第二百七十三話 Episode:紫苑【春】
あの一件の後、
ばあちゃんの指示で、僕の侍従は日替わりになった。
爺やみたいなやつが、
二度と現れないようにするためだろう。
そんなこと、心配する必要なんてないのにね。
だって。
僕は誰も信用しないから。
今も、これからも。
そうして、
月日は流れ、僕は十二歳になった。
中学へ進学する前の春休み。
僕は、ばあちゃんに呼び出された。
「紫苑」
ばあちゃんの顔つきは、
いつにも増して険しかった。
「蒼嶺が、守護霊をつけた」
「……ふーん」
あいつ、弱いもんな。
僕より三つ上の蒼嶺は、
もうすぐ高校生になる。
そういう時期だったのだろう。
「蒼嶺についた守護霊は特別じゃ。
本来は、お前につけるつもりで残しておいたものを……」
ばあちゃんは苛立っていた。
「紺士め」
——『蒼ちゃんが使えば⭐︎?入学祝い⭐︎』
叔父の軽口が聞こえた気がした。
知らないけど、
どうせそんな感じだったんだろう。
「別に僕、守護霊とかいらないよ」
霊と一緒にとか、だるいし。
「そういうのって一人で戦えないやつがするんでしょ」
「……それもそうじゃな」
ばあちゃんは、あの満足そうな笑みを見せた。
キモ。
だけど——
「守護霊つけたって、僕が蒼嶺に負けるわけないじゃん」
ばあちゃんを喜ばせることを言ってしまう。
そう刷り込まれてる、
自分が一番キモかった。
「紫苑、お前に護衛役をつける」
「は?」
「念の為じゃ。
万が一の時があれば、そいつがお前の盾になる」
「護衛とかいらないんだけど」
「勝手に盾になる。放っておけばよい」
……盾ねぇ。
僕の邪魔にならなきゃいいけど。
その時は、
それくらいにしか思ってなかった。
*
四月。
僕は新しい制服へ袖を通した。
黒い学ラン。
裾も袖も少し大きかった。
「え!何それ可愛いー!!」
叔父は笑って言った。
「ぶかぶかじゃん⭐︎!!」
「……」
……ちゃんと背、伸びるんだろうな?
「ついてるし⭐︎」
叔父は僕の髪についた花びらを摘んだ。
——桜。
庭先の木を見上げる。
久世家には似つかわしくない色だけど、
日本庭園には外せないアイテムなのだろう。
「入学おめでと⭐︎」
「……どーも」
「じゃ俺、蒼ちゃん見に行こ〜⭐︎」
蒼嶺も今日が高校の入学式だった。
「紫苑様、お車の準備ができております」
「……ん」
侍従の後について、門をくぐった。
門先に黒いリムジンが見えている。
春風が吹き抜けた。
桜吹雪が舞う中——
そいつは、僕の前に現れた。
「……初めまして」
学ランに身を包んだ、背の高い少年。
百七十は優に超えていそうだ。
だけど顔にはまだ幼さが残る。
「は?」
僕は彼を見上げた。
「東雲狛です」
鋭い眼差し。
「今日から、あなたをお守りします」
春の日差しは、
少し暑いくらいだった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:8月15日12時
第二百七十四話 Episode:紫苑【盾】




