第二百八十七話 天才役
昨日は更新をお休みしてしまい、申し訳ありませんでした。
本日より更新再開します。
お待たせしましたが、引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
***
Side:柊
一閃。
紫色の光が視界を覆った。
次の瞬間——
「……っ!?」
ザパァァァンッ!!
——水!?
巨大な水流が押し寄せた。
身体が流される。
ドゴッ!
「……っ!」
松の木にぶつかった。
僕の背後で、
水流が外壁に当たって跳ね返る。
「……ごほっ、ごほっ!!」
『おい!!大丈夫か!?』
「……うん……なんとか……」
僕は幹に手をつきながら立ち上がった。
「庭が……」
視界が開けている。
下を見ると、
膝近くまで水に浸かっていた。
さっきの水流が、
篝くんの焔を全てかき消したのか。
『今の、篝の親父か!?』
確かに、
狭霧さんの守護霊の力を感じる。
でも——
「……違う……!」
今、この場を支配しているのは、
もっと強力で、
もっと暴力的な力だ。
全身の肌がビリビリと痺れる。
……この感じ。
いや。
紫苑さんは、
さっき僕が、立てなくなるまで殴った。
『おい!あれ!』
颯の声に、反射的に顔を上げた。
屋根瓦の上。
夜空に浮かぶ細い三日月を背に、
あの人の紫髪が靡いている。
「え……!?」
左目はいつもの紫。
右目だけが、深い藍色に煌めいていた。
『あれ、紫苑だよな!?』
心音が、二つある。
——紫苑さんの中に、もう一つ。
「共霊……!?」
紫苑さんには契約霊がいないのに。
しかも、紫苑さんから感じる気配は、
先程まで狭霧さんの中にあったものだ。
——契約したんじゃない。
ドクン。
——「守護契約の強制破棄⭐︎」
——「僕の使い捨ての駒になる⭐︎」
「……まさか」
『あいつ……!』
颯の声が震える。
『顔、どうしたんだよ……!』
紫苑さんの顔の右半分は、
真っ黒に染まっていた。
影じゃない。
皮膚そのものが赤黒い。
——火傷だ。
「……禁式……」
今まで見たことのない、
紫苑さんだった。
紫苑さんが、ゆっくり笑った。
その口元が動く。
「——バトンタッチね⭐︎」
「……え?」
「次は、お前が天才役⭐︎」
次の瞬間——
「白瀬柊!!」
僕の目の前に、
宵くんと灯くんが降り立った。
「あっ……!」
二人とも、輪郭が揺らいでいる。
「早く来てくれ!!」
宵くんが僕の腕を掴もうとしてすり抜けた。
『おい!お前ら霊力——』
「今の私たちじゃ触れられないの!!」
灯さんが、颯の言葉を遮った。
「篝様を助けて!!」
そうだ、
篝くんも……!
頭の中がごちゃごちゃになる。
「早く!!」
「篝様を!!」
宵くんと灯さんに急かされる。
「……っ、でも……!」
屋根を見上げた。
——いない……!?
さっきまでそこにいたはずの紫苑さんの姿が、消えていた。
残っていたのは、
庭に充満する霊力と、庭一面を濡らす水だけだ。
「篝様を!早く!!」
「……っ、うん!」
駆け出す二人の後を僕は追いかけた。
その時、前方から——
「かがちゃん!!」
深雪さんの声が響いた。
「篝くん……!?」
中庭で、
篝くんが仰向けのまま、浅い水に浮いていた。
さっきの水流に、焔ごと吹き飛ばされたんだ。
深雪さんが水を蹴って駆け寄り、
篝くんの身体を抱き起こした。
「かがちゃん!しっかりして!!」
篝くんの頭が、力なく深雪さんの腕に落ちる。
「……」
返事がない。
僕は急いで篝くんへ駆け寄った。
「篝くん!!」
「……」
篝くんの瞼がうっすら開く。
「篝くん!!大丈夫!?」
焦点が合わない。
まるで、抜け殻みたいだ。
「——滑稽ですね」
「……!?」
振り返ると、
葵さんが腕を組んで立っていた。
深雪さんが葵さんを睨みつける。
「あなたたち、かがちゃんに何をしたのよ」
「何かしたのはその男ですよ?」
葵さんが嘲笑う。
「さっきの焔、あなたも見ましたよね?」
「……」
深雪さんが眉尻を下げた。
葵さんが離れの方を見る。
「それにしてもあの水流。
蒼嶺お兄様にあんなことができたなんて——」
バチィッ!!
「え!?」
霊力が弾ける音。
離れじゃない。
母屋の方からだ。
その場にいた全員が、振り返った。
「……あれは……!?」
母屋の屋根の上、
二つの霊力が一瞬、火花を散らした。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:8月26日21時
第二百八十八話 タイトル未定




