第三百二十九話 Episode:篝【知らない色】
双子は、
僕のベッド脇に膝を抱えてしゃがみ込んでいた。
「……」
しばらく沈黙が流れた。
それでも、
二人は僕の側を離れようとはしなかった。
「……木目柄の天井か」
白い天井を見上げて呟いた。
「え?」
灯さんが目線を上げる。
僕はベッドの上から灯さんを見た。
「どんな家だったの?」
——今、僕にできることは、
君たちと話をすることだけだ。
「……地域では有名な豪邸でしたわ」
灯さんはゆっくりと話し始めた。
「庭にはブランコもありましたの」
「……へぇ」
僕の家も大きな屋敷だけれど、
ブランコはないな。
「どんなブランコなの?」
「木でできていましたわ」
頭の中で想像してみる。
「もしかして芝生の庭?」
「ええ。人工芝ですけれど」
緑の芝生の上、
ブランコで揺れる灯さんの姿が目に浮かんだ。
「素敵だね」
「……いや」
宵くんが口を開いた。
「そんなものより、僕たちはゲーム機がほしかった」
「ふふっ」
灯さんの笑い声が漏れる。
「学校のみんなは持ってましたものね」
「……学校、行ってたんだ」
「学校に通うのは当然ですわ」
この子たちは、
僕と似ているようで違う。
「友達とかいたの?」
「いましたわよ?」
「だけど、クラスメイトはみんな敵だと思うように、お父様から言われていました」
「敵?」
僕は眉を寄せた。
「テストの順位が張り出されるような小学校でしたの」
競い合うのは、祓い師の子どもだけじゃないんだ。
「でも、こっそりゲーム機を持ってくるような人もいましたわよ?」
「休み時間、先生に隠れてみんなでやったりね」
「宵は気に入ってましたわよね。
あの……ブロックで家を建てたりするゲーム」
「マイクラ」
少しずつ、空気が和らいでいく。
「それって何?」
僕が尋ねると、二人は目を見開いた。
「ええ!私たちでも知っているのに!」
「……篝様。Switchは知っていますか?」
「知らない」
灯さんと宵くんは、
僕に“マインクラフト”というゲームを教えてくれた。
二人も友達のゲーム機でしかやったことがないらしいけれど、よく知っていた。
それだけ、憧れも強かったのかもしれない。
「篝様は一体何をして遊んでいらしたのですか?」
灯さんが尋ねた。
「遊びか……」
そんなこと、考えたことなかったな。
「本を読んだり……父さんと将棋とか、囲碁とか?」
「将棋も囲碁もできるのですか!?」
「うん」
そんなに驚くこと?
「僕、どっちもやってみたかったんですよ!」
宵くんが目を輝かせた。
「ぜひ教えてください!」
「……僕が?」
「私も知りたいですわ!」
なんだ。
そんなことでも、いいのか。
胸の奥がじんわり温かくなる。
「……退院したら、僕の家でやる?」
「お家にお邪魔してもいいのですか?」
「ダメなのかな?」
僕は誰かを家に招いたことがない。
そもそも二人は霊だ。
だけど、十哉さんはうちにいるよね?
——わからないことだらけだ。
「……こんなの、初めてだな」
僕はやっぱり、
黄色いカーテンに覆われた白い部屋の中だ。
それでも、
世界があっという間に色付いていく。
夜になるまで、僕たちはいろいろな話をした。
勉強漬けだった家庭のことや、
学校であったことを教えてもらった。
代わりに僕は、
祓い師の世界や病院での生活について話した。
「ええ!」
「そうなのですか!?」
二人の反応は心地よかった。
「……ふふ」
思わず、頬が緩んだ。
——もっと知りたい。
二人のことも。
僕の知らない、外の世界のことも。
二人の願いは、少しずつ僕の願いにもなっていた。
——翌朝。
十哉さんが迎えに来て、
二人は外の世界を見に行った。
僕だけが、取り残された。
「篝様!!私たち、海を見に行って来ましたの!!」
戻って来た二人は、興奮気味に話した。
「……どうだった?」
「汚かったです!!」
「あんなところで泳げるとは思えませんわ!!」
「わかめみたいなものが浮いてましたよ!!」
昨日とはまるで別人のような顔をしていた。
「……ふふ」
そんなに楽しかったんだ。
僕も、見てみたいな。
……あれ?
「僕も……?」
強くなりたいとは、ずっと思っていた。
だけど——
外の世界を見てみたいなんて、
考えたことがあっただろうか。
「今度は綺麗な海を見てみたいですわよね!」
自分のことを第一に考えていいのなら——
僕は、自分の足で世界を見てみたい。
「……ごほっ……」
窓の向こうの空は、
今日も厚い雲に覆われていて、
太陽は少しも見えなかった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:9月27日15時
第三百三十話 Episode:篝【やりたい】




