第三百三十話 Episode:篝【やりたい】
次の日も、双子は十哉さんと外へ出かけた。
「ショッピングセンターへ行って来ましたの!」
「ゲームセンターも、映画館もありました!」
「……楽しかったみたいだね」
二人につられて、僕も自然と笑顔になった。
「どうだったか教えてくれる?」
「「はい!!」」
二人の声が重なる。
あと何回、こうやって話せるのだろう。
二人の満足そうな姿を見て、
僕はそんなことを考えていた。
その次の日は、日曜日だった。
朝食後の吸入を終えて処置室から戻ると、
僕の病室に双子の姿が見えた。
「まだ出かけてなかったんだ」
「今日は、お出かけはなしですわ!」
「え?」
「十哉様は今日、当主様とお仕事があるそうです」
「……そうなんだ」
霊害案件だろうか。
父さんが十哉さんを呼ぶなら、
きっと上級以上なんだろう。
「篝様!今日は何のお話をしましょうか!」
宵くんは、
初めて会った時よりずっと明るくなっていた。
まだ数日。
気持ちの整理がついたわけではないだろう。
両親も見つかっていない。
それでも、前向きになれるくらいには、
外の世界は新鮮だったのかもしれない。
「……そうだね」
僕は窓の外を見た。
今日も曇り。
だけど雨は降ってない。
「僕、今日は昼食の後、診察も検査もないんだ」
——少しくらいなら。
「今日は僕と外に出ない?」
*
「見て!宵!」
灯さんがターザンロープを指差して言った。
「これ、やってみたかったやつですわよね!?」
「そう!!」
僕たちは、公園へ来ていた。
病院の近くに、大きな公園があることは知っていた。
以前、小児科の待合で親子が話しているのを聞いたからだ。
「やってみたら?」
僕は二人に微笑んだ。
「……でも」
宵くんが辺りを見渡す。
日曜日の公園には、それなりに人がいた。
そっか。
二人の姿は見えないから。
「……それなら、僕と一緒にやろうよ。
僕がいれば、動いても変じゃないでしょ?」
「いいのですか!?」
灯さんが目を輝かせる。
「……これ、三人も乗っていいのですか?」
宵くんは険しい顔をした。
それもそうだ。
ターザンロープって多分一人乗りだし、
三人どころか二人で乗るのも禁止行為だろう。
「じゃあ、ターザンロープは今度にしようか」
「今度ですか?」
「……あ」
今度はもう、ないのかもしれない。
「うん」
それでも、
僕が望むくらいはいいだろう。
「今度また来よう」
そう言ってから、僕は別の遊具を指差した。
「あれは?」
「回るやつですわ!!」
灯さんが駆け出す。
「篝様、乗ってください!」
「え?」
「今誰もいませんし!私たちが押しますわ!」
「……僕だけ乗るの?」
「篝様は皇族ですから!」
……本気なのか冗談なのか、わからないなぁ。
「あそこのペダルがきっとブレーキですわね!」
「さあ、どうぞ!篝様!」
なんていう名前の遊具なのかも知らない。
二人がいれば大丈夫だと思えた。
遊具に足をかける。
「行きますわよ!」
「しっかりつかまっていて下さいね!」
二人が遊具を押す。
ブォンッ!
「……わっ!」
景色が一気に流れ始めた。
赤、青、緑、黄色。
遊具も、人も、木々も、
ぐるぐると混ざっていく。
「宵!私たちも乗りましょう!」
「え!?今乗るのは危ないでしょ!」
「霊なんだから大丈夫ですわ!さあ早く!」
二人は地面を蹴って、遊具へ飛び乗った。
「……あ」
僕の右側に灯さん、左側には宵くん。
「きゃー!あははははは!」
「ちょっと怖いですね……!」
「……うん」
「でも、楽しいです!!」
「……ふふ」
二人の笑い声が、耳をくすぐる。
——心地よかった。
足元には、さっき灯さんが言っていたブレーキがある。
だけど、まだ踏みたくなかった。
もう少しだけ、回っていたかった。
やがて遊具は、自然と速度を落として止まった。
「面白かったですわ!!」
「もう一回やりませんか!?篝様!」
二人が僕を見る。
「……ごほっ、ごほっ」
「篝様!?大丈夫ですか!?」
「すみません!つい、はしゃぎ過ぎてしまいましたわ!」
——ああ。
また、この顔。
さっきはあんなに笑ってくれていたのに。
「ううん。大丈夫、ちょっとむせただけ」
「もう帰りましょうか?」
宵くんの手が、僕の背中を摩った。
——温かい。
「本当に大丈夫だよ」
二人に微笑んだ。
「僕はもう少し遊びたい」
「私も遊びたいですわ!」
「……あと少しだけ、遊びましょうか」
「あれはどうでしょう!?」
灯さんが指差した先には、大きめの滑り台があった。
「せーので登って競争しませんか!?
誰が一番最初に滑れるか!」
その滑り台は階段とハシゴ、ネットがついていて、
三方向から登れるようになっていた。
「灯。急ぐのは篝様の身体に負担が——」
「大丈夫」
宵くんの言葉を遮った。
「やりたい」
「「……」」
双子が顔を見合わせる。
灯さんが僕の方へ拳を突き出した。
「どこから登るか、じゃんけんで決めましょう!」
「……いいね」
三人でじゃんけんするのも初めてだった。
何回もあいこになって、なかなか勝負がつかなかった。
「篝様の勝ちですわね!」
「どこから登りますか?階段がいいですかね?」
「いや。ネットにする」
あえて一番難しそうなところを選んだ。
僕だって、やれると思ったから。
灯さんがハシゴを選び、宵くんが階段になった。
「行きますわよ?」
「……うん」
変に緊張した。
こんな遊びでも、
僕は勝ちたいって思うんだ。
「せーのっ!」
「……っ!」
必死にネットを登った。
一番早く、登り切れるように。
「あ」
踊り場に辿り着いたのは、三人同時だった。
「引き分けですね」
宵くんが苦笑いする。
「……まだだよ」
僕は二人に背を向けると、
滑り台を滑って降りた。
「誰が一番早く“滑れるか”って言ったからさ」
砂場に足をつけ、振り返って二人を見た。
「僕の勝ちだね」
「篝様!!」
「もう!ずるいですわ!!」
二人が滑って降りてくる。
トンッ、トンッ。
滑り降りた宵くんが僕の背中にぶつかり、
その後ろから灯さんも重なった。
「次は負けませんよ!」
宵くんが背後から僕の肩を掴んで言った。
「……ふふ」
——楽しい。
その時。
ポツ……ポツ……。
「あ……」
頬に、雨粒が落ちた。
僕たちが揃って空を見上げると——。
ザァーッ!!
雨が、一気に降り出した。
「大変ですわ!急いで戻りましょう!」
「篝様!走れますか!?」
「……うん!」
二人と手を繋ぎ、僕は病院まで走った。
あんなに走ったのは、
生まれて初めてだった。
苦しかった。
だけど、止まりたくなかった。
病院に戻った頃には、
身体の震えが止まらなくなっていた。
その日の夜、
僕の熱は三十九度まで上がった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:9月28日21時
第三百三十一話 Episode:篝【我儘】




