第十九話 母親は、幸せになっていい【結】
***
Side:颯
俺の目の前で、柊が倒れている。
左の鼻から、鼻血の跡。
光流が、「一気に使いすぎ」とか言ってた。
俺が無茶すると、すぐ止めるくせに。
自分は、いつもここまでやる。
ガキの頃。
俺が木に登って、降りられなくなった時。
お前、木なんか登ったことねぇのに。
どんくさいくせに、必死に登ろうとして。
案の定、落ちて怪我してた。
誰か、助けを呼んでこれば良かったのに。
「お前、アホだよな」
思わず、そう呟いた。
光流が、何か言ってた気がした。
でも、耳に入らなかった。
……わかってる。
言われなくても、わかってる。
だから、今度は俺が守る。
まだ、俺にはできねぇことも多い。
それでも。
お前の前に立つことくらいは、できる。
***
――後で知った話。
意識を失った僕は、光流くんに背負われて運ばれていた。
「この間のお返し〜!」
なんて、笑いながら。
「そう言えば、光流くん。あの時……どうして力ずくで止めなかったんですか?」
「ん〜?間に合うか微妙だったし、まなちゃんの声に“賭け”たの〜」
「……あなたにしては、随分リスキーですね」
「奏ちゃんって、鋭いとこあるよね〜」
光流くんは、少し酸っぱい顔をして言った。
「あの時さ、麗子がまなちゃんのお母さんに霊力送ってたでしょ?あ、守るつもりだな〜って思って。だから“保険”は、もうかかってたわけ」
「……保険、ですか」
奏さんが、ぽつりと呟く。
光流くんは続けた。
「まなちゃんのお母さん、麗子のおかげで電車に当たっても死んでなかったと思うよ。――ご加護の力だね」
「ご加護の力ぁ?」
しかめ面をした颯が、顎に手を当てる。
「“守る意思"を込めてた霊力は、防壁になるの。人間を守る結界みたいなもん。ちなみに、霊害はそれを扱えない」
「……なるほど。だから、霊害を強化することには、ならなかったんですね」
奏さんが静かにまとめた。
「でもさ」
光流くんの声が、少し低くなる。
「本当にリスキーだったのは、俺じゃない。麗子だよ」
颯と奏さんは、顔を見合わせた。
「霊力って、霊にとっては生命力でしょ?あんな使い方したて……下手したら、麗子、消えてたよ」
その一言で、場の空気が凍りつく。
「……だから、あの後、俺に霊害をやらせたのか」
颯が、麗子さんを見上げる。
「放っておけなかったのよ……」
麗子さんは、視線を伏せたまま言った。
「あの子も……あの子のママも」
――あの時、無茶をしていたのは、
どうやら、僕だけじゃなかった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:1月26日21時
第二十話 それでも、チーム




