第二十一話 足りないまま、進む
――それから、数日。
僕は、霊力の供給量を調整する訓練を続けていた。
同時に、“いざという時に動けた方が良いだろう”ということで、奏さんと一緒に、麗子さんに少しだけ稽古もつけてもらっている。……ダイエットも兼ねて。
その日は、奏さんのいない日だった。
僕は供給量の最終確認を光流くんにして貰っていた。
颯はというと――。
「オラァ!!」
「ッ!!」
麗子さんは、颯の攻撃をかわし、地面に着地する。
紙一重だった。確かに、“当てた”と言える一撃だ。
「アンタ、大分やるようになったわねェ」
そう言って、口角を上げる。
「ふん」
ここ数日で、颯は麗子さんに数発、攻撃を当てられるようになっていた。
「それだけやれれば、十分よォ」
麗子さんも、その成長をしっかり認めている。
「おーい!颯〜!麗子〜!」
光流くんの声が、河川敷に響いた。
僕は光流くんと、特訓中の二人のもとへ駆け寄る。
「あら、どうしたのよォ。今日はもう終わり?」
「東雲警部から、依頼来た〜!」
光流くんが、スマホを持った手をぶんぶん振る。
また、霊害が発生したらしい。
「中級霊害っぽいしさ。今回は――柊と颯に、任せようかなって!」
光流くんは、そう言って、にっこり笑った。
……僕たちに、任せる?
思わず、僕は颯の方を見た。
「おー!やっと実践か!」
颯は楽しそうだった。
にやりと笑って、肩をぐるぐる回している。
「柊も大分、供給上手になったしさ。颯も、最近かなり動けるようになったらしいじゃん?」
光流くんはそう言って、麗子さんを見上げた。
「そこそこは、やれると思うわよォ」
その“そこそこ”が、どこまで通用するのか。
――その時は、まだ、誰にもわからなかった。
「おーよ!ぶっちゃけ、共霊?もういらないんじゃね?って感じだわ」
颯は、ふふんっと鼻を鳴らす。
「そもそもアンタたち、共霊のやり方、ちゃんとわかってないままなんでしょォ?」
「はい……」
最後に共霊したのは、ずいぶん前だ。
あの感覚は、少しずつ、遠のいている。
でも、それで良い。
共霊しないやり方で通用するなら、それに越したことはない。
――あの感覚を、思い出してしまったら。
“戻れない”のは、戦い方じゃない。
きっと、僕自身だ。
「共霊しない戦い方で、やってみせます!」
自分に言い聞かせるように、そう言った。
「ところで、奏は?今日は来てねぇの?」
颯がきょろきょろと辺りを見渡す。
「あー、奏ちゃんはなんか家の用事だって。今日はもう合流できないんじゃない?」
光流くんが、スマホを操作しながら言った。
東雲警部か、斎賀先生に連絡しているのだろう。
今日は、奏さんがいない。
一瞬、胸の奥がざわついた。
「まあ俺らも同行するし、大丈夫っしょ」
「んで、場所はどこなんだよ?」
颯は、早く動きたくて仕方ない様子だった。
「それがなんと〜!海でーす!!うぇーい!」
――この時の僕は、
“足りないまま進む”ことが、
どれほど危険かを、まだ知らなかったんだ。
***
その頃、篝の屋敷では――
ぱちん、と花鋏の音が響いた。
篝は、薄暗い和室で、今日も水盤に花を生ける。
「篝様。白瀬兄弟が、共霊をしない戦い方を身につけたようです。共霊時の霊力に比べれば、到底及びませんが」
畳に立膝をつく、少年と少女――宵と灯。
「あの程度では、“常夜”の連中に、すぐにやられてしまいますわ」
宵と灯は同時に眉間に皺を寄せ、険しい顔をした。
「ふふ……それも、いいのかもしれないね」
篝は花を手に、柔らかく微笑む。
「人生には、絶望がつきものだから。思い切り落ち込むのも、悪くはない。……僕が気になるのは、その後」
「ですが篝様。“常夜”は、白瀬兄弟を――殺してしまうかもしれません」
宵が、顔を上げて言った。鋭い眼差しで、篝を捉える。
「ふふ……そうなったら、
彼らは“そこまでの存在だった”ということじゃない?」
篝は、細く長い指で水盤に花を生けた。
「篝様♡あの方とのお約束は、どうされるのです?」
灯の言葉に、篝が首を傾ける。
「約束?そんなものはしていないよ。彼が僕に、お願いをしに来ただけだ」
「まあ♡」
「僕に得があるなら、引き受ける。ただ、それだけの話」
篝は、ゆっくりと立ち上がった。
「動かれるのですか?」
宵が尋ねる。
「うん。確かめに行こうと思って」
篝は、にっこりと微笑んだ。
その笑顔に、双子はうっとりとした表情を浮かべる。
――共霊。
それが救いになるのか、破滅になるのか。
確かめるには、丁度いい。
***
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※次回更新:1月28日21時
第二十二話 それは、霊害じゃなかった【前編】




