第三百二十七話 Episode:篝【僕の世界】
「私が二人を外へ連れて行きましょう」
窓の向こう、青い空に白い雲が流れていた。
——見飽きた色だ。
「でも……身体が……」
宵くんが俯いた。
「おそらく、今日中にあなたたちの身体は司法解剖のために病院から搬送されます」
「「……」」
灯さんが、宵くんの手を握りしめる。
「その後は遺族に引き取られ、葬儀が行われるはずです」
——葬儀が終われば、
二人の身体も、いずれなくなる。
魂だけを残して。
「葬儀に行けば、ご両親に会える可能性もあります」
「お父様と、お母様に……?」
宵くんが顔を上げた。
「ご両親がまだこの世に残っているのなら、葬儀に姿を見せるかもしれません」
「……確かに」
「それなら、葬儀に行くべきですわね」
もしかしたら。
そこで二人は、成仏できるのかもしれない。
「僕は……ついていけないよね?」
「篝様」
十哉さんが僕の肩を掴んだ。
「御影家の祓い師として、霊の成仏を気にかけることは大変ご立派です」
十哉さんが中腰になり、僕と目線を合わせる。
「ですが、外の空気はあなたの身体に障ります」
「……」
澄んだ藍色の瞳。
僕は逃げるように目を逸らした。
「あなたは、ご自分のことをまず考えてください」
「……うん」
じゃあ、
やっぱり僕は何の役にも立てないわけか。
「もし、二人が葬儀から戻って来たら」
——戻って来たら?
「篝様の知っている世界を、二人にお話ししてみてはいかがでしょう?」
「僕の……?」
目線を上げた。
「はい」
十哉さんは微笑んでいた。
「でも、僕も二人と同じだ。
外の世界のことなんて、ほとんど知らない」
「そんなことはありません」
十哉さんが首を横に振る。
「あなたには、あなたの知っている世界があります」
「僕の世界……?」
白い天井と黄色いカーテン。
銀の点滴スタンド。
窓の向こうの青と白は、
誰だって知ってる。
——同じ色だけの世界。
「あなたにしかできない話もあるはずです」
ドクン。
「……私」
灯さんが僕を見る。
「篝様のお話を聞いてみたいですわ」
僕の話なんて。
「……白い天井の話だよ」
「僕たちの家の天井は木目柄でした」
「……」
木目柄の天井を想像した。
「そう、なんだ」
そういう色もあったんだ。
僕はここから出ていない。
それなのに、
さっきまで知らなかった景色が、ひとつ増えた。
「宵、灯。身体を確認しに行きましょうか」
十哉さんが背筋を伸ばした。
「「はい」」
「……あ」
行ってしまう。
もう、二人とは会えないかもしれない。
「戻って来れたらさ……」
咄嗟に口が動いた。
「君たちの話も、聞かせてくれる?」
ガラガラガラ……。
看護師さんがワゴンを押しながら、
二人をすり抜けて歩いていく。
それでも、二人は笑っていた。
「もちろんです!」
「お話しましょう!」
——この後。
僕が二人に会えたのは、三日後だった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:9月26日15時
第三百二十八話 Episode:篝【祓い師】




