第三百十六話 背負われたくない
「居場所、教えてもらえたんだ」
民宿の食堂で、
僕は響さんと向き合って座っていた。
「……驚かないんですね」
「別に?詠慈様が御影家と親しいことは周知だし」
木製のテーブルに響さんが肘を置く。
「で?親子の再会はどうだった?」
「あ……」
詠慈さんの言葉を思い出すと、
自然に眉尻が下がった。
「あんたってほんと顔に出るね」
静まり返った部屋に、
響さんの乾いた笑いが落ちる。
「何を言われたの?」
「……“三流派の戦争には、今後関わらないように”って」
「やっぱり」
『お前わかってたのかよ』
響さんは腕を組み、椅子にふんぞり返った。
「そういうとこ、優しい方だから」
——“優しい”、か。
「久世家だったら即兵器扱いでしょ」
視線を落とす。
僕の選択を、認めてほしかった。
そんなこと、
大人に期待するのは間違いだろうか。
「そもそもさ、
何であんたはそんなに三流派に関わりたいわけ?」
響さんの目が細くなる。
「昨日だって、別にあんたが狙われてるわけじゃないんだし、逃げればよかったじゃん」
「……」
昨日、御影家の屋敷で、
狭霧さんも僕を逃がそうとしていた。
それでも、
僕は一緒に戦うことを選んだ。
「僕は……御影とも霧島とも無関係ではないから……」
「それって自分のルーツがわかったから?
“三流派のために、強い僕が”とか思ってんの?」
『はあ?んなわけ——』
「それは違います」
颯の言葉を遮って言った。
「ただ……
誰にも傷ついてほしくないんです」
響さんが肩をすくめる。
「じゃあなおさら、何で関わろうとすんの?
あんたが前に出てきたら、火に油だと思うんだけど」
響さんが僕の顔の真ん中を指差した。
「御影と霧島の結束の象徴。
それだけで危険分子なんだよ」
——『邪魔な子供は始末⭐︎久世ってそういう家⭐︎』
「あんたのせいで人が傷つくのはいいわけ?」
——僕のせいで、誰かが傷つく?
そんなの、いいわけない。
「……」
拳を握りしめた。
「あんたたちが倒したいのは常夜なんでしょ?
三流派のことはほっとけばいいじゃん」
『んでも久世と常夜は繋がってんだから、
どっちみち久世とは戦わなきゃなんねぇだろ』
「常夜と組んでるのだって、紫苑くん対策の保険みたいなもんでしょ。
目的を果たしたら切れるんじゃない?」
響さんが片足を揺らしながら早口で話す。
「だからさ。
あんたが三流派とは無関係ですって顔してたら、久世もわざわざ狙ってこないよ」
「……僕、無関係ではないです」
「あのさぁ」
響さんの声が鋭くなる。
「今さら三流派ヅラしないで。
あんた詠慈様に育ててもらったわけじゃないんだし」
「……っ」
「霧島のことなんか微塵も考えずに生きてきたやつに、
勝手に背負われたくないんだけど」
……視線を、上げられない。
「あんたの力なんてなくても、霧島は強い。
久世にも御影にも負けるつもりはない」
『現実難しいだろ』
久世紺士に、久世紫乃。
久世には化け物級の実力者が揃ってる。
その上、狭霧さんたちも久世に加担したら。
「でも力比べで強い方が、いつも勝つわけじゃない」
「……そうですよね」
そもそも、
戦いを選ばない方法だってある。
だったら。
「僕は、戦うんじゃなくて止めたいんです」
「止めたい?」
「久世家を……久世紺士を説得しようと思ってます」
「それ本気?まともに話聞く人じゃないよ」
「奏さんもそう言っていました」
顔を上げる。
「それでも、やるだけやってみたいんです」
ピー……クルルルル……。
海鳥が鳴く声が聞こえた。
「……そんなこと、詠慈様ももう考えてると思うけど」
「え?」
その時。
「白瀬様」
しゃがれた声が僕たちを呼んだ。
「お車の準備が整いました」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:9月18日21時
第三百十七話 譲れないもの




