第三百三十九話 Episode:篝【友達にはなれない】
男は再び警棒を構えた。
「……どうなっても知らないからな」
低い声。
男の顔つきが変わる。
男は腰を低くしたまま、僕たち三人を順番に見た。
「使えるものは使わせてもらうよ」
僕と目が合う。
「何……?」
男が動いた。
「来ますわ!」
灯さんが右手を振る。
ゴオッ!!
緋い焔が床を走った。
「おっと」
男が身体を捻る。
「軌道が丸わかりだな」
「灯!後ろ!」
「え!?」
男は緋い焔をすり抜け、
灯さんの背後へ回っていた。
速い!
ジャキッ!
警棒が横薙ぎに振られる。
「させない!」
宵くんが灯さんの前へ飛び込んだ。
ブワッ!!
蒼い焔が球状に広がる。
ガキィンッ!!
警棒が焔に弾かれた。
「蒼い方は、守りか」
男が大きく後ろへ跳ぶ。
「灯!追うよ!」
「ええ!」
二人が同時に飛び出す。
「……!?」
何かがおかしい。
男は二人から逃げている。
なのに——。
ずっと、僕と目が合っている。
「あ……!」
ガシッ。
——しまった。
そう思った時には、
僕は背後から男の腕に捕えられていた。
「「篝様!」」
「ごほっ、ごほっごほっ……!」
首元に回された男の腕に、身体を固定される。
「ごめんね」
耳元で男が囁いた。
「君は殺さないから安心して」
この男、
僕を使って二人を脅すつもりか……!
「やめろ!篝様を離せ!!」
「卑怯ですわ!!」
二人が叫ぶ。
「こらこら。
大人しくしないと、この子に少し痛い思いしてもらうよ?」
違う。
脅しだから大丈夫って、二人に伝えなきゃ。
「……ごほっごほっ!」
息が苦しい。
——声が出せない。
「君たちは、この子が大事なんだろう?」
「……うっ」
どうして、
僕はこんなに弱いんだ。
「篝様!!」
「篝様はお身体が弱いのですわよ!!」
「そんなの見てればわかるよ。
この子は、君たちのために無理してる」
「それは……」
二人の表情が曇る。
やめて。
その顔は、見たくない。
「くっ……!」
僕は二人へ手を伸ばした。
「送ったって無駄だよ」
すぐに男に手首を捻られる。
「あああ!」
痛い。
苦しい。
「やめろ!篝様に手を出すな!!」
「電池が切れたら、君たちは戦えないだろ」
もう、
霊力を練る余裕がない。
——こわい。
「君たちさ、
仲良しごっこで戦ってるつもりなんだろうけど」
僕の首元で、警棒が青白く光る。
「そういうの、誰かが欠けたら共倒れなんだよね」
「っ!やめてくださいませ!」
灯さんが膝をついた。
「篝様を傷つけないでください!」
すぐに宵くんも膝をつく。
二人は、男に手を出せない。
……僕のせいで。
「ほらね。だからおじさんは一人でやってんの」
ジャキ!
男が警棒を二人へ向けた。
僕を腕に捕えたまま、男が二人へ歩み寄る。
「「……」」
二人はもう、
戦おうとはしなかった。
——ダメだ。
「僕たちは……ただ……」
宵くんの肩が震えている。
「もう少し外の世界を見てみたかっただけなんだ……」
その頬に、涙が一筋伝った。
「篝様と一緒に……!」
「……!!」
僕もだよ。
僕も、二人と一緒に世界を見たい。
「……っ!まだ消えたくないの!!」
灯さんが泣きながら叫んだ。
「あと少しだけ……
篝様と一緒にいたい!!」
僕も、二人と一緒にいたい。
「冥福を祈るよ」
男が警棒を振り上げた。
「……ダメだ……っ!」
僕が弱いから、
二人は消える。
僕に、もっと強さがあれば。
——『篝様と相性の良い霊であれば、あなたの身体を補える可能性があります』
「……灯さん……宵くん……!」
声を絞り出して呼んだ。
「篝様……」
二人が僕を見た。
霊力の強い人間ならば、
契約を強制することができる。
——『選択肢の一つとして、知っていてほしいと思ったのです』
強くなりたい。
男が警棒を振り下ろした。
「僕の……」
もう、
二人に選ばせる余裕なんてなかった。
「守護霊になれ……!」
だけど。
「——はい!」
「もちろんですわ」
二人は笑った。
その瞬間——
緋と蒼の光が、一気に溢れた。
霊力の糸が僕と二人を結んだ。
二人が緋と蒼の光へ変わり、
僕の身体の中へ吸い込まれていく。
ドクン!!
三つの心音が重なった。
「灯。宵」
——ひとりじゃない。
『今……“灯”と……?』
『……やっと、呼び捨てで呼んでくれましたね』
僕の中から、二人の声が響く。
「うん」
契約は、主従。
呼び捨てにするのは当然だ。
「僕に力を貸して」
僕は二人を僕の中へ縛り付けた。
友達には、もうなれない。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:10月5日21時
第三百四十話 Episode:篝




