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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
ほどける心音

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第三百八話 一人じゃない


 ——暗い。


 何も見えない。

 

 ここは一体どこなんだろう。


「柊」


 隣から颯の声がした。


 振り返る。


「……颯?」


 颯の顔は青ざめていた。


「……」


 ゆっくりと、颯の手が動く。

 颯が指し示す方向へ目線をやった。


 暗闇の中、淡い光がぼんやり瞬いている。


 あれは……!?


「篝くん!?」


 篝くんが全身傷だらけで倒れていた。

 ぐったりとして、目を閉じたまま反応がない。


 ポウッ。


「えっ!?」


 さっきまで何もなかった場所に、

 人影が次々と浮かび上がる。


 奏さん。光流くん。麗子さん。

 その向こうにも、

 知っている人たちが倒れている。


 狛さん。斎賀先生。

 そして——父さんと、母さん。


 傷だらけの身体。

 流れる血。


 全員、

 目を閉じたまま横たわっていた。


「……どうしよう……!」


 僕は颯の方を見た。


 だけど。


「——お前のせいだよ」


 そこにいたのは、

 颯じゃなかった。


「……紫苑さん……!?」


 右目が真っ黒に潰れている。


「言ったでしょ⭐︎?」


 なのに、

 視線だけは、まっすぐ僕に刺さっていた。


「守る奴が一番暴力的なんだって⭐︎」


 紫苑さんが笑う。

 

「お前も、やっと一人になれたね⭐︎」


 *

 

「……ッッ!!」


 僕は上体を起こした。


「……はぁ……はぁ……」


 息がうまく整わない。

 身体中に汗が吹き出している。


「……はぁ」


 僕は片手で前髪をかき上げた。


 視線を上げる。

 

 薄暗い部屋。

 混ざり合う香水の匂い。


 光流くんの寝息と、

 車が濡れた道路を走る音。


 スマホを手に取った。


 【9月4日(土)7:28】


 ——夢だ。


『おい、大丈夫か?』


 一人じゃない。

 

 颯がいる。


 ……まだ、僕の中だ。


 ということは、もしかして。


「見た?」


『は?何を?』


 ……よかった。


「いや、何でもない」


 僕は敷布団から身体を出した。


「今日、どうしようか」


『篝んとこ行くんだろ?』


「そのつもりだけど……」


 篝くんが、

 今どこにいるのかわからない。


 カーテンの隙間から空を覗く。

 厚い雲に覆われ、夜の続きみたいに暗かった。


『あいつ、無事だよな?』


 ドクン!


 ……夢で見た篝くんを、思い出してしまった。


「……多分」


 無事だと、信じたい。


 その時。


 ジャカジャカジャカジャカ!!


「うわっ!」


『うっせぇ!!』


 光流くんのスマホから爆音が響いた。


「……う……」


 光流くんが掛け布団から顔を出してアラームを止める。


「……すぅ……」


 また寝た。


『いや起きろよてめぇ!!』


「……ん〜……うるさ……」


 ジャカジャカジャカジャカ!!


『てめぇのアラームの方がうっせぇんだよ!!』


「光流くん、スヌーズの間隔せま……」


 光流くんがむくりと身体を起こした。


「……おはよ……」


 ……寝癖ついてる。


「おはよう。光流くん」


「……ん……」


『光流、お前文化祭行くん?』


「……柊と颯は?」


『俺らはこのままじゃ学校行けねぇし』


「……篝くんも、心配だし」


 光流くんが後頭部を掻いた。


「……先、篝くんとこ?」


「うん。どこにいるのかわからないけど」


 光流くんはベッドから飛び降りて、

 敷布団の横に座る僕へ迫った。


「じゃ、どうすんの!?」


「うわっ!」


 びっくりして、

 思わず目を見開いた。


『急に起きんなよ』


「起きろって言ったり起きんなって言ったり、どっちな〜ん?」


 光流くんはふにゃりと笑って立ち上がった。


「んで?行き先わかんないんでしょ〜?」


 光流くんがスマホをスワイプする。

 そのまま、耳元にスマホを当てた。


『どこにかけてんだよ』


「奏ちゃん!」


「奏さん!?」


「三流派のことは、三流派に聞くのが一番じゃね?」


 光流くんがテーブルに片手を伸ばす。

 あの十字架のネックレスを掴んだ。

 

「かと言って久世家には聞けないし」


 光流くんはスマホを肩に挟んだまま、

 器用にネックレスをつけた。


「……でも」


 奏さんに、篝くんの居場所がわかるのだろうか。


 ——いや、違う。

 奏さんじゃない。


「鈴子さんさ、

 “詠慈にも話してみるといい”って言ってただろ?」


「……うん」


 ——『ただの同級生じゃないわ』


 あの人なら、御影家をよく知っている。


「あっ、もしもーし!」


 光流くんの胸元で、十字架が薄明かりを弾いた。


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:9月12日12時

第三百九話 二人だけで

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