第三百四十六話 味方だよ
スマホを耳に当てる。
プルルル……。
数回のコール音の後——
『……もしもし』
電話が繋がった。
「狛さん……!」
「柊くん。スピーカーにしてください」
「あ……うん」
奏さんに促され、僕はスピーカーボタンをタップした。
スマホをテーブルの上に置く。
『……ひとりか?』
スピーカーから狛さんの低い声が響いた。
「あ……颯と、奏さんと麗子さん、桃華さんもいます」
『そうか』
「……っと」
何から話そう。
とりあえず……。
「狛さん、今どこに——」
『代わって⭐︎』
電話の向こうで、あの人の声がした。
「……!」
それだけで、身体に力が籠ってしまう。
『はろー⭐︎』
紫苑さん。
『あ!?お前大丈夫なのかよ!?』
『大丈夫なわけなくなーい⭐︎?
昨日見てたでしょ⭐︎?重症重症⭐︎』
軽い。
全く、いつも通りだ。
『感謝してよね⭐︎
僕の綺麗な顔を犠牲にして守ってあげたんだから⭐︎』
——でも。
「……顔だけじゃないですよね?」
『……』
一瞬、
紫苑さんが言葉に詰まった。
『まあね⭐︎
ま、ずっと楽になったから⭐︎』
『は?重症なんだろ?』
『そういう話じゃない⭐︎』
「……」
『天才と違って、凡才は自由だよねって話⭐︎』
「自由……?」
力を持てば狙われる。
だけど、力が無ければ選べないこともある。
僕にはどちらも不自由に思えた。
自由であることと、力を持つことに、
関係ってあるのだろうか。
天才でも、凡才でも。
「……紫苑さんは紫苑さんですよ」
やり方は強引なのかもしれない。
だけど、
守ろうとして動いてきたことも、僕は知っている。
「大切な仲間です」
……僕はそう思う。
『キショ⭐︎』
「え!?」
『お前ってほんと馬鹿⭐︎そういうとこキモーい⭐︎』
「あらまァ。嬉しいって言えばいいのにねェ」
『おいゴリラ、何か言ってる⭐︎?』
「誰がゴリラですってェ!?」
「まあまあ……麗子さん……」
奏さんが麗子さんをなだめた。
『で⭐︎
僕たちが今どうなってんのか知りたいんでしょ⭐︎?』
「……はい」
身体のことはもちろん。
……立ち位置のことも。
『僕は火傷で入院中⭐︎意識戻ったの昼過ぎ⭐︎』
『紫苑、長く話すな』
『うるさ⭐︎ちなみに狛は無傷⭐︎
ずっと僕の付き添いしてたって⭐︎』
『伊吹は俺の母親と、狠に付き添って警察署に行ってる』
狛さんが紫苑さんの言葉を継いだ。
『レプリカ拳銃の件はそろそろ解決するだろう』
「解決ですか?」
僕は眉をひそめた。
『蒼嶺が動いてるっぽいし⭐︎』
「久世蒼嶺……」
「東雲家を狙う必要がなくなったからですか?」
奏さんが尋ねた。
『さあね⭐︎』
紫苑さんは何も言わない。
だけど、
昨夜の御影家での出来事と、何も関係ないわけがない。
「お二人は……」
奏さんの声が低くなる。
「変わらず、私たちの味方ですよね?」
「……っ」
紫苑さんと狛さんが久世家につくなら、
霧島家と敵対することになる。
それだけじゃない。
久世家は常夜ノ会と繋がっている。
『……』
わずかな沈黙が、
気が遠くなるほど怖かった。
『ああ』
答えたのは狛さんだった。
『俺たちはお前たちの味方だ』
「あ……」
その言葉に、一気に力が抜けた。
『拳銃の件、心配をかけて悪かった。
真実は狠が話した通りだ』
「そうですよね」
奏さんが息を吐く。
「三流派の抗争で、久世家側につくつもりはないと信じていいですか?」
『俺たちは三流派の抗争に関わるつもりはない。
久世家が常夜とつるんで、祓い師と関係のない人間や霊に手を出すなら止めるつもりだ』
『ま、狛は久世家の傘下だからそうもいかないと思うけどね〜⭐︎』
『……俺は、久世家に従うつもりはない』
——狛さん。
『家は関係ない。俺が守りたいものは、俺が決める』
迷いのない声だった。
『それに、久世家なら東雲家の力なんて当てにしないだろう』
『そうだといいね⭐︎』
「久世紫苑」
それまで黙っていた桃華さんが口を開いた。
桃華さんの足がわずかに揺れる。
「あなたはどうなのよ?」
『さあ⭐︎?』
『はぁ!?』
『だって僕、昨日柊にめちゃくちゃ殴られたし〜⭐︎
痛かったんですけど〜⭐︎』
「それは……本当にすみません」
……謝ることしかできない。
『謝るなら最初から殴んないでくれる⭐︎?』
『あのなぁ!お前だって——』
『味方だよ』
「……!」
僕は目を見開いた。
『ま、馬鹿なやつの方が信じられるし⭐︎?』
「……あ」
——それなら。
「……馬鹿で、よかったです」
ほんの少しだけ、口元が緩んだ。
『キモ⭐︎』
この人も、
電話の向こうで笑っている気がした。
『てか僕は狛がいる方につくだけだから〜⭐︎』
「素直じゃないわねェ」
「紫苑さん」
『何〜⭐︎?』
「後で、お見舞いに行きますね」
ちゃんと目を見て謝りたい。
そして、
この人の口から真実を聞きたい。
『来んな⭐︎』
「え」
『お前が来る前に退院するから⭐︎』
『いや普通に考えて無理だろ』
颯が呟いた。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:10月15日21時
第三百四十七話 タイトル未定




