第三百二十話 君とは違う
淡いダウンライトの中、沈黙が流れた。
「……」
暗い灰色の瞳から、目を逸らせない。
いや。
逸らしちゃいけないと思った。
篝くんは、
人を殺しているかもしれない。
「……」
ゆっくりと唇を開いた。
「君は、理由なく人を傷つける人じゃないと思ってる」
僕は、これまでの君を見てきたから。
「……違うよ」
篝くんが目を伏せる。
「あの時の僕は、僕のためにやったんだ」
……また、だ。
——『僕はずっと、宵と灯を縛ってるんだ。
……私欲のために、利用してる』
あの時も。
——『僕は元々、そういう人間なんだよ』
どうして、
全部、自分が悪いみたいに言うんだろう。
胸が痛い。
——『母さんが死んだのは、きっと僕のせいだ』
「……あ」
思い出した。
僕だって、そうだった。
そうやって自分の殻に閉じこもって、
周りが見えなくなってた時がある。
一番近くにいた颯のことさえも、
置き去りにして。
——『言わなきゃ、わかんねぇだろ!』
一人で決めつけて抱え込むことで、
誰かを守れるわけじゃなかった。
気づかせてくれたのは、颯と——。
——『君たちは、もっと、お互いのことを知った方が良いんじゃないかな』
……篝くんじゃないか。
「約束したよね」
真っ直ぐに篝くんを見る。
「僕は君の味方だ」
「……」
「ごめんね。箱を開ける時は、一緒だって言ったのに。
昨日、君を一人にしてしまった」
今からでも、知りたい。
「何があったのか、教えてほしい。
……君が、何に苦しんでいるのかも」
『……柊』
「一緒に考えたいんだ」
僕と颯が、そうだったように。
「……」
篝くんが窓の方を向いた。
「……考えたって、どうにもならないよ。
事実が変わるわけじゃない」
どんな顔をしているのかわからない。
「昨日のことも……昔のことも」
ただ、
僕に向ける背中が小さく見えた。
「それに、知ったら君も僕から離れていくだろう?」
離れてく?
そんなこと——。
『篝』
颯が篝くんを呼んだ。
『お前、柊がそんなやつだと思ってんのかよ』
「……颯」
『何があったか、言いたくねぇなら言わなくてもいい』
そうだ。
言葉が全てじゃない。
『だけど、
お前のこと思ってるやつがいることは忘れんなよ』
「……」
篝くんの背中が少しだけ揺れたように見えた。
「……君は、怖くないの?」
「え?」
「僕は、僕が怖い」
篝くんの背中が震える。
「自分の力で、また誰かを傷つけるのが怖い」
「……っ」
心臓が締め付けられた。
——怖い。
僕だって、怖い。
『……怖ぇに決まってんだろ』
「……颯」
『力があるんだから。何するかわかんねぇ時だってあるだろ。
だから……』
颯の声が、一瞬止まった。
『……考えんじゃねぇの?どう使うか』
颯の言葉が、
僕の心の中にも落ちていく。
息を吸って吐いた。
「……篝くん。僕も、怖いんだ」
次また、制御できなくなったら。
また、颯の声も届かなくなってしまったら。
何をしてしまうかわからないんだ。
「……君と僕は違うよ」
「え?」
篝くんが、小さく首を振った。
「君は、僕みたいにはならない」
——『君は、綺麗だよね』
——『純粋で、真っ直ぐで。それに、生まれた時から健康だ』
「……うん。違うよ」
「……」
「僕は、篝くんが経験したことを全部わかるわけじゃない」
自分の手を見る。
「でも、僕も自分の力で誰かを傷つけた」
「……っ」
「止まれなくなるのが怖いっていう気持ちは、僕にもある」
掌を握りしめる。
「前にさ、
僕は“守るために力を使いたい”って、君に話したよね」
「……うん」
「……自分が力を持って、初めてわかったんだ」
守るためでも、力は力なんだ。
「僕の力は、誰かを傷つけることだってある」
『……』
「どんな使い方なら正しいのか、守るって何なのか。
僕にも、わからないんだ」
だから——。
「君と一緒に考えたい」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:9月20日15時
第三百二十一話 本当に、変わらない?




