第三百四十四話 選ぶ前に
「柊くん」
篝くんは顔を上げて僕を見た。
「僕は、二人の言葉を信じようと思う」
窓から差し込む光に、
篝くんの灰色の瞳が煌めいて見えた。
「だけど、自分の力が怖いのは変わらない」
篝くんが目を伏せる。
「罪悪感も、拭えない」
「……」
「だから……」
一拍。
沈黙が流れた。
「もう僕は、前みたいに戦えない」
「……あ」
「君は、どうする?」
——僕は?
何のために、どうやって力を使うのか。
今の僕たちには、答えがない。
「僕も……今のままじゃ戦えない」
拳を握りしめた。
「でも、何もしないつもりはない」
『……柊』
「僕は、久世紺士に話を聞きに行く」
僕の言葉に、篝くんが眉を寄せた。
「本気?」
「うん。昨日、みんなとも話したんだ。戦いを止めたい」
「紺士様が襲ってきたらどうするの?」
「……わからない」
それでも。
「何も知らないまま、敵だって決めつけたくないんだ」
僕がどうするのか。
「選ぶのは、ちゃんと知ってからにしたい」
「……」
篝くんは何も言わなかった。
その時。
ヴヴヴー!!
「わっ」
ズボンのポケットの中でスマホが震えた。
慌ててスマホを取り出す。
『誰だよ?』
「……奏さんだ」
ちらりと篝くんに目をやった。
「……出ていいよ」
「ごめんね」
スマホの通話ボタンをタップした。
『もしもし、柊くん?今大丈夫ですか?』
「あ……うん」
教室のざわめきが、電話の向こうから聞こえた。
『篝くんとは会えました?』
「うん。今一緒にいる」
『そうですか。詳しく聞きたいところなのですが……』
『何かあったんだろ?』
颯が尋ねた。
『はい。実は、学校に桃華さんの姿が見当たらなくて、気になって桃華さんに電話したんですよ』
——桃華さん?
「……うん?」
『そしたらさ!』
電話口の声が光流くんに変わった。
『暮羽さんが昨日の夜から帰ってないらしくて!』
『桃華さんが就寝するまでは屋敷にいたらしいのですが……』
『その後どっか出かけて帰ってないっぽい!』
『昨夜って、俺らが久世家と戦ってた時か?』
『たぶんね!』
颯の問いに光流くんが答えた。
「昨夜……」
——胸騒ぎがする。
「行き先に心当たりは……?」
『それが……常夜の研究所へ行ったかもしれないって……』
『はあ!?あそこは燃えただろ!?』
「……っ」
篝くんの肩が揺れた。
『以前、私たちが潜入したのは第三研究所です。
研究所は他に二つあるそうで……暮羽さんは第二研究所へ向かったのではないかと』
そうか。
暮羽さんは常夜ノ会にいたから。
『そんなん一人で行ったら危ねぇだろ!』
『第二研究所は、以前は白寧と暮羽さんの管轄だったそうです』
「白寧って、警察に捕まったんだよね?」
『はい。それに昨夜は、御影家でもあんなことがありましたから……』
『今なら守り薄いって、暮羽さん考えたんじゃね?』
『私も、そう思います』
「でも、潜入って何のために?」
『桃華さんが、暮羽さんは常夜の薬を気にしてたって言っていました。
第二研究所では、あの赤い霊力の薬が作られていたらしいです』
「奏さん、どうしてそこまで知ってるの?」
『響に聞いたんですよ。
第二研究所の場所も教えて貰いました』
『だから、まず近くまで行って様子見ようと思って!
行く前に柊と颯に連絡しとこってなったの!』
「待って!僕も行く」
光流くんの言葉に、間髪入れずに答えた。
『でもそっち大丈夫なん?』
「こっちは……」
篝くんは、宵くんと灯さんに抱きしめられたままだった。
「……」
宵くんと灯さんが僕を見て静かに頷く。
「——大丈夫」
僕は三人を信じる。
「どこへ行けば良い?」
『俺らはとりあえず桃華ちゃんと合流する!
桃華ちゃんちの住所送るからそこに来れる?』
「うん!すぐ行く!」
『おっけ!じゃ、一旦電話切る!』
僕はスマホを耳元から下げた。
「篝くん」
「……行かなきゃいけないんでしょ?」
「うん」
『篝!悪ぃな!』
「ううん」
僕は篝くんに背を向けた。
「明日さ、体育祭があるんだ」
——雨は上がった。
「……」
「君にも来てほしい」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:10月13日21時
第三百四十五話 タイトル未定




