第三百二十二話 Episode:篝【欠陥品】
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Side:篝
僕は、僕のことが嫌いだ。
あの事故よりも、ずっと前から。
*
遡ること、十年。
「肺炎だね」
白い部屋。
消毒液の匂い。
廊下を、ワゴンが通り過ぎる音。
もう何度、ここに来ているだろうか。
「ごほっ……ごほっ……」
「しばらく入院しようか」
レントゲン写真を見ながら、
男の医者はそう言った。
「また、入院ですか?」
隣を見上げる。
母さんが眉を寄せていた。
「明後日、入学式があるのですが……」
この顔を見るのも、何度目だろうか。
「……それは残念だね」
医者も、母さんと同じ顔をしていた。
……僕はいつも、大人を困らせる。
入学式に行けないことよりも、
この部屋の雰囲気の方が辛かった。
「かがちゃん」
母さんが僕の顔を覗き込んだ。
「頑張って治そう」
「……うん」
「きっと治るから」
最後はいつも、前向きな言葉。
何度も繰り返されるうちに、
その言葉を信じることもなくなった。
「ちくっとするよ」
「はい」
子どもにとって、注射は怖いものらしい。
僕は何とも思わない。
初めて打った時の記憶もない。
「じゃあ、しばらくそのまま寝ててね」
看護師さんは僕に笑いかけ、
黄色いカーテンの向こう側へ消えた。
視線を上げる。
白い天井。
銀色の点滴スタンド。その向こうに窓。
青い空を、白い雲が流れていた。
「……少ない」
いつも、限られた色。
学校には、
違う色もあるのかな。
「ごほっ、ごほっ!」
——生まれた時から身体が弱かった。
特に、肺や気管支。
少し動けばすぐに息が切れる。
風邪もひきやすく、一度炎症を起こせば長引いた。
普通なら風邪で済むものも、
僕の場合はだいたい肺炎になった。
いろいろな検査をした。
——『異常は見つかりませんね』
それでも、身体が弱いことに変わりはなかった。
霊障の専門医に診てもらった時、こんなことを言われた。
——『身体が霊力の強さに耐えられないのかも』
——『治療法は今のところわかりません。
この身体で祓い師を目指すのは、難しいでしょう』
御影家の後継者として生まれた僕にとって、
それは欠陥品という烙印を押されたも同然だった。
あの時も、
父さんと母さんは悲しそうな顔をしていた。
……僕はいつも、みんなを困らせる。
こんな自分のことを、
好きになれるはずがなかった。
「——かがちゃん」
カーテンが開いた。
「母さん」
「さっき、狭霧さんと話してたんだけどね。
学校は、無理せず身体が治ってからにしましょう」
「……治ってから?」
それって、いつ?
「勉強は、家で少しずつやればいいから。
それに、お友達だって……」
母さんがベッド脇に立った。
「今度、三流派の特訓があるのよ」
「特訓?」
「ええ。あなたと歳の近い子どもたちが集まる」
母さんが僕を見下ろす。
「……お友達が、見つかるかもしれないわ」
母さんの顔には影が落ちていた。
「元気になって、一緒に行きましょう」
どんな顔でそう言ったのか、
僕には見えなかった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:9月22日21時
第三百二十三話 Episode:篝




