↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
離れられない心音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
309/379

第二百八十六話 Episode:紫苑【紫苑】


 七月二十日。

 紫陽花は枯れ、梅雨は明けた。


 雲ひとつない青空。


 ゆきむすめが迎えられなかった季節だ。


「紫苑」


 僕はばあちゃんの部屋にいた。


「何⭐︎?」


 昨日退院して、荷物をまとめるため本家に一晩だけ戻った。

 

 これから、東雲家が僕を迎えにくる。


「使い時を間違えるなと言うたはずじゃ」


「できちゃったのすごくない⭐︎?さすが僕⭐︎」


 ばあちゃんは眉間の皺を深くした。


「何じゃその話し方は!?その髪も!!」


「これ⭐︎?似合うでしょ⭐︎?」


 昨日、退院してすぐ美容院に行って、

 クソ真っ直ぐな髪にパーマをかけてやった。

 

 毛先があちこちに跳ね、長めの前髪も柔らかな曲線を描いている。


「紺士の真似事のつもりか」


「別に⭐︎?僕、叔父さんとは違うし⭐︎」


 僕は笑顔を見せた。


「ばあちゃんもそう言ってたじゃん⭐︎」


「だから期待しておるのじゃ」


 ……過去形じゃないんだ。


「お主はわしのものじゃ。必ず久世に連れ戻す」


「……でもさ⭐︎僕、思ったんだよね⭐︎」


「何じゃ」


「僕、この家嫌い⭐︎古臭いし⭐︎」


「は?」


 ばあちゃんが目を見開く。


「田舎だし⭐︎遊ぶものもないし⭐︎

 歳とった人しかいないし⭐︎従兄妹には嫌われてるし⭐︎」


 順番に指を折る。


「みんな同じダサい髪型だし⭐︎」


 ばあちゃんの拳が震えていた。


「あっ⭐︎!そうだ僕スマホ欲しいんだけど〜⭐︎

 今時みんな本じゃなくてネットで調べ物してるよ⭐︎」


「紫苑……!」


「あはははははは!!」


 背後から、叔父の笑い声が響いた。


「紫苑ちゃん」


 振り返ると、叔父は襖の脇の柱に肩を預け、片足を軽く曲げて煙草を吸っていた。


「東雲家、迎えに来てっぞ」

 

 吐き出した煙が、柱沿いにゆっくり昇っていく。


「じゃーね⭐︎ばあちゃん⭐︎」


 僕は腰を上げた。


「紺士……!」


 ばあちゃんが叔父に向かって何か言っていたけれど、

 僕は聞こえないふりをして玄関へ向かった。


 玄関で靴に足を入れていると、


「——紫苑」


 聞き慣れない声に呼ばれた。

 

 上がり框に腰を下ろしたまま振り返る。


 ——じいちゃんだった。


「餞別だ」


 じいちゃんが差し出したのは、細長い黒い箱だった。


「は⭐︎?」


「あの日、先に祓った方に褒美をやると言った」


 ……さすがに爆弾とかじゃないよね?


 箱を開ける。


「……」


 中に入っていたのは、黒っぽい金属の塊だった。


 柄らしきものと、いくつかの関節。

 折り畳まれているらしい。


「何これ⭐︎」


「振ってみろ」


 言われた通り、柄を握る。


 そのまま、軽く振った。


 ガシャン!!


「……っ」


 金属が連なり、

 一瞬で大きな鉄槌へ姿を変えた。


 ——鉄槌。


 一瞬、爺やの顔が浮かぶ。


「……趣味悪⭐︎」


「お前には似合う」


「それ、褒めてる⭐︎?」


「好きに受け取れ」


 鉄槌を片手で持ち上げる。


 見た目ほど重くない。


 というより、ほとんど重さを感じなかった。


 なるほど。

 これ自体で殴るんじゃなくて、

 霊力を乗せて使う武器か。

 

 じいちゃんが僕を見下ろした。


「二度と、ここへ戻ってくるな」


「……」


 全然、傷つかないや。


「戻るわけない⭐︎」


 じいちゃんに笑顔を見せる。

 

 やっぱ僕、

 この家嫌い⭐︎


 玄関を抜ける。

 もう侍従は誰もついてこない。


 僕は一人で、この家を出る。


 でも、

 悪くない。


 門先にシルバーの車が見えた。

 

 その手前に、大きな人影。


「紫苑様」


 東雲狛。


「その髪……」


「ああ」


 僕は毛先を指で摘んだ。


「お前は真っ直ぐが好きって言ってたっけ⭐︎?」


「いえ。似合うと思っていました」


 狛の口元が緩む。


 あ。

 これ、何回目だっけ?


 ……もう気にする必要ないか。


「紫苑様は、お顔立ちが綺麗ですから」


「……何それ」


 夏の日差しが降り注ぐ。


 身体が溶けそうに暑い。


「女顔なのに⭐︎?」


「羨ましいです。俺は目つきが悪いので」


「……ふはっ」


 思わず吹き出した。


「確かに⭐︎?」


「……行きましょう」


 *


 その夜、狛の家の食卓で、

 大皿に乗った唐揚げみたいなものが出た。


「うちの子たちの大好物なの〜」


 “手羽唐”って言うらしい。


「……しょっぱ⭐︎」

 

 思わず顔をしかめた。


「手も汚れるし⭐︎

 食べ物として効率悪くない⭐︎?」


「……紫苑様?」


「何⭐︎?」


「いえ……。無理はなさらず」


 右隣の狛が、僕に水を差し出す。


「もう一個食べていい⭐︎?」


「……食べるんだ……」


 左隣では、狛そっくりの弟が、

 ほとんど同じ高さから僕を見ていた。


 僕の前方で、狛の両親が笑った。


「たくさん食べてね!!」


 あの日、

 山で見た光景と重なった。


「紫苑様、明日は登校できそうですか?」


「行くつもり⭐︎」


 別に破門されたからって、

 僕が中学生であることに変わりはないし。


 僕はまだ子どもなんだから。


「てか“様”いらなくない⭐︎?

 僕、もう破門されてるんだけど⭐︎」


「でも……」


「友達なんだろ?」


 手羽唐をもうひとつ手に取る。


「“紫苑”でいいよ」


 僕は笑顔を見せた。


 やっぱり、

 東雲家の手羽唐は味が濃すぎる。


 だけど、

 案外悪くない。

 

「紫苑」


 うん。

 

 悪くない⭐︎


 ***


「紫苑!!」


 狛の叫び声が聞こえた。


「やめろ!!」


 僕は一瞬だけ、庭を見下ろした。


 ——『“仏の顔も三度まで”、な』


 きっと、火傷だけじゃ済まないだろう。

 

 それが何?


 僕の名前は、久世紫苑。

 

 神童でも、後継者でも、

 天才でもない。


 笑える場所がある。

 

 そこにいてくれるやつがいる。


 それで十分。


 楽しんでやろうじゃん。

 

 凡才の世界⭐︎

 

読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:8月24日21時

第二百八十七話 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。