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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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第三百三十一話 Episode:篝【我儘】


 翌朝。午前八時すぎ。


「ごほっ、ごほっ!」


 ——ピピッ。


「三十八度二分。まだ下がらないね」


 朝食後、看護師さんが検温に来ていた。

 

「診察まで安静にしててね」


 シャッ……。


 カーテンの隙間から、別の看護師さんが顔を出す。


「お母さんたちが来てるよ」


 カーテンが開く。


「かがちゃん」


 母さんと、後ろに父さんの姿があった。


 看護師さんたちは両親へ頭を下げると、

 そっとカーテンを閉じて部屋から出て行った。


「具合はどう?」


「大丈夫……ごほっ、ごほっ」


 ちらりと父さんを見た。


「……」


 顔つきからして、明らかに怒っている。


「……ごめんなさい」


 咎められるより先に謝った。


 父さんが小さく息を吐く。


「篝。何がいけなかったかわかってる?」


「勝手に外へ出たことです」


 父さんの目を見て言えなかった。


「そうだね。あの双子と一緒にね」


「……あ」


 父さん、二人のことを知ってる?


 それもそうか。

 十哉さんが父さんに隠すはずもない。


「君はあの双子のために何かしてあげたかったのかもしれないけれど、自分の身体を第一に考えなさいと言ったばかりだよ」


 ——違う。


「僕が、誘ったんです」


「え?」


 掛け布団の上で、拳を握りしめた。


「僕が、二人と一緒に外へ行きたかったんです」


「……かがちゃん」


「篝」


 父さんが腰を落とした。


「君は身体が弱くて、公園で遊んだことなんかなかったからね」


 父さんが僕の手を握る。

 

 それでも、

 僕は視線を上げられなかった。


 だって、二人はきっとあの顔をしている。


「父さんや母さんが、もっと外へ連れていってあげればよかったね」


 ……僕は、

 ただ外へ行きたかったわけじゃないんだ。

 

 そもそも、

 公園へ行きたいと思ったのも二人がいたから。


 本音は、言えなかった。


「……二人は?どこにいるの?」

 

 代わりに二人の居場所を尋ねた。


「今、十哉が言い聞かせてるよ」


「え……!?」


 咄嗟に顔を上げる。


「二人は悪くない!」


 父さんは、驚いた顔をしていた。


「二人は帰ろうって言ったのに、

 もう少し、って僕が我儘を言ったんだ!!」


 ——全部、僕のせいだ。


 十哉さんに“祓い師”って言われたのが嬉しくて、

 灯さんと宵くんが笑ってくれたのが嬉しくて、


 こんな僕でも、何か役に立てるんだって、


 自分のやりたいことをやってみていいんだって、

 

 舞い上がってしまった。


「ごほっ、ごほっ!!」


「かがちゃん!」


 母さんが慌てて僕を抱きしめた。


 父さんが立ち上がる。


「篝。あの子たちのことは十哉に任せなさい」


 父さんの声は、ひどく冷たく響いた。


「君は、人の心配をしている場合じゃないだろう?」


「……でも、昨日は元気だったんです」


「元気そうに見えても、まだ治ったわけじゃないよね?」


「……」


 そんな風に言われたくなかった。


「父さんたちが、どれほど君を大事に思っているかわかる?」


 ——それは。


「僕が御影の後継者だから?」


「そういうことじゃないよ」


「……そうだよね。

 どうせ僕なんか後継者に相応しくないし」


「何?父さんたちが、いつ、そんなことを言った?」


 父さんの声に怒りが滲む。


「そんなこと思ってるわけないだろう?」


 それが余計に、僕をイラつかせた。


「……本当はそう思ってるんでしょ?」


「篝。落ち着きなさい」


「紫苑くんは欠陥品だって言ってた」

 

「紫苑くんは関係ないだろう」


「でも、僕が邪魔だから……!

 退院したら追い出すつもりなんでしょ!?」


「篝!いい加減にしなさい!」


「狭霧さん!!」


 母さんが父さんの腕を掴んだ。

 

「病院で、大きな声を出すのは良くないわ」


「……すまない」


「かがちゃん」


 母さんが僕をきつく抱きしめた。


「丈夫な身体に産んであげられなくて、ごめんなさい」


「違う!」


 僕は大きく首を横に振った。


 母さんに、

 謝ってほしいわけじゃない。

 

 母さんはゆっくりと僕から離れた。


「でも、忘れないで。

 強い子だけが、後継者になれるわけじゃないの」


 ……そんなの、わかってる。


「私は、後継者のことよりも、自分を大事にしてほしい」


「……っ」


「かがちゃんに何かあったら、悲しむ人がいるのよ」


「……」


 何も言えなかった。


「あの双子ちゃんたちも、かがちゃんのことすごく心配してたわ」


「……あ」


 母さんを見る。


 真剣な目をしていた。


「深雪。そろそろ行こう。

 仕事の時間に間に合わない」


 父さんがカーテンを開いた。


「……かがちゃん、ちゃんと休んでね」


「篝」


 父さんが振り返った。


「よく考えて動きなさい」


「……」


 ——泣きたくない。


 泣きたくなんかないのに。


 ——シャッ。


 カーテンが閉まる。


 僕は、僕のことが嫌いだ。


 こんな自分のことなんて、大事に思えない。


「……っ」


 僕は目元を乱暴に拭った。


 もっと、ちゃんと考えよう。


 どうしたら、みんなに笑ってもらえるか。


 父さんにも、母さんにも、

 十哉さんにも。


 ——あの二人にも、笑っていてほしい。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:9月29日21時

第三百三十二話 Episode:篝【今度】

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