第三百三十五話 Episode:篝【友達】
十哉さんの読み通り、
公園の人はまばらになってきていた。
ターザンロープの周りに人はいない。
それでも、まだ子どもたちの声は聞こえてくる。
……二人が乗ったら、
“勝手に動いてる”って思われるかな。
「篝様、どうぞお先に!」
宵くんが僕に掌を差し出した。
「僕から?」
「私たちはもう少し人がいなくなってからにしますわ!」
「さあどうぞ!」
「……乗れるかな」
ターザンロープは、ブランコよりいくらか難しそうに見えた。
台座へ上がってロープを掴む。
大丈夫。
さっき、僕よりずっと小さな子も乗ってたし。
「……ふぅ」
息を整えた。
「篝様!」
「?」
灯さんに名前を呼ばれて振り返る。
「大丈夫ですわ!」
「……」
そうだよね。
もし失敗しても、大丈夫だろう。
灯さんの隣で宵くんが笑った。
「きっと、楽しいですよ!!」
「……うん!」
台座から足を離して、
ロープの結び目に飛び乗った。
シャーッ!!
「わ!」
思ったより速い。
こわいと思った。
だけど——。
「……!」
風が頬を掠めた。
夏の太陽に温められた身体を、すっと冷ましてくれる。
気持ちいい。
僕が走るよりずっと速い。
——楽しい。
ロープは、あっという間に端まで行った。
地面を蹴って、反対側へ戻る。
顔を上げると、
台座の上で三人が僕を待っているのが見えた。
「……あ」
灯さんも、宵くんも、十哉さんも、
みんな、笑ってる。
——まだ、僕の知らないことがたくさんある。
ほんの少しだけ、
こんな自分でも悪くないと思えた。
「お帰りなさい!!」
三人が僕を迎えてくれた。
「どうでしたか!?」
「……ふふ」
僕は笑顔を見せた。
「思ったより速いよ」
「私も乗りたいですわ!!」
「次、僕やりたいです!!」
「……えっと」
公園の人を確認する。
まだ、少しだけ残ってる。
「篝様。こちらへ立ってください」
十哉さんが僕の肩に触れた。
「篝様がここへ立てば、あちらの方たちから死角になります。動く瞬間は隠せると思います」
「……うん!」
早く、二人にも乗ってほしい。
……“早く”?
——『今度はターザンロープ、やりましょう!』
二人が乗れたら、“今度”が終わる。
「……篝様?」
十哉さんが眉を寄せた。
だめだ。
その顔は好きじゃない。
「ごめん。こっちに立つんだったね!」
僕は急いで十哉さんに言われた位置へ動いた。
「いいよ、二人とも!」
二人に声をかける。
「見つからないうちに、早く乗って!」
「ありがとうございます!!」
灯さんがロープへ飛び乗った。
シャーッ!!
ロープが勢いよく動き出す。
速すぎてちゃんと見えなかった。
……見ようとしなかったのかもしれない。
「きゃー!!」
「灯ー!戻って来てー!!」
「……」
ターザンロープの二人に背を向けた。
……僕は、公園にいる人の視線を確認しなくちゃいけないし。
「嫌だー!!」
視線を向けた先に、泣き叫ぶ小さな男の子が見えた。
そばには、その子の両親が立っている。
「ほら、もう帰るよ」
「まだ遊ぶー!!」
「さっき五時に帰るって言っただろ?」
父親が眉をひそめた。
「我儘言わない」
「まだ大ちゃんと遊ぶー!!」
「大ちゃん?」
「今日はお友達がいるから帰りたくないのよ」
「……ああ、そういうことか」
「……友達」
僕は思わず呟いていた。
僕にとって、
灯さんと宵くんは友達なのだろうか。
ターザンロープの方へ向き直る。
宵くんが、もうすぐ乗り終わるところだった。
「篝様、もう大丈夫です」
「……うん」
「二人のところへ行きましょう」
十哉さんに言われて、
僕はターザンロープの方へ歩いて戻った。
「「篝様〜!」」
台座の上で、二人が僕を呼んでいる。
だけど、走っては行けなかった。
「二人とも乗れましたわ!!」
「すっごく楽しかったです!!」
「……そっか」
午後五時過ぎ。
昼間ほど、日差しは強くない。
それでも、
二人の笑顔は光に透けて見えた。
二人はもうすぐいなくなるんだろう。
「よかったね」
僕は無理やり口角を上げた。
“友達になろう”だなんて、
きっと、別れの前に言う言葉じゃないだろう。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:10月3日12時
第三百三十六話 Episode:篝【明日】




