第二百六十九話 Episode:紫苑【天才】
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Side:紫苑
僕は、生まれた時から特別だった。
知能、身体能力、霊力。
どれをとっても普通じゃなかった。
「神童」
「後継者」
「天才」
みんな、僕のことをそう呼んだ。
僕は紫苑って名前なのに。
まあ、どうでもよかった。
それが当たり前で育ってきたし。
それから、
僕の家には、僕のことを好きな人と嫌いな人がいた。
いや、“僕のこと”じゃないな。
“僕の才能を”、
好きな人と嫌いな人がいた。
「紫苑。お前は久世の後継者になるのじゃ」
先代当主、久世紫乃。
僕のばあちゃん。
彼女は特別、僕の才能が好きだった。
「久世家は、強い者が正義じゃ」
「……」
じゃあ、僕が正義ってことね。
ちなみに、
慣例なら後継者になるのは当主の子ども。
僕は当主の甥だから、順番で言えばちょっと外れてる。
でも、ばあちゃんには関係なかった。
一番強い奴が継げばいい。
それだけ。
その当主というのが、叔父。
「紫苑ちゃーん!
相変わらず可愛い顔してんね⭐︎」
久世紺士。
真っ直ぐな青髪を、
いつも上半分だけ後ろで結んでいた。
叔父は僕と同じ、まあ天才側。
大して努力しなくても、
それなりに何でもできるタイプ。
「でも霊力強すぎてキモ⭐︎」
こいつは、
僕のこと、多分嫌いじゃなかった。
「じいさんは蒼ちゃんを後継者にしたいんだってよ⭐︎」
僕のじいちゃん、久世縹一郎。
じいちゃんは、ばあちゃんが嫌いだった。
僕が当主になれば、
またばあちゃん派がデカい顔をする。
それが嫌だったんだろうね。
それに——
僕は、ばあちゃんに似てたらしい。
容姿も。
才能も。
僕は、何でも簡単にできた。
でも蒼嶺は違った。
できないことを一つずつ潰していく。
じいちゃんは、
そういう人間の方が好きだったらしい。
別に、どうでもいいけど。
「まあ俺もばあさんにデカい顔されんのムカつくから、
お前が後継者になんのは勘弁⭐︎」
叔父は、昔からばあちゃんが嫌いだった。
だから後継者争いに限れば、
叔父もじいちゃんと同じ側だった。
二人だって、別に仲良くないのにね。
「そうそう⭐︎
浅ちゃんなんか、もうすぐ死ぬらしい〜⭐︎」
叔父は、いつも通り笑って言った。
「せっかく俺に似たのにね」
叔父の長男の浅葱は、
難病だかなんだかでずっと病院にいた。
可哀想。
せっかく強く生まれたのに。
あ、病気の時点で強くないのか。
浅葱は、十歳の誕生日を迎える前に死んだ。
僕が四歳の時だった。
だけど、久世家はいつも通りだった。
次の日も訓練はあったし、
大人たちは後継者の話をしていた。
その時も、叔父は笑っていた。
——子どもが一人死んでも、
こんなもんなんだ。
僕も別に悲しくなかった。
浅葱とは、会ったこともなかったから。
まあ、どうでもいいけど。
僕の両親はどうだったのかって?
二人も、僕を後継者にしたがってたらしい。
僕のことが好きだったのか、
僕の才能が好きだったのかは知らないけど。
父は僕が二歳の時に消えた。
今生きてるのか死んでるのかもわからない。
その半年後、母は久世家を出た。
……じいちゃんが何も知らないとは思えないけどね。
だから、
僕には両親の記憶がほとんどない。
——抱っことか、してもらったのかな?
まあ、どうでもいいけど。
後継者になるなら、なるし。
ならないなら、ならないで別に。
僕はそんな感じだったけど、蒼嶺は違ってた。
「後継者になるのは、俺だよ」
小さい頃から、蒼嶺は僕に宣言していた。
「俺は紫苑より強くなるんだ」
そう言って、
蒼嶺はいつも本家の訓練場にこもっていた。
蒼嶺は誰より、僕のことを嫌っていた。
比較したり、
嫉妬したり、
努力したり、
凡才って、大変だな。
僕にとっては、どうでもよかった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:8月11日21時
第二百七十話話 Episode:紫苑【凡才】




