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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
離れられない心音

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第二百九十九話 Episode:狛【立派な人】


 研究所での常夜との戦い、

 そして東雲家別荘での福の一件を経て、

 俺と紫苑は清祓医療院に入院した。

 

 八月四日。

 退院を明日に控えた、この日の午後。


 父さんと狠が俺の病室に来た。


「狛、調子はどうだ?」


 二人とも、重々しい顔をしていて、

 何か大変なことが起こったのだとわかった。


「大丈夫。それより、何かあったんだろ?」


「……実は」


 父さんは立ったまま話し始めた。


「押収されていた常夜の拳銃について、わかったことがあるんだ」

 

 その隣で狠が俯く。

 狠の握り拳が震えていた。


「俺の拳銃のレプリカだった」


「……は?」


「俺が使っている拳銃を再現したものだったんだよ」


 父さんは淡々と話した。

 まるで、感情を殺しているみたいだった。


「今、俺に疑いがかけられている。

 俺は捜査を外れることになった」


「待って。父さんはやってないだろ?」


「ああ。だけど、俺の拳銃を知らないと作れないものだ」


 つまり——?


「犯人は警察の中……しかも、父さんの近くにいるってこと?」


「……」


 部屋に沈黙が流れた。


「……確かに、俺の近くにいる」


 破ったのは父さんだった。


 父さんが隣の狠を見下ろす。

 狠は俯いたまま動かない。


 胸騒ぎがした。


「だけど」


 父さんは続けた。


「警察の人間じゃない」


 ——まさか。


「……狠は、そんなことできないだろ?」


「……俺……」


 狠が、ゆっくりと顔を上げる。

 真っ赤に充血した瞳から、涙が溢れた。


「……俺が……作った……」


「……っ!?」


 狠が機械に強いことはよく知ってる。


 昔から機械いじりが大好きで、

 廃工場で拾ったガラクタだけでロボットを作り出してしまうような子だ。


 技術の話で言えば、できるのかもしれない。


 それでも、

 お前は遊びでそんなことするやつじゃない。


「何のために?パーツはどうやって集めた?

 廃工場で拾った材料だけじゃ無理だろ!?」


 つい、早口で捲し立ててしまった。

 

「……ごめんなさい……」


 狠がぼろぼろ涙をこぼす。

 父さんが狠の肩を抱き寄せた。


「狠。父さんが話すよ」


 ……父さんはもう知ってるのか。


 俺は固唾を飲んだ。


「久世家に頼まれてやったそうだ」


「久世……!?」


「“新しい霊具を作りたいから”と。

 必要なパーツは全て久世家が準備してくれたそうだよ」


「じゃあなぜそれが常夜に渡っているんだ!?」


「狛」


 父さんの声が低くなる。


「常夜と久世家に繋がりがあるのは、もうわかるだろ?」


 ああ。

 心臓がうるさい。


「……はい」


「あのな」

 

 父さんは小さく息を吐いた。

 

「警察に、未損傷パーツを提出したのは久世家なんだ」


「っ!?」


「嵌められたんだ」


「なぜ……!?」


「俺が常夜を調べているのが気に障ったのかもしれない」


 父さんはそう言った後、眉を寄せた。


「……だが、それだけなら回りくどすぎるな」


 違う。

 久世家は、警察も東雲家も恐れていない。


 あの家が一番関心があるのは——。


「久世の、誰が頼みに来たんだ?」


 俺は狠に尋ねた。


 どうか。

 あの人じゃないと、思いたかった。


「……久世……」


 狠は嗚咽交じりに答えた。


「……蒼嶺……様……」


「……っ」


 なぜ、

 嫌な予感は大体当たるのだろう。


 蒼嶺様は、俺と紫苑の仲をよく知っている。


 東雲家を利用して、

 紫苑を揺するつもりなのか?


 ——『どうせなら一緒に特訓しない?』

 

 本当に、あの蒼嶺様が?


「……どうしてそんなことを頼まれたのに、

 俺にも父さんにも相談しなかった?」


「……兄さんが……前に……」


 ——俺?

 

「……蒼嶺様は……立派な……方だと……」


「……」


 俺は手で目元を押さえた。


 そうだ。

 俺が狠にそう話した覚えがある。


 狠を抱く父さんの手に力が籠った。


「これから狠を連れて警察に行く。

 本当のことを話してくる」


「……久世家の指示だと信じてもらえるの?」


「正直、わからない」


 警察上層部と久世家の関係は深い。

 依頼料さえ支払えば、久世は霊の事情に口を挟まず、求められた通りに霊害を処理する。


 警察にとって、扱いやすく信頼できる流派だ。


 そして東雲は、昔からその久世を守る側の家。

 簡単に敵へ回れる立場じゃない。


 それならば。


「……父さん」


 俺は父さんを見た。


「狠は受験生だ。

 これ以上、三流派のいざこざに巻き込む必要はない」


「だが本当のことを話すのが筋だろう」


「握り潰されたら意味がない。話すだけ損だ」


 驚いた。

 まさか自分が、そんなことを言うなんて。


 まるで、紫苑のようだ。

 

「狠。お前は警察官になりたいんだろう?」


「……っ……」


「だったらこんなことで、将来を潰したらダメだ」


 今は受験を控えた、大事な時期だ。

 こんなことで、狠の進路まで潰したくない。


「……でも……俺が……言わなきゃ……、

 父さんがずっと……疑われた……ままだ……」


「どっちにしても、身内がやったことなら父さんは捜査に戻れない。そうだろ?」


「……ああ」


 父さんは静かに目を伏せた。


「だが、警察はすぐに動く。

 明日狛が退院したら、うちに聞き取りに来るだろう」


 東雲家全員に、疑いがかけられているわけか。


「それなら、俺が疑われればいい」


「狛?」


「狠のことは言わなくていい。

 明日、警察が来ても……俺は否定しない」


「兄さん……!」


 狠が犠牲になる必要はない。

 それに、俺にも責任がある。


「……でも……兄さんだって……受験生だ……!

 警察官に……なりたいって……言ってたじゃん……」


「俺はいい」


「よくない……!」


「狛。何を言っているかわかっているのか」


 父さんの表情が険しくなる。


「虚偽の供述になるんだぞ」


「……わかってる」


 犯人にされるのが東雲家の誰だろうと、

 久世家にとってそれは問題ではない。


 久世家が本当に見ているのは、紫苑なのだから。


 ——そこを、何とかしないと。


「おそらく、証拠が揃わないとすぐには立件されない。

 俺なら調査の時間を稼げる」

 

「時間を稼いで、どうするつもりだ?」


「……その間に」


 このことは、すぐに紫苑も知るだろう。

 

 紫苑のことだ。

 きっと何かするに違いない。


 また、俺のために。


 その前に——。

 

「俺が蒼嶺様と話をつける」


 久世家を敵に回す前に。

 まず、俺が蒼嶺様と話さなければならない。


 あの人なら、

 きっと俺の言葉を聞いてくれる。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:9月5日12時

第三百話 Episode:狛【同じじゃない】

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