↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
離れられない心音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
321/373

第二百九十八話 Episode:狛【もう一度】


 穏やかな日々は終わった。


 霊害をばら撒いていたのは、

 常夜ノ会という新しい組織だった。


 三流派以外の勢力。

 しかも過激な思想の組織。


 それでも、

 久世家の仕業でないと知って安心した自分もいた。


「逆に利用すれば⭐︎?」


「……伊吹を?」


 常夜は、かなり早い段階から伊吹に近づいていた。


 おそらく、柊たちが戒に遭遇し、

 俺たちが常夜を知ったあの日より少し前だ。


 伊吹の様子がおかしいことには、

 俺も紫苑もすぐに気がついた。


 伊吹は必死に隠していたようだが、

 ……あいつはわかりやすいやつだ。


「騙されたふりしてた方が面白くない⭐︎?」


 紫苑はどこか楽しそうだった。


 だけど、俺は嫌な予感がしていた。


 常夜が伊吹に近づいたのは、

 伊吹と紫苑が繋がっているからだろう。


 敵は、紫苑を警戒しているんじゃないか。


「だから僕と狛だけの秘密ね⭐︎」


「……危険じゃないか?」


「むしろ相手の動き読めて有利じゃん⭐︎」


「だが……」


 紫苑だけじゃない。


「伊吹が可哀想だ」


「え、何で⭐︎?」


 紫苑が首を傾げる。


「裏切るから悪いんでしょ⭐︎?」


「……」


 裏切り。

 それは、紫苑の心の傷の一つだ。


 許せないのは、わかる。

 

 ……それでも。


「伊吹は、きっと脅されてるんだろう?」


「だろうね⭐︎

 どうせあの弱い守護霊消すとか言われたんじゃない⭐︎?」


 紫苑はスマホを触りながら話した。


「伊吹にとって、福は友達だ」


「……」


 一瞬、紫苑の指が止まった。


「……友達が死人だと大変だね⭐︎」


 また、紫苑の指が動く。

 目線はスマホに落ちたまま合わなかった。


「ま、何でもいいけど今伊吹に言うのはナシ⭐︎」


「何故だ?」


 俺は眉をひそめた。


 伊吹が困っているのだから、

 話を聞いて、助けてやりたい。


「どうせ本当のこと言わないだろ⭐︎

 あいつでも、それぐらいの覚悟してるでしょ⭐︎」


「……っ」


 唇を開きかけて閉じた。


「仮に話したとしてもさ⭐︎?

 あいつ隠すの下手なんだから、僕たちに言ったことが常夜にバレて、ますます追い詰められるんじゃない⭐︎?

 誰も得しなーい⭐︎」


 ……確かに。


 今は、伊吹に話させる方が危険か。


「使える物は使お⭐︎」


「それなら、せめて父さんや光流たちには話さないか?」


「話さなーい⭐︎

 みんな知らない方が自然に動いてくれるし〜⭐︎」


 紫苑が顔を上げる。


「僕は誰も信用してないから⭐︎」


 そう言って、

 紫苑はいつもの笑顔を見せた。


 この五年間で、俺も気づいていた。


 多分、俺は特別だ。

 

 俺にとって、

 紫苑がそうであるように。


 だけど、

 俺は紫苑と同じくらい伊吹のことも大切だった。


 紫苑はそれにも気づいていただろう。


「お前が伊吹助けたいなら勝手にすれば⭐︎?」


 紫苑の視線がスマホに戻る。


「ま、脅されてる原因を何とかしないと助からないと思うけどね⭐︎」


「……そうだな」


 ——伊吹を助けるなら、福のことも避けては通れない。


「お前の家だって、その時が来たら還してるんだろ⭐︎?」


「……ああ」


 東雲家でも、未練がなくなった守護霊は還す。

 ただ、獣霊は言葉で通じない分、難しい。

 

「未練に縛られなくて使いやすいから、東雲家は獣霊なんだって叔父さんが言ってた⭐︎」


「今はそんなことない」


「お前がペット大事にしてるのは知ってるよ⭐︎」


 紫苑はスマホをポケットへ入れた。


「とにかく、作戦は決まったね⭐︎」


「……わかった」


 紫苑のやり方に、全部納得したわけじゃない。

 それでも、

 伊吹を追い詰めないためには、その方がいい。


「……俺たちも、揉めてるように見せるか」


「いいんじゃない⭐︎?

 そうすれば僕が抜ける理由もできるし〜⭐︎」


 紫苑が口元を上げる。


「僕がいないって思った方が、向こうも動きやすいでしょ⭐︎?」


 そうして——その日は来た。

 

 常夜の第三研究所。

 紫苑が来ないと踏んで敵は油断していた。


 そこへ紫苑が奏と篝を連れて潜入した。


 狙い通り、作戦は成功するはずだった。


 ……失敗したのは俺だ。

 

 俺が白寧との戦いで重傷を負ったせいで、

 紫苑は使う必要のなかった禁式を使うことになった。


 救急車の中で見た、

 紫苑の右腰から太腿に広がる赤黒い火傷。


 ——『違うよ。普通に火傷』


 紫苑。

 

 あの時、お前が嘘をついたこと、

 俺はわかっていたんだ。


 お前が、

 篝の焔であそこまで火傷するわけがない。


 それに、

 俺は五年間、ずっと一緒にいた。


 お前の右上半身の火傷跡に、

 気づかないわけがなかった。


 お前がずっと隠していたのは、

 また俺が責任を感じると思ったからなんだろうか。


 お前が禁式を使う時には、

 いつも俺がそこにいた。


 ——『僕、裏切り者は絶対許さないから』


 そう言っていたお前が、

 最後は“友達”って言葉で、伊吹と福を救ったんだろう?


 ……伊吹から聞いた。


 それも、

 少しは俺のためだったんだろうか。


 紫苑は、俺のために無茶をする。


 何度でも。


 これ以上、

 紫苑を傷つけたくない。


 守りたい。


 俺は、もっと強くならなければ。


 今すぐ強くなれないならば、

 もっとよく見て、よく考えて動かなくては。


 あの日、

 もう一度誓った。


 それなのに、

 紫苑は三度目の禁式を使った。


 ——『強くなりたいんだよね』


 蒼嶺様のあの眼差しを、

 俺が忘れられなかったばかりに。

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:9月4日21時

第二百九十九話 Episode:狛【立派な人】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。