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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
離れられない心音

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第三百七話 優先順位


「成仏してるかわかんない?」


「……うん」


 ちゃぷん。


 僕は湯船に身体を沈めた。


「じゃ、どこにいんの?」


「それを芽衣姉さんが調べてたんじゃないかな?

 その途中で、行方不明になったって聞いた」


 光流くんの手が止まる。


「……行方不明ね……」


『つか!』


「ん?」


『何でお前入ってきてんだよ!!』


 ジャー!


「え?何て〜?」


 光流くんは洗い場で髪を洗い流していた。


『風呂!!何で俺らまだ入ってんのに来てんだよ!!』


「待って聞こえなーい!」


 シャワーの音が風呂場に響く。


『柊!お前も何か言えよ!』


「でも、早く入らないと光流くん風邪ひいちゃうし……」


 あれから、光流くんの家でお風呂を借りた。


 ——『柊、先いいよ!』


 そう言われて先に行かせてもらったけれど、

 光流くんは僕が身体を洗い終えてすぐ入って来た。


 キュ。


 光流くんが蛇口を捻る。


「まあまあ、颯。

 “俺ら”って言っても、今二人で一人でしょ?」


『聞こえてんじゃん』


 シャワーの下で、引き締まった腹筋が目に入った。


「……光流くん、意外と鍛えてるんだね」


「意外って何〜!?」


 光流くんが笑う。


「だって俺、紫苑さんとか柊みたいに霊力バケモンじゃないしー!

 身体くらい鍛えとかないとさ!」


「……そんなことないよ」


 光流くんは、僕よりずっと周りを見ている。


「使えるもん増やしとかないと死ぬじゃん?」


 光流くんが両手で前髪を掻き上げた。

 金髪の先から水が滴る。

 

「で?共霊まだ解けないんだよな?」


 光流くんはボディソープのポンプを押しながら話した。


「ま、しょうがないか。

 あんな状況だったし、まともに話せてないよな」


「……いや」


 紫苑さんとの、戦いの中で。


 ——『消えねぇから!』


「颯の言葉は、聞けたんだ」


 まだ、全部じゃないけれど。


「それでも解けないってこと〜?」


「……わっ」


 光流くんの方から泡が飛んできて、

 僕は目を瞑った。


「あ!ごめん!」


 光流くんの謝る声が聞こえた。

 

 ゆっくり目を開ける。


「……信じてるんだけどな」


 颯のことを守らなきゃとか、

 颯が消えたらどうしようとか。


 そういうの、全く思わないわけじゃない。


 それでも、

 一人で背負おうとはもう思ってない。


『じゃあ何で出られねぇんだよ。早く出せよ』


「いやいや、これ柊だけの問題じゃないでしょ〜」


「……え?」


 僕だけの問題じゃない?


「むしろ颯じゃん?颯って天邪鬼なとこあるし」


 光流くんが身体の泡を洗い流し始めた。


「本当は颯が柊から出たくないんじゃね!?」


『はぁ!?』


「わかった!!

 柊が縛り付けてるんじゃなくて、颯が居座ってんだな!?」


『んなわけねぇだろ!ボケ!!』


「うぇーい!」


 ザバァッ!!


『おい!!』


 光流くんが勢いよく浴槽へ入った。

 お湯が一気に洗い場へ溢れ出す。


「柊って安心感あるもんなー!」


 浴槽の中、

 光流くんが横から僕の肩に腕を回した。


『てめぇ中まで入ってくんな!!』


「柊の中にいるのは颯じゃーん!」


『風呂の話だよ!!』


「……狭い」


 立ち上がろうにも、光流くんの腕が肩に回ったままだ。


「柊」


 至近距離で、光流くんが僕を見た。

 

「家、帰りづらかったら何日でも俺んちいていいよ」


「え?」


「共霊解けないから、帰れないんでしょ?」


 ——『透さんは知っている』


 ——『今の君たちを見ても、きっと驚かないよ』


「……」


 父さんは、僕たちにずっと隠していた。


 でも、それは僕たちも同じだ。


 この姿で帰ったら、きっと何も隠せない。


 父さんのことを聞いて。

 僕たちのことも、話して。


 ……今夜は、無理だ。


『柊?』


 色々ありすぎて、

 僕はまだ整理がつかないんだ。


 隠される方は辛い。


 それでも、

 今すぐ全部と向き合えるわけじゃない。


「……」


 下唇を噛んだ。


「んでも、そのままじゃ学校行けねぇよな!」


 ぱっ、と光流くんが僕から離れる。

 光流くんは浴槽の縁にもたれかかった。

 

「共霊解くのが先?久世紺士と話すのが先?」


「……っ……」


 ——考えることが、多すぎる。


 ポチャ!


 シャワーヘッドから、

 水滴が一粒落ちて跳ねた。


「……いや」


 ——『だから僕も君を守るよ』


 あの、少し困った笑顔が蘇る。


「篝くんが先だ」


 一人にしないよ。


 そう約束したから。


 ——その時。


 バン!!


「!?」


 浴室の折れ戸が勢いよく開いた。


「うっせぇ!!今何時だと思ってんだ!!」


「光知瑠さん!?」


「きゃー!姉ちゃん!えっち!!」


 光流くんが腕を交差させて胸元を隠した。


「ガキの身体に興味ねぇよ!!」


『ひでぇ言いようだな』


「てめぇ夜中にどっか行ったと思ったら、突然ダチ連れて帰って来やがって!!」


「……光流くん」


 横目で光流くんを見た。


「説明してないの?」


「あ〜、ね?」

 

 光流くんが苦笑いする。


「こっちはつわりで気持ちわりぃんだよ!!」


「みっちー、覗きはダメよォ」


 光知瑠さんの背後から麗子さんが顔を出した。


「覗いてねぇ!!」


「落ち着いてェ」


「……な?言わん方が良さそうだろ?」


 光流くんは声を潜めて言った。


 ……心配かけないためか。


「はよ寝ろ!!まだ文化祭あんだろ!?」


「……あ」


 文化祭。

 それが終われば、体育祭。


 父さんから届いたメッセージ。


 ——【体育祭は見に行くね】


 このまま雨が止まなければ、

 体育祭は中止になるだろう。


 ……止まなければ良いと思ってしまった。

 


読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:9月11日21時

第七章 ほどける心音

第三百八話 一人じゃない

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