第三百三十二話 Episode:篝【今度】
灯さんと宵くんが僕の前に再び姿を現したのは、
あれから五日後だった。
「篝様……」
「……っ!」
僕は布団に潜っていたけれど、
灯さんの声を聞いて飛び起きた。
「二人とも……!」
二人はベッドの下にしゃがみ込んで、こちらを見上げていた。
「お身体、大丈夫ですか?」
宵くんが眉尻を下げて言った。
「大丈夫。
それより、二人ともどうして今まで来なかったの?」
「「……」」
二人が視線を落とす。
「……反省していましたわ」
「反省?」
「十哉様から、篝様のお身体についてお話を聞いたんです」
「私たち、よく知らないまま、一緒にはしゃいでしまって……ごめんなさい」
「それは違うよ。僕が二人を誘ったんだ」
僕は二人に頭を下げた。
「僕のせいで十哉さんに怒られたんだよね?」
「それは違いますわ!」
「篝様、頭を上げてください!」
二人が揃って立ち上がる。
「……今だって、十哉さんに内緒で会いに来てくれたんじゃないの?」
僕は俯いたまま話した。
「違います。十哉様が、“そろそろ篝様の調子も落ち着いてるだろうから”って……」
十哉さん。
僕が二人のことを心配してるって思ったのかな。
また、みんなに気を遣わせてる。
頭を上げられなかった。
「十哉様がそう言って下さって良かったです」
「勝手に会いに行ったら、反省していないと思われそうですものね」
「僕たち、ずっと篝様に会いたかったんです」
「え?」
僕は顔を上げた。
「実はこの五日間、十哉様と一緒にいろんなところへ行ったんです」
「水族館も、美術館も行きましたわ」
「綺麗な海も見れました」
「……そうなんだ」
「ですが」
「?」
「私たち、どこへ行っても篝様のことが気になってしまって」
「……僕?」
——それって。
「……僕のせいで、楽しめなかった?」
「いえ!」
宵くんが声を上げた。
「ちゃんと楽しかったんです!水族館も、美術館も!!」
「だけど……!
篝様と一緒に行った公園が、一番楽しかったのですわ!!」
「……あ」
喉の奥が、ぎゅっと締まった。
——僕も、楽しかった。
病気のこととか、
後継者のこととか、
全部忘れてしまうくらいに。
あの時、楽しかった。
「だから、また行きたいんです!」
宵くんが身を乗り出す。
その隣で、灯さんが微笑んだ。
「今度はターザンロープ、やりましょう!」
今度が、あるんだ。
あの日、僕が失敗してしまって、
二人に迷惑をかけたのに。
「……いいの?」
「当たり前です。約束したじゃないですか」
「平日でしたら、あの公園も空いていますわよね?」
「今度は十哉さんにもついて来てもらいましょう!」
「もちろん、篝様の外出許可が取れる日ですわよ!」
窓の向こう、雲の切れ間から太陽が顔を出す。
——眩しい。
差し込んだ日差しに、僕は目を細めた。
「……ごほっ」
身体を治そう。
ちゃんと薬を飲んで、
しっかり食べて、寝よう。
今度は厚着をして外に出よう。
傘も忘れずに。
マスクもつけた方がいいかな。
どれくらいの時間なら出かけられるか、
医師にも相談してみよう。
——なんだ。
「……ちゃんと考えればよかった」
僕は弱い。
それは、変わらない。
だけど——
また、二人と一緒に遊びたい。
今度は、ちゃんと。
三人で笑って帰れるように。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:9月30日21時
第三百三十三話 Episode:篝【繋がり】




