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二つの心音――弟が守護霊になって帰ってきた  作者: しょう
離れられない心音

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第二百六十八話 ばいばい⭐︎


 ***


 Side:紫苑

 

「……やっぱバカだなあいつ⭐︎」


 柊は焔の中へ飛び込んで行った。


 ——バカと天才は紙一重、ってか⭐︎


「紫苑、待っててくれ!俺も追う!」


 狛が僕の腕を肩から下ろす。


「お前は無理でしょ。凡才なんだから」


 ため息を吐いた。


「じゃあどうするんだ!?」


「僕がやるよ」


「は!?」


 足元が、わずかにふらつく。


 それでも——


 次の瞬間、縁側へ降り立つ。


「ねぇ、当主様⭐︎」

 

 狭霧はしゃがみ込み、柱にもたれかかっていた。


「柊じゃなくて、僕に賭けてみる⭐︎?」


 狭霧の耳元に顔を近づけた。


「———⭐︎」


 その直後、


 ガシャン!!


 屋根瓦を踏み締める。


 屋根へ跳び上がった僕を、

 狛が庭から見上げていた。


 屋根の上。

 僕より少し低い位置に蒼嶺が立つ。


「……蒼嶺様……!!」


 狛の声。


 蒼嶺は、口元を緩めながら庭を見下ろしていた。


 その視線の先には——篝。


 こいつら、

 本当、篝が好きだな。


 本当に危険なのは、

 篝なんかじゃないのに。


「おい蒼嶺⭐︎当主様が、降参するってよ⭐︎」


「……へぇ」


「御影は、これから久世に従うって⭐︎」


「本人の口から聞かないと、何とも」


 ……だる⭐︎


「ねぇ、当主様ー!」


 僕は屋根上から狭霧を呼んだ。

 

 狭霧が顔を上げる。


「降参するよね⭐︎?」


 僕の言葉に、

 狭霧は燃え広がる庭を見た。


 その向こうにいる、篝を。


「……ああ」


 狭霧は静かに頷いた。


 何か、覚悟するように。


「御影は、今後久世家に従おう」


 その瞳に迷いはなかった。


 うん、十分⭐︎


 これ以上、御影が傷つく必要はない。


 あとは僕が、好きにやるだけ。


「ほらね⭐︎これでもう良いよな?」


 蒼嶺を見る。


「二度と狛に手を出すなよ⭐︎」


「……ああ」


 蒼嶺は篝を見ながら答えた。


「なんてね⭐︎

 どうせ約束しても意味ないからさ〜⭐︎」


 だったら。


 狛を狙う理由そのものを、なくせばいい。


 ゆっくりと、指先を動かした。


 ——怖いかって?


 まあ、多少はね⭐︎


 二回分の代償、

 まだ右半身に残ってるし⭐︎


「紫苑!!」


 狛が叫んだ。


「やめろ!!」


「蒼嶺。

 お前が一番見たかったもの、見せてあげるよ⭐︎」


 指先で空間をなぞった。


 見えない糸をほどいていく。


「お前らが欲しかったのって、天才の僕だろ⭐︎?」


「紫苑、何を考えてる」


 蒼嶺が目を細めた。


「僕はさ〜⭐︎

 生まれた時から才能なんていらなかったんだよね〜⭐︎」


「紫苑!!ダメだ!戻れなくなるぞ!!」


 禁式は、三回目。


 ——知ってるよ。


「お前が犠牲になるな!!」


 ほんの一瞬だけ。

 狛を見た。


「……犠牲、ねぇ⭐︎」


 僕は口の端を吊り上げた。


 さっき分かった。


 あいつ、

 僕をぶん殴れるところまで来たんだよね。


 ——もう大丈夫だろ⭐︎


 力なんて、いらない。


 それより。


「たった一人欲しかっただけ」


 ——信頼できる、人間が。


 だから、もう良いんだ。


 天才なんて、

 こっちから辞めてやるよ。

 

「よく見とけ」


 指先が止まる。


 僕は蒼嶺を見下した。


「天才が、自分で堕ちる瞬間をな」


 世界が、

 音を失っていく。


「久世禁式」


 月光が、僕の顔を白く照らす。


 あーあ。

 この顔、結構好きだったのに。


 右目の奥が、焼けるように疼いた。


 まあ……どうでもいいか⭐︎

 

「契絶(けいぜつ)」


 ——ばいばい、天才⭐︎



読んでくださってありがとうございます。

※次回更新:8月10日21時

第二百六十九話 Episode:紫苑【天才】

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