、ミラは研究所の管理には関わっていないそうです。

 常夜の中でも、ミラはトップに従わない存在だったらしくて」


「だから暮羽もいけると考えたんでしょ?

 ミラがいるなら暮羽が一人で行くはずがないもの」


「でもアタシたちが来ると予想して、ミラが来てる可能性はあるわよね」


「それか……新たな幹部がいるのかもしれません」


『んなもん、行ってみなきゃわかんねぇだろ』


「……」


 僕は地面に視線を落とした。


 ミラは強い。


 僕も以前、篝くんの屋敷でやられた。

 奏さんたちも、花火大会の夜に殺されかけている。


 もし、彼女がここにいるのだとしたら——。


 正直、怖い。

 それでも、誰かに任せるだけじゃ駄目だと思った。


 視線を上げる。


「僕がミラと戦うよ」


 狛さんと伊吹さんでも、勝てるかわからない。


 ——僕なら。


「足止めするくらいなら、できるかもしれない」


『おうよ』


「それなら白瀬柊と颯に、桃華がつくわ」


 カツン。


 桃華さんが一歩前へ出た。


「桃華はあの女の毒を解毒できる」


「……確かにねェ」


「あの女が現れたら、桃華たちが足止めする。

 その間にあなたたちは暮羽を探してちょうだい」


「だけど、敵はミラだけとは限らないですよ」


「その時は東雲狛たちに戦ってもらいましょう。

 それに、あなたたち二人も戦えないわけじゃないでしょう?」


「奏、光流の代わりにアタシのサポートしてくれるゥ?」


 麗子さんが奏さんを見下ろした。


「もちろんです」

 

「いい?初めに、桃華たちが正面から突入する。

 時間差で、二人は東雲狛たちと裏口から侵入するのはどうかしら?」


 僕が頷こうとした、その時。


「——待て」


 背後から、見知った声がした。


 振り返る。


「俺たちが正面から突入する」


「狛さん……!」


 狛さんの背中から、伊吹さんが顔を出した。


「ボクたち先輩なんだからさ〜!任せてよ!」


 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:10月17日15時

第三百五十話 戦うって、決めた

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