第二百六十六話 君みたいには
「五年前の、七月」
蒼嶺は口元に薄い笑みを浮かべながら話した。
「覚えてる?
君が、どうやって双子と契約をしたか」
「……」
——僕には、抜け落ちている記憶がある。
宵と灯が僕の守護霊になった日から、
数日間の記憶。
ずっと、思い出さなくても良いと思っていた。
記憶がなくても困らなかったし、
何より——
『篝様、奴の戯言に耳を貸す必要はありません』
『どうせデタラメですわ!』
二人が、
思い出したくないみたいだったから。
だけど。
——『教えてください』
君だったら、
きっと真実から目を逸らさない。
前に進むために、知ろうとする。
だから、僕も。
「……僕が入院していた病院」
篝は蒼嶺を真っ直ぐに捉えた。
「そこで、宵と灯に出会ったはずです」
『篝様……っ!』
灯の声。
篝を纏う、二人の霊力が揺れた。
「そうだね」
蒼嶺は肩に落ちる髪を指で払った。
「その病院がどうして閉院したか、知ってる?」
「……いえ」
知るはずもなかった。
どこの病院だったのかも、
篝は思い出せないのだから。
「——火災だよ」
蒼嶺の言葉に、篝の目が見開かれた。
「深夜の小児病棟」
「……まさか……」
「死者も出てる」
蒼嶺は淡々と続けた。
「亡くなったのは、入院していた子どもだよ」
「……あ……」
——耳鳴り。
頭の奥を、強く揺さぶられるような痛み。
篝は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
記憶が、蘇る。
——『祓うのも成仏も一緒だろ』
祓い師の男。
——『僕たちは……ただ……もう少し外の世界を見てみたかっただけなんだ……』
肩を震わせる宵。
——『まだ消えたくないの!!』
泣き叫ぶ灯。
燃え盛る焔。
焦げたカーテンの匂い。
鳴り響く非常ベル。
『黙れ!久世蒼嶺!!』
宵の叫びは届かなかった。
「——やったのは、君だ」
「……僕が……」
『違いますわ!篝様じゃない!』
「何の罪もない子どもを殺した」
『やったのは僕たちだ!!』
蒼嶺と、宵と、灯の声が、
篝の頭の中で絡み合う。
「そうして、君は強くなったんだ」
——僕たちは、やっと
答えに辿り着いたと思ったのに。
——『誰かを守るために使えば、きっと孤独じゃないよ』
力を、
守るために使いたいと思ったのに。
——『僕は……篝くんの味方だからね』
君みたいに。
「今更、善人のつもり?」
「……そっか」
篝は、小さく笑った。
——初めから、違ったんだ。
ゴオォォォッ!!
猛炎が、篝の中から吹き出した。
火柱が走る。
庭を一瞬で、赤く染めていく。
燃えていく。
『篝様!あなたの焔は守る力ですわ!!』
『白瀬柊の言葉を忘れたのですか!?』
二人の声も、届かない。
何もかも、焼き尽くされていく。
——僕は初めから、
君みたいにはなれなかった。
読んでくださってありがとうございます。
※次回更新:8月9日12時
第二百六十七話 届いた声




