第二百八十八話 千秋楽
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御影本家、母屋の屋根の上。
紫苑と蒼嶺が向き合っていた。
蒼嶺がゆっくりと口を開く。
「君の共霊した姿を見るのは久しぶりだね」
「……ああ」
紫苑はにっこりと笑った。
「お前がじじいに乗っ取られた時以来か⭐︎」
「何回目?
父さんから、三回が限界だと聞いたけど」
「三回目がどうなるかまでは知らないよ⭐︎
僕、後継者じゃないし⭐︎?」
「俺は、君の考えてることがよくわからない」
蒼嶺が中庭を見下ろす。
「どうして今ここでそれを使う必要があったの?」
「え〜⭐︎?すごい火事だったから〜⭐︎?」
「消す必要のない焔だっただろ?」
中庭では、篝の元へ柊たちが駆けつけていた。
「……交渉なんて必要なかったよね。
御影は、自分たちの焔で勝手に落ちた」
「そうだね〜⭐︎」
紫苑が中庭を見下ろすと、
柊たちが篝に声をかけているのが見えた。
「でも、止めなきゃ死人が出てたんじゃない⭐︎?」
「君はそういうことは気にしないはずだ」
「……」
紫苑はわずかに目を伏せた。
「……お前、随分変わったね⭐︎」
「変わったのは君だよ」
蒼嶺が視線を戻す。
「紫苑」
紫苑は反射的に顔を上げた。
「呼び捨てすんな⭐︎」
「“自分で堕ちる”って、どういうこと?」
——『天才が、自分で堕ちる瞬間をな』
「なんだお前、ちゃんと話聞いてんじゃん⭐︎」
「わざと力を削るために使ったんだ?」
「別に⭐︎?天才、飽きちゃっただけ⭐︎」
「お婆様……いや。久世家から逃げるために?」
「逃げても追いかけてくるくせに〜⭐︎」
その時、
「……っ、紫苑!!」
屋根の上に、
息を切らした狛が現れた。
蒼嶺がちらりと狛を見る。
「……たった一人、守るため?」
その視線は、またすぐ紫苑へ戻った。
「自ら才能を捨てるなんてバカだね」
——そうだな。
まあ、何とでも言えよ⭐︎
「……守りたいやつ守れないならさ」
紫苑が笑う。
「力なんて、いらないんだよ」
「……紫苑……!」
狛の瞳が揺れた。
その顔を見て、紫苑はほんの少しだけ目を細めた。
「ま。この後、どうなるのかは知らないけどさ〜⭐︎?」
空の三日月を、
ゆっくりと雲が覆い隠していく。
「僕は盤面から降りるから⭐︎」
「……残念だよ。
君は俺が潰そうと思っていたのに」
「じゃ、最後に勝負しとく⭐︎?」
「無駄な戦いは必要ないから」
蒼嶺が紫苑に背を向ける。
「前は無駄でも向かってきてたのにね〜⭐︎」
「……子どもの頃の話だよ」
蒼嶺は足を進めた。
「……蒼嶺様……」
その先には、狛がいた。
「狛。すまなかったね」
蒼嶺が狛の横を通り過ぎる。
「拳銃の件は、こちらで片付けるよ。狠のことも」
「……っ」
狛は何も言わず、ただ拳を握りしめた。
「——御影家は落ちた。
そして、久世の天才もいなくなった」
夜空の三日月は、完全に見えなくなっていた。
雲に隠れた夜空の下、
蒼嶺の声が静かに落ちる。
「あとは霧島だけだね」
「それはどうかな〜⭐︎」
「……霧島家が弱いことは周知の事実だよ。
今だって、援護にすら間に合っていない」
「——でも成金がいるから⭐︎」
紫苑が中庭を指差す。
「あいつ見てなよ⭐︎面白いよ?」
その先には、柊がいた。
「……は?」
蒼嶺が振り返る。
「お前の好きな、“天才”⭐︎」
——バトンタッチな⭐︎
蒼嶺が庭を見下ろそうとした、
次の瞬間。
屋根の大棟の上から、
青白い光が紫苑へ向かって一直線に伸びた。
バチィッ!!
紫苑が腕で弾き飛ばす。
そのまま視線を上げて大棟を見た。
「ひゅ〜⭐︎」
気崩された着物。
結ばれた青い髪。
「三回目、やっぱやったか〜⭐︎」
「叔父さん」
「父さん」
紫苑と蒼嶺の声が重なる。
「相変わらず息ぴったりじゃん⭐︎」
大棟に、紺士がしゃがみ込んでいた。
「見に来た⭐︎」
「……趣味悪⭐︎」
「だって俺も三回目は知らねぇもん⭐︎」
紺士が腰を上げる。
「どこまでやれんのか見たいじゃん⭐︎?」
紺士は肩に手を添え、首を鳴らした。
「ま、読み聞かせとかはできねぇけどさ〜」
紺士の青い瞳が紫苑を捉える。
「最後くらい、叔父さんが遊んでやるよ⭐︎」
紺士が笑う。
「神童サマの千秋楽⭐︎」
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※次回更新:8月27日21時
第二百八十九話 タイトル未定




