第三百四十一話 鍵をかけた記憶
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Side:柊
「——病院は燃えました」
宵くんは肩を震わせながら話した。
「篝様も、僕たちも無事でした」
「宵の焔が守ったのですわ」
——そんなことが。
篝くん。
十一歳の君は、
一体、何を思っていたのだろう。
想像するだけで、息が詰まった。
「……翌日、篝様はご実家に戻られました」
宵くんが視線を上げる。
蒼い瞳が僕を捕らえた。
「あの時、僕たちは共霊が解けないままだった」
「え……!?」
「……今の君たちと同じだったんだよ」
宵くんが灯さんを見た。
「そして数日後、御影本家で三流派の特訓があったのですわ」
「そこで、篝様は久世葵と対峙しました。
篝様は放心状態のまま畳へ上がりました」
『は……?』
「そこでまた焔が暴走して……」
一瞬、灯さんが言葉に詰まった。
「特訓場を焼き尽くしたのです。
私たちにも止められませんでした」
『何でそんな状態でやらせたんだよ!』
颯が叫んだ。
「狭霧様に意図があったのだと、僕たちは後で十哉様に聞きました」
「意図って……?」
僕は眉をひそめた。
「久世家への牽制です」
「篝様の力を見せることで、久世家が迂闊に手を出せないようにしたのですわ」
「当時は、御影家も霧島家も“久世家が動く”と警戒していたから」
「久世紫苑が破門されて、久世家の内輪揉めが収まったように見えた。
“中がまとまれば、次は外へ向くかもしれない”と、十哉様は仰っていましたわ」
「少なくとも、その後しばらく久世家は御影へ直接手を出しませんでした」
それって、つまり——。
「……狭霧さんが篝くんを使ったってこと?」
「白瀬柊」
灯さんが僕を見た。
「狭霧様も、本意ではなかったのですわ」
「……狭霧様は篝様の父親であると同時に、御影家の当主でもありますから」
——家を、守るために?
「それに、篝様があの状態のままで……
昨夜の襲撃のように久世家が突然攻めて来ていたら……」
宵くんがわずかに篝くんへ視線をやった。
「それこそ、どうなっていたかわかりません」
「あの日、御影家は十哉様をはじめ、水の元素付きを多数配置しておりました。
何の備えもなく、篝様を戦わせたわけではないのですわ」
「……」
それでも、
胸の奥が落ち着かなかった。
「特訓の後、篝様は籠屋市内の別邸へ移りました」
「以前、灰堂が攻めてきた屋敷ですわ」
僕の家に来る前に、篝くんが住んでいた屋敷。
あの場所も、篝くんの焔で焼けてしまった。
「篝様は専門家の治療を受けました。
強い暗示を用いた治療だったと聞きました」
「そして、篝様の中から——
あの日から数日間の記憶が消えたのですわ」
「……っ!」
そういうことだったんだ。
「篝様の記憶がなくなった後、僕たちの共霊は解けました。
何故なのかは……はっきりわかりません」
「あ……」
「篝様は、次第に元気を取り戻されましたわ」
灯さんの瞳が潤んだ。
「あの火事の後から……誰とも何も話さず……食事もろくに喉を通らなかった篝様が……
また……私たちに笑いかけて下さったのですわ」
「……灯さん」
「だから——僕たちは真実を隠すことに決めたのです」
こうして、
あの日の記憶に鍵をかけた。
そうでなければ、
篝くんは生きていけなかったのかもしれない。
「その後、篝様には夜驚の症状が出るようになりました」
「夜驚症……」
——『……うう……怖い……怖い……』
あの夜、
子どもみたいに僕にしがみついた君を思い出した。
君はずっと、
君自身が怖かったんだろう。
何でも自分が悪いみたいに話す、
篝くんの癖を思い出した。
ずっと、
自分を好きになれなかったのかもしれない。
「篝くん……」
篝くんは、何も言わなかった。
ただ、
伏せた瞳から涙が伝っていた。
「これが、五年前の全てです」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:10月7日21時
第三百四十二話 友達なんだから




