第二百八十四話 Episode:紫苑【お別れ】
「つか可愛いね⭐︎狼人間?」
叔父が笑う。
「東雲家のペット?」
「……紺士か」
蒼嶺の姿をしたじじいが、
腫れ上がった顔で叔父を見た。
「じーじ、久しぶり⭐︎
相変わらずイカれてんな!」
叔父はタバコの煙を吐き出した。
「俺、デカくなったっしょ?」
「そんな話し方ではなかったはずだが」
「そりゃもうガキじゃねぇからな」
叔父はわずかに目を伏せた。
だがすぐにいつもの笑顔になる。
「つか、蒼ちゃんの姿したじーじと話すのキモ!
あはははは!!」
湿った山に、
叔父の明るい笑い声が響く。
じじいが僕を指差した。
「紺士、紫苑を討て」
「いやいや⭐︎誰にもの言ってんだよ〜!」
叔父が顔の前で手を振る。
「俺が当主な?あはははははは!!」
「……笑いすぎだし」
僕は思わず呟いた。
「——蒼ちゃん」
叔父の声が低くなる。
「当主になりたいんでしょ?」
『……っ……!』
じじいの手が、ぴくりと動いた。
——蒼嶺だ。
「こんなところでじーじに負けていいの?」
「あ……!?」
じじいの表情が歪む。
「……ぐぅっ……!!」
じじいを包む霊力が激しく揺らめいた。
次の瞬間。
——ピシッ!
光が、星を描くように走った。
「これって……」
——霧島家の術だ。
僕は叔父を見た。
「若者に教えてもらったの⭐︎
あ、でもあいつもう若くねぇな!」
「……クソ……!紺士……!!」
軌跡が光を帯び、
蒼嶺の身体からじじいが抜け出る。
「まあ正確には人に取り憑いた霊害を引き剥がす術らしいんだけどね⭐︎」
蒼嶺の髪色が元に戻っていく。
「共霊も似たようなもんじゃん?
ちょっと応用してみた!できたっぽいね⭐︎」
「……う……っ……」
共霊は解け、蒼嶺の膝が崩れた。
「ま、蒼ちゃんの力もあるか」
叔父は蒼嶺を支えることなく、僕へ視線を向けた。
「後はガキの仕事な⭐︎」
「……祓えってことね」
『ヴヴ……』
僕の中で、狼の気配が弱まっていた。
「そろそろ時間切れか」
「くっ……」
身体を失ったじじいの霊が、川上へ走り出した。
「……ダサ」
拳に霊力を灯す。
ヒュッ。
一瞬で、
間合いを詰める。
「……なっ……!」
「じゃあね」
ドガァァァンッ!!
拳が、じじいの腹部を突き抜けた。
「……小僧……!」
じじいの輪郭が崩れ、
光の粒へと変わっていく。
半分消えかけながら、じじいが叫んだ。
「お前は……後継者にはなれんぞ……!!」
最後まで、それ?
「どうでもいいよ」
大きな川石の陰に横たわる狛を見る。
「……守れたから」
シャラン。
鞄の中で、鈴の音が鳴った。
その時。
「——蒼嶺!!」
川下から、
じいちゃんと久世家の連中が現れた。
じいちゃんは僕に見向きもせず、
倒れた蒼嶺の元へ一直線に走っていく。
……霊害祓ったの、僕なんだけど。
まあ、どうでもいいや。
「早く救急車を!!」
蒼嶺を抱き寄せるじいちゃんの横を通り過ぎた。
『ヴヴー……』
狼が弱く唸る。
「……ちゃんとお別れしたいんだろ?」
狛のところへ向かって歩いた。
「……狛」
しゃがみ込んで顔を覗く。
まだ、意識が戻っていない。
「お前の守護霊、借りたよ」
「……」
「返せないらしいからさ。ごめんね」
『ヴォン……』
「この狼、喋んないから細かいことはわかんないけど」
僕は胸に片手を当てた。
「たぶん……悲しんでる」
だって、胸が痛い。
これは狼の感情だろう。
共霊してるから、わかってしまう。
「……っ……」
狛の瞼が、わずかに開いた。
「あ……」
狛の手が静かに伸びる。
大きな掌が、僕の頭を撫でた。
——温かい。
「……」
きっと狼に、何か伝えてるんだ。
そう、狼に。
……わかってる。
「……ふ……」
狛の口元が緩んだ。
——四回目。
……喜んでいるのは、
狼だけじゃないのかもしれない。
胸の奥が、じんわりと温かくなるのと同時に、
僕の中で狼が消えていくのがわかった。
これは、成仏じゃない。
——消滅だ。
「……あっ……!?」
狼の気配が完全に消えた瞬間、
右上半身が強烈な痛みに襲われた。
慌ててシャツを捲る。
——なんだこれ……!?
皮膚が赤黒く焼けている。
血の匂いが鼻をさした。
「……うっ……うう……!!」
意識が、遠くなる。
痛すぎると気絶するって、
本当だったんだ。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:8月23日12時
第二百八十五話 Episode:紫苑【好きに⭐︎】




