第三百四十七話 今度こそ
『……それで』
電話口の声が、狛さんに代わる。
『お前たちが集まって電話してきたのは、何か事情があるんだろう?』
「……」
顔を上げると、奏さんと目が合った。
奏さんが桃華さんへ視線を送る。
「桃華さん」
桃華さんがため息を吐いた。
「……暮羽が帰って来ないのよ」
『暮羽さんが?』
「昨夜からね。第二研究所に向かった可能性が高いわ」
『常夜の研究所か』
「ええ。
赤い霊力の薬を作ってた場所。暮羽の元管轄でもある」
『……それで、様子を見に行くのか』
「そういうこと。
暮羽は久世葵の力を気にしてた」
桃華さんは指で肘を叩きながら話した。
「五元素に氷はないでしょ?
なのにあの女、氷の力を使ってたのよ」
『どういうことだよ?』
颯が尋ねる。
「他にも作っているのかもしれないのよ。
霊力に作用する何かをね」
「暮羽はそれを調べに行ったってことォ?」
「調べに行ったのかどうかはわからないわ。
だけど暮羽が行きそうなところが他に思いつかない」
『……なるほど』
桃華さんの指が止まる。
「暮羽は考えなしに動くような人間じゃないわ。
それでも帰って来ないってことは、何かあったのよ」
「何かって……?」
僕は口元に手を当てた。
「何か——想定外のことが起きたのよ」
桃華さんが片手で髪を払った。
「考えてもわからないわ。
で、あなたは来れるの?来れないの?」
『俺は——』
『行けば⭐︎?
僕のとこにいてもやることないじゃん⭐︎』
『紫苑』
『狠には母親もついてるでしょ〜⭐︎?』
『でも、お前が狙われたらどうする』
『もう誰も僕のことになんか興味ないよ⭐︎』
「……」
二人の会話に、僕たちは黙って耳を傾けていた。
『……紫乃様は?』
『怒ってるだろうね⭐︎』
紫苑さんの乾いた笑い声が漏れる。
『でもそれだけでしょ』
「……」
久世紫乃は紫苑さんを溺愛してたって聞いた。
力がなくなったら、
本当に、もうどうでもいいのだろうか。
僕は眉尻を下げた。
『どうしても心配なら、狛のパパだけ置いてってよ⭐︎
どうせまだ捜査には復帰できないでしょ⭐︎?』
『それもそうだが……』
『てことで⭐︎
狛は行けるし、伊吹も終わったら動けるよね⭐︎』
「わかったわ」
『……伊吹には俺から連絡しておこう』
「ええ。よろしく」
「急いだ方がいいですよね?」
奏さんが腕時計へ視線を落とした。
『柊。どこへ何時に集まるか、DMで送っておいてくれ』
「あ……はい」
一緒に行く人が、増えていく。
——今夜。
戦いが始まるのかもしれない。
また、力を使うことになる。
そう思った途端、胸の奥が重くなった。
今度こそ、ちゃんと選べるだろうか。
『柊』
颯が僕を呼んだ。
『慌てんなよ』
「……うん」
——颯。
僕は、
君のことを不安にさせているのかもしれない。
だから。
僕がちゃんと答えを出せれば。
颯も、安心して離れられるんじゃないか。
……そんな気がした。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:10月16日21時
第三百四十八話 タイトル未定




