第三百二十八話 Episode:篝【祓い師】
三日後。
十哉さんに連れられ、双子は再び僕の前に姿を現した。
カーテンの隙間から二人が見えた時、
僕はほんの少しだけ嬉しかった。
だけど、すぐにその気持ちを引っ込めた。
二人が、もの凄く暗い顔をしていたから。
「……どうだった?」
「「……」」
僕の問いに、二人は何も答えなかった。
というより、
言えなかったのかもしれない。
「今日、葬儀が行われました」
代わりに十哉さんが言った。
「二人の遺体は、火葬されました」
「……そうなんだ」
自分たちの身体が消える瞬間を見たのだろうか。
想像するだけで、胸が痛んだ。
「ご両親の霊は見当たりませんでした」
両親にも会えなかった。
そして二人は、まだここにいる。
十哉さんは淡々と続けた。
「明日から、私と一緒に外へ行きましょう」
「……明日からですか?」
宵くんが小さな声で尋ねる。
「そうです。
生前、二人が見たかったものを見に行くのです」
「……そんな気分にはなれませんわ」
「それでも行くのです」
十哉さんの声だけが、力強かった。
未練を抱えてこの世に留まり続けると、
霊はいずれ霊害になってしまう。
十哉さんは、それをよく知っている。
「ご両親も、もしかしたら見つかるかもしれませんよ」
「……っ会えるはずない!」
宵くんが声を張り上げた。
「どこにいるかわからないんだ!
外って言ったって広すぎる!」
「それに、もう成仏していてこの世にいない可能性もあるんですわよね!?」
二人の目には、涙が浮かんでいた。
「その可能性もありますよ」
「だったら会えないじゃない!」
「だからといって、あなたたちまでここに留まり続ける必要はありません」
「……」
「ご両親は先に還って、二人を待っているかもしれない」
——ああ。
優しいのに、逃げ道がない。
「あなたたち自身のために、明日から外へ行きます」
十哉さんが振り返って外を見た。
病室の窓から見える空は、分厚い雲に覆われていた。
「もし……僕たちがお父様とお母様を置いて先に成仏してしまったら?」
「できる限り、私がご両親を探します。
成仏のお手伝いをするのも御影家の仕事ですから」
「世界は広いのに、見つかるのかしら?」
灯さんが眉をひそめた。
「それでも」
十哉さんが僕たちの方へ向き直る。
「狭霧様は、私の曖昧な記憶をたよりに、恋人を見つけて下さいました」
——恋人。
十哉さんの、ずっと会いたかった人か。
「私も、時が来たら還るつもりです」
十哉さんが目を伏せた。
「私も霊になったばかりの時、同じように絶望しました」
「……十哉さん」
それは、僕も初めて聞く話だった。
「同じ世界にいても、触れられない、話せない。
いるのに、いないのと同じ」
「いるのに、いない……」
死んだ後も残っている人が、何を思っているのか。
そんなことを考えたのは、この時が初めてだったかもしれない。
「ですが、この世界には、霊と人を繋いでくれる存在がいました。
おかげで私は救われたのです」
十哉さんが僕を見た。
三人の視線が僕に集まる。
「それが御影家の祓い師。
篝様もそのお一人なのです」
「いや、僕は——……」
言いかけて、口をつぐんだ。
十哉さんが迷わず、
僕を“祓い師”と呼んだことが、
痛く、嬉しかったから。
「御影家と出会わなければ、私は今この姿を保つことも、こうして二人と話すこともできなかったでしょう」
十哉さんが双子へ視線を移す。
「だから、絶望することはないんです」
「「……」」
「死んだ後でも、誰かと繋がることはできます」
ずっと、
祓い師は家業だと思っていた。
霊を祓うために、強くなるものだと思っていた。
僕にも、
できることがあるのだろうか。
「さて、私はそろそろ狭霧様の元へ戻ります」
十哉さんがカーテンを開いた。
「また明日」
病室には、僕と双子だけが残った。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:9月27日12時
第三百二十九話 Episode:篝【知らない色】




