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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
離れられない心音

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第三百三話 帰る場所


 ***


 Side:柊


 ——『どうせやるなら楽しい方がいいじゃん⭐︎』


 久世紺士はそう言って笑った。


『あいつって、紫苑の父親か?』


「……叔父のはず」


『クソムカつく野郎だな』


 それ以上何か言うより先に、

 紺士の視線は狛さんへ向いていた。


 二人が何か話している。

 強くなる雨音にかき消されて、内容までは聞こえない。


「……葵。早く帰ろう」


「はい。お兄様」


 蒼嶺と葵さんが去っていく。

 もう誰も引き留めなかった。


 屋敷中に響いていた霊力のぶつかり合う音はもう消えていて、雨音だけが響いている。


 ——戦いは、終わった。


 狭霧さんが指示を出したのだろうか。


 改めて辺りを見回す。


 中庭には水が溜まり、割れた瓦や焼け焦げた枝が浮いていた。

 縁側の柱は黒く焦げ、濡れた木肌から白い湯気が上がっている。


 篝くんの焔は、もうどこにもない。

 それでも、雨の中にはまだ焦げた匂いが残っていた。


「……柊くん」


 深雪さんが顔を上げる。

 その目が真っ赤に充血していた。


「巻き込んでしまってごめんなさい。

 迎えを呼ぶから、今日は帰れるかしら?」


「でも……篝くんが……」


 振り返る。


 篝くんは変わらず意識を失ったまま、

 宵くんと灯さんに支えられていた。


「家は燃えてしまった。このまま、ここにはいられない。

 私たちも移動するわ」


 紫苑さんの力で全焼は免れた。

 それでも、庭木の半分は黒く炭化し、

 雨水が煤を溶かして石畳を黒く流れていた。


「狭霧さんが心配ね。

 私は狭霧さんのところへ行ってくるわ。

 宵と灯はそのままかがちゃんをお願い」


 深雪さんが立ち上がった。


「そのあと、侍従と侍女たちの安否も確認してくる」


 こんな時でも、

 深雪さんは冷静に次の判断を下している。


 僕は、まだ全てを整理できてない。

 

「柊くんたちは、母屋の屋根が残っているところで待っていてくれる?」


「……はい」


 ——屋根。


 母屋の屋根を見上げる。

 そこにはもう、紺士の姿はなかった。


「あ……」


『狛さん!!』


 紫苑さんを抱えた狛さんが、

 屋根を降りてくるのが見えた。


 その時。


「柊くん!!」


 見知った声が響いた。


 母屋の方から、

 水の溜まった中庭を走ってくる足音が複数聞こえる。


 振り返ると——


「奏さん!?」


『光流!麗子!!』


「大丈夫〜!?じゃねぇよな〜!?」


「遅くなってごめんなさいねェ〜!!」


 三人とも水に構わず、

 こちらへ真っ直ぐ向かって来た。


「どうしてここへ!?」


 奏さんが僕の目の前で立ち止まる。


「御影家から……はぁ……。

 霧島家に逃げるよう……連絡があったんですよ……。

 詠慈様の判断で……響たちは別の場所へ隠れました……」


「……で、奏ちゃんが……俺に連絡くれて……ふぅ。

 居ても立っても居られなくてさ……」


 奏さんも光流くんも、肩で呼吸しながら話した。


『奏は逃げなくて良かったのかよ!?』


 僕の中から颯が叫ぶ。


「私は……分家の人間ですから……。

 私一人を狙うことは……ないと思って……」


「誰がここまで連れて来てくれたんですか……?」


 まさか。


「斎賀先生……?」


「先生は体育館の件で、警察に行ったきり連絡とれなくなったのよォ〜!」


 僕の質問に麗子さんが答えた。


「代わりに、先生のお母さんが連れて来てくれたのよねェ」


『メガネの母親!?』


「はい。

 先生の実家に連絡したら、鈴子おばさんが出てくれて

 無理を言って連れて来てもらいました」


「そうなんだ……」


 でも今は——。


「紫苑さんが酷い怪我で!篝くんも……!」


「紫苑さんなら東雲警部が!」


 光流くんが指さした方を向く。

 東雲警部と紫苑さんを抱える狛さんが見えた。


「さっき門のところで会ったのよォ!」


「全然話はできてないけどね!

 とにかく、お前ら生きてて良かったよ〜!!」


 光流くんが僕に抱きついた。

 いつもの香りじゃなくて、汗の匂いがした。


「白瀬柊」


 宵くんが僕を呼んだ。


「篝様には、僕たちも深雪様も狭霧様もついてる」


 宵くんの言葉に灯さんが頷く。


「行って大丈夫ですわよ」


「うわ!篝くん!?死んでないよね!?」


「アンタ物騒なこと言うんじゃないわよォ!!」


「いたっ!」


 麗子さんが光流くんの頭を小突いた。


 少しだけ、いつもの日常が見えて、

 どうしようもなく安心してしまった。


「とりあえず、俺んち帰る!?

 柊と颯の家の方がいい!?」


『……光流んちの方がよくね?』


「そうだよね……」


 今、父さんに会って、

 どこから話したらいいかわからない。


「柊くん、颯くん。帰りましょう」


「……うん」


 篝くん。

 すごく、心配だけど。


「すぐ会いにいくから……!」


 今度こそ、君を一人にしない。


 雨と焼け焦げた匂いが残る中、

 僕たちは御影本家を後にした。



読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:9月7日21時

第三百四話 理由の一つ

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