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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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第三百四十一話 鍵をかけた記憶


 ***


 Side:柊


「——病院は燃えました」


 宵くんは肩を震わせながら話した。


「篝様も、僕たちも無事でした」


「宵の焔が守ったのですわ」


 ——そんなことが。


 篝くん。

 

 十一歳の君は、

 一体、何を思っていたのだろう。


 想像するだけで、息が詰まった。


「……翌日、篝様はご実家に戻られました」


 宵くんが視線を上げる。


 蒼い瞳が僕を捕らえた。


「あの時、僕たちは共霊が解けないままだった」


「え……!?」


「……今の君たちと同じだったんだよ」


 宵くんが灯さんを見た。

 

「そして数日後、御影本家で三流派の特訓があったのですわ」


「そこで、篝様は久世葵と対峙しました。

 篝様は放心状態のまま畳へ上がりました」


『は……?』


「そこでまた焔が暴走して……」


 一瞬、灯さんが言葉に詰まった。


「特訓場を焼き尽くしたのです。

 私たちにも止められませんでした」


『何でそんな状態でやらせたんだよ!』


 颯が叫んだ。


「狭霧様に意図があったのだと、僕たちは後で十哉様に聞きました」


「意図って……?」


 僕は眉をひそめた。


「久世家への牽制です」


「篝様の力を見せることで、久世家が迂闊に手を出せないようにしたのですわ」


「当時は、御影家も霧島家も“久世家が動く”と警戒していたから」


「久世紫苑が破門されて、久世家の内輪揉めが収まったように見えた。

 “中がまとまれば、次は外へ向くかもしれない”と、十哉様は仰っていましたわ」


「少なくとも、その後しばらく久世家は御影へ直接手を出しませんでした」


 それって、つまり——。


「……狭霧さんが篝くんを使ったってこと?」


「白瀬柊」


 灯さんが僕を見た。


「狭霧様も、本意ではなかったのですわ」


「……狭霧様は篝様の父親であると同時に、御影家の当主でもありますから」


 ——家を、守るために?


「それに、篝様があの状態のままで……

 昨夜の襲撃のように久世家が突然攻めて来ていたら……」


 宵くんがわずかに篝くんへ視線をやった。


「それこそ、どうなっていたかわかりません」


「あの日、御影家は十哉様をはじめ、水の元素付きを多数配置しておりました。

 何の備えもなく、篝様を戦わせたわけではないのですわ」


「……」


 それでも、

 胸の奥が落ち着かなかった。


「特訓の後、篝様は籠屋市内の別邸へ移りました」


「以前、灰堂が攻めてきた屋敷ですわ」


 僕の家に来る前に、篝くんが住んでいた屋敷。


 あの場所も、篝くんの焔で焼けてしまった。


「篝様は専門家の治療を受けました。

 強い暗示を用いた治療だったと聞きました」


「そして、篝様の中から——

 あの日から数日間の記憶が消えたのですわ」


「……っ!」


 そういうことだったんだ。


「篝様の記憶がなくなった後、僕たちの共霊は解けました。

 何故なのかは……はっきりわかりません」


「あ……」


「篝様は、次第に元気を取り戻されましたわ」


 灯さんの瞳が潤んだ。


「あの火事の後から……誰とも何も話さず……食事もろくに喉を通らなかった篝様が……

 また……私たちに笑いかけて下さったのですわ」


「……灯さん」


「だから——僕たちは真実を隠すことに決めたのです」


 こうして、

 あの日の記憶に鍵をかけた。


 そうでなければ、

 篝くんは生きていけなかったのかもしれない。


「その後、篝様には夜驚の症状が出るようになりました」


「夜驚症……」


 ——『……うう……怖い……怖い……』


 あの夜、

 子どもみたいに僕にしがみついた君を思い出した。


 君はずっと、

 君自身が怖かったんだろう。


 何でも自分が悪いみたいに話す、

 篝くんの癖を思い出した。


 ずっと、

 自分を好きになれなかったのかもしれない。


「篝くん……」


 篝くんは、何も言わなかった。


 ただ、

 伏せた瞳から涙が伝っていた。

 

「これが、五年前の全てです」

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:10月7日21時

第三百四十二話 友達なんだから

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