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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
離れられない心音

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第二百八十八話 千秋楽


 ***

 

 御影本家、母屋の屋根の上。


 紫苑と蒼嶺が向き合っていた。


 蒼嶺がゆっくりと口を開く。


「君の共霊した姿を見るのは久しぶりだね」


「……ああ」


 紫苑はにっこりと笑った。


「お前がじじいに乗っ取られた時以来か⭐︎」


「何回目?

 父さんから、三回が限界だと聞いたけど」


「三回目がどうなるかまでは知らないよ⭐︎

 僕、後継者じゃないし⭐︎?」


「俺は、君の考えてることがよくわからない」


 蒼嶺が中庭を見下ろす。


「どうして今ここでそれを使う必要があったの?」


「え〜⭐︎?すごい火事だったから〜⭐︎?」


「消す必要のない焔だっただろ?」


 中庭では、篝の元へ柊たちが駆けつけていた。


「……交渉なんて必要なかったよね。

 御影は、自分たちの焔で勝手に落ちた」


「そうだね〜⭐︎」


 紫苑が中庭を見下ろすと、

 柊たちが篝に声をかけているのが見えた。


「でも、止めなきゃ死人が出てたんじゃない⭐︎?」


「君はそういうことは気にしないはずだ」


「……」


 紫苑はわずかに目を伏せた。


「……お前、随分変わったね⭐︎」


「変わったのは君だよ」


 蒼嶺が視線を戻す。


「紫苑」


 紫苑は反射的に顔を上げた。


「呼び捨てすんな⭐︎」


「“自分で堕ちる”って、どういうこと?」


 ——『天才が、自分で堕ちる瞬間をな』


「なんだお前、ちゃんと話聞いてんじゃん⭐︎」


「わざと力を削るために使ったんだ?」


「別に⭐︎?天才、飽きちゃっただけ⭐︎」


「お婆様……いや。久世家から逃げるために?」


「逃げても追いかけてくるくせに〜⭐︎」


 その時、


「……っ、紫苑!!」


 屋根の上に、

 息を切らした狛が現れた。


 蒼嶺がちらりと狛を見る。


「……たった一人、守るため?」


 その視線は、またすぐ紫苑へ戻った。


「自ら才能を捨てるなんてバカだね」


 ——そうだな。

 まあ、何とでも言えよ⭐︎


「……守りたいやつ守れないならさ」


 紫苑が笑う。


「力なんて、いらないんだよ」


「……紫苑……!」


 狛の瞳が揺れた。


 その顔を見て、紫苑はほんの少しだけ目を細めた。


「ま。この後、どうなるのかは知らないけどさ〜⭐︎?」


 空の三日月を、

 ゆっくりと雲が覆い隠していく。


「僕は盤面から降りるから⭐︎」


「……残念だよ。

 君は俺が潰そうと思っていたのに」


「じゃ、最後に勝負しとく⭐︎?」


「無駄な戦いは必要ないから」


 蒼嶺が紫苑に背を向ける。


「前は無駄でも向かってきてたのにね〜⭐︎」


「……子どもの頃の話だよ」


 蒼嶺は足を進めた。


「……蒼嶺様……」


 その先には、狛がいた。


「狛。すまなかったね」


 蒼嶺が狛の横を通り過ぎる。


「拳銃の件は、こちらで片付けるよ。狠のことも」


「……っ」


 狛は何も言わず、ただ拳を握りしめた。


「——御影家は落ちた。

 そして、久世の天才もいなくなった」


 夜空の三日月は、完全に見えなくなっていた。


 雲に隠れた夜空の下、

 蒼嶺の声が静かに落ちる。


「あとは霧島だけだね」


「それはどうかな〜⭐︎」


「……霧島家が弱いことは周知の事実だよ。

 今だって、援護にすら間に合っていない」


「——でも成金がいるから⭐︎」


 紫苑が中庭を指差す。


「あいつ見てなよ⭐︎面白いよ?」


 その先には、柊がいた。


「……は?」


 蒼嶺が振り返る。


「お前の好きな、“天才”⭐︎」


 ——バトンタッチな⭐︎


 蒼嶺が庭を見下ろそうとした、

 次の瞬間。


 屋根の大棟の上から、

 青白い光が紫苑へ向かって一直線に伸びた。


 バチィッ!!


 紫苑が腕で弾き飛ばす。

 そのまま視線を上げて大棟を見た。


「ひゅ〜⭐︎」

 

 気崩された着物。

 結ばれた青い髪。


「三回目、やっぱやったか〜⭐︎」


「叔父さん」


「父さん」


 紫苑と蒼嶺の声が重なる。


「相変わらず息ぴったりじゃん⭐︎」


 大棟に、紺士がしゃがみ込んでいた。


「見に来た⭐︎」


「……趣味悪⭐︎」


「だって俺も三回目は知らねぇもん⭐︎」


 紺士が腰を上げる。


「どこまでやれんのか見たいじゃん⭐︎?」


 紺士は肩に手を添え、首を鳴らした。


「ま、読み聞かせとかはできねぇけどさ〜」


 紺士の青い瞳が紫苑を捉える。

 

「最後くらい、叔父さんが遊んでやるよ⭐︎」


 紺士が笑う。


「神童サマの千秋楽⭐︎」

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:8月27日21時

第二百八十九話 タイトル未定

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