第二百八十五話 Episode:紫苑【好きに⭐︎】
「破門な⭐︎」
叔父は僕に指ピストルを向けて笑った。
「……」
僕は目を細めた。
六月二十日。清祓医療院。
僕は一昨日、ここに運ばれた。
「まあすぐ追い出すわけじゃねぇから安心しな!」
パイプ椅子に腰掛けた叔父が足を組む。
「その傷がある程度治ってからだな〜⭐︎俺って優しい⭐︎」
「……僕何もしてないけど」
「舐めんな⭐︎」
叔父が僕の肩に手を置いた。
「い……っ!!」
右肩に激痛が走る。
病院に運ばれてから丸一日、
僕は高熱を出して寝込んでいたらしい。
「ふざけんな……」
僕は叔父を睨みつけた。
「ふざけてんのはお前だろ〜?ガキが禁式使うなよ〜」
叔父はタバコを胸ポケットから取り出そうとして手を止めた。
「ここ病院だったわ⭐︎」
叔父は膝の上に頬杖をついた。
「紫苑ちゃん。禁式使うと何で破門なのかわかる?」
「……それくらい危険な術だから使うなっていう見せしめ」
「そうね。それともう一つ⭐︎」
叔父がまた、指ピストルを僕に向ける。
「邪魔なやつを排除する口実」
「……」
廊下を処置ワゴンが通り過ぎる音がした。
「まあ、一度使ったなら二度目も変わんねぇから。
もうお前うちと関係ねぇし」
「……そう」
「つか、本来なら俺が跡継ぎに教える術なんですけど!
何勝手にばあさんに教わってんの!?あはははは!!」
……うるさ。
「ま、俺優しいから教えといてやるよ」
叔父は笑顔を見せた。
「“仏の顔も三度まで”、な」
なるほどね。
それより、確認したいことがあった。
「……ねぇ。この傷ってみんな知ってるの?」
「いや?禁式使ったことはバレてっけど、
その代償で怪我したことは知らねぇよ」
「……そうなんだ」
「俺が上手くやっといた⭐︎」
こいつは、
人のために何かするやつじゃない。
「叔父さんってさ——」
「東雲の坊やも知らないから安心しな」
叔父の言葉に遮られる。
「でも守護霊がお前に奪われて消えたことは知ってるよ」
「……」
もう、あの狼とは共霊してないのに、
胸の奥が少しだけ痛んだ。
「紫苑ちゃんのこと見舞いに行きたいって言うから、
大したことないから来んなって言っといた〜⭐︎」
「……へぇ」
叔父にお礼は言わない。
僕のためじゃないだろうから。
「それにあいつ余計なことするしな」
叔父が胸ポケットを探る。
シャラン。
「——っ!?」
オルゴールみたいな音。
シルバーの宝珠。
叔父が紐をつまんで掲げた。
「それ……っ!」
手を伸ばしたが、かわされた。
「これね、子どもの方なの⭐︎」
「は?」
「親の鈴があんだよ」
「……親の?」
「うちの地方のやつじゃないし。
お前は子どもの方しか持ってなかったから、気づかなかったんだと思うけど」
シャラン……。
「術がかけられてる。GPSみたいな⭐︎」
「……あ」
「だから、ガキでもお前の位置わかったんだよ」
——『紫苑!!』
あいつは、
ずっと守ろうとしてたのか。
「しかし狼って足速くてびっくり⭐︎
まあ悪い結果にはなってねぇから許すけど」
「……返してよ」
「ん?ああ」
放り投げられたお守りを両手で受け止めた。
「お前のだもんな」
叔父が口の端を吊り上げて笑う。
キモ。
……僕も相当キモいけど。
「で、今後の話ね」
そうだ。
僕、破門されたんだった。
「東雲家がお前の面倒みるってよ」
「……は?」
あの食卓の映像が蘇った。
「つっても中学出るまでな?
東雲家だって俺んとこの傘下なんだから、
お前がいるの本当はよくねぇんだよ」
何で、狛の家が?
「でも、僕は狛の守護霊を奪って消した。
狛も僕を守ろうとして死にかけた」
「そんな風に思ってねぇんじゃん?知らんけど⭐︎」
「……金はどうするの?」
「ばあさんが出すって」
叔父が椅子から立ち上がる。
「ばあさん、まだ諦めてねぇよ」
目が合った。
「……そう」
僕が生きている限り、
僕の力は狙われる。
たとえ、久世家の人間じゃなくなっても。
「あおちゃんと結婚させればいいとか、
トチ狂ったこと言い出したから笑っといた⭐︎」
「はあ?」
「碧ちゃんがブチギレてたけど⭐︎あはははははは!」
「……蒼嶺は?」
「お?お前が蒼ちゃんのこと気にすんのめずくね?」
「別に」
——『俺は、紫苑より強くなるんだ……!』
結果的には、
これで蒼嶺が後継者だ。
「……ちょっと思い出しただけ」
「なんだかんだ似た者同士だもんなお前ら。
ちなみに蒼ちゃん今メンブレ中だよ⭐︎」
叔父は出口へ足を進めた。
「これであいつもちょっとは俺の跡継ぎらしくなんだろ」
こいつ、どこまで予想してたんだろう。
「……叔父さんの掌の中か……」
「ん?なんか言った?」
叔父が振り返って僕を見る。
「良かったな。しばらくモラトリアムじゃん」
「……」
“良かった”のか?
僕は破門されて、久世家を出る。
もう後継者にはなれない。
これから、東雲家で暮らす。
だけどばあちゃんは諦めてない。
それでも、
自分の気持ちはよくわからない。
悔しい?
悲しい?
嬉しい?
……どれも違う。
「好きにやったら?お前天才なんだし」
「好きに……」
僕は、
本当は何がしたかったんだろう。
——シャラン。
目線を手元に落とした。
「……」
——狛の誕生日って、いつなのかな。
「てか俺、前からそうやって言ってるけどな!
あはははははは!!」
そんなこと言ってた?
まあいいや。
「叔父さん」
「何?そろそろヤニ切れやばいんだけど⭐︎」
僕は笑顔を見せた。
「僕、好きにするね⭐︎」
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:8月23日15時
第二百八十六話 Episode:紫苑【紫苑】




