第三百十八話 嫌だったけど
***
Side:柊
「ねぇ、颯」
『あ?』
ガタン……ゴトン……。
向かいの車窓を見つめながら、
僕は颯に尋ねた。
「僕たちがやろうとしてることってさ、
本当に合ってるのかな?」
窓の向こうを、景色が流れていく。
『……何を基準に、
“合ってる”っつうのかわかんねぇけどさ』
「……うん」
『お前は霧島詠慈の話聞いて、どう思ったんだよ?』
「……嫌だった」
だけど。
「気持ちは、嬉しかった」
『……そういうことじゃね?』
『まもなく、雁羽。雁羽です』
次の駅を知らせる車内アナウンスが流れた。
「降りなきゃ」
僕は座席から立ち上がった。
『お出口は右側です。開きますドアにご注意ください』
*
午後零時過ぎ。
雁羽市。
僕たちは、
深雪さんの実家へ向かって駅前を歩いていた。
「……あつ」
雨上がりの空気は蒸し暑い。
僕は額に滲む汗を拭った。
『九月ってまだ全然夏だよな』
「……うん」
蝉の鳴き声だって聞こえる。
『こっから十五分くらいか?』
「そうみたい」
スマホのマップで、もう一度経路を確認した。
『さすがに、霧島の車じゃここまで来れねぇか』
——『近くまでは行けませんので』
運転手の男性はそう言って、
雁羽市へ入る手前の駅で僕たちを下ろした。
雁羽駅まで電車を使ったのはそのためだ。
ピコン。
「……あ」
スマホの画面上部にバナー通知が現れる。
12:07【Hikaru Asakura】
【こっち晴れた!】
【写真】
通知をタップしてDM画面を開いた。
送られてきていたのは、
教室の窓から覗く青空の写真だった。
ピコン。
12:07【Hikaru Asakura】
【そっちはどう?】
——天気の話だよね。
僕は空を見上げた。
雲はまだある。
だけど隙間から青空も見えた。
12:08
【晴れてるよ】
12:08【Hikaru Asakura】
【ならよかった!】
【明日、体育祭ありそうだな!】
「……体育祭」
それまでに、
共霊は解けるのだろうか。
僕はスマホをズボンのポケットに戻した。
しばらく歩くと、閑静な住宅街に出た。
「……ここか」
二階建ての、瓦屋根の家。
豪邸というほどではないけれど、周囲の家より敷地は広い。
低い塀の向こうには、きれいに手入れされた庭があり、
玄関まで石畳が続いていた。
『でけぇな』
「……うん」
両隣にも、比較的大きな家が建ち並んでいる。
どうやらここは、そういう地域みたいだ。
塀に取り付けられた表札に、
【真壁】の文字が見えた。
『旧姓か?』
「……たぶん」
母さんが出会った時の深雪さんは、
この苗字を名乗っていたのだろう。
……母さんだけじゃなくて。
表札の横の、インターホンへ手を伸ばす。
ポーン……。
「——はい」
……深雪さんの声だ。
「突然すみません。白瀬柊です」
カチャリ。
玄関の鍵が自動で回る音がした。
「どうぞ、入って」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:9月19日15時
第三百十九話 心配されるような人間




